新春特別講演会③ 伊那食品工業最高顧問 塚越寛氏 社員の幸せを追求する「年輪経営」2025年2月5日
新春特別講演では、伊那食品工業最高顧問の塚越寛氏のインタビュー動画を放映した。同社は1958年に寒天の事業で設立され、今では売上高200億円を超えて社員は600人近く。安定した成長の背景には、社員の幸せを追求する「年輪経営」がある。インタビューには塚越英弘社長も同席した。聞き手は農業協同組合研究会会長の谷口信和東大名誉教授。
社長になった頃は設備も古いし水仕事で同業他社も多く、とにかく人が集まらない会社でした。人材が集まるようになったのは会社のイメージ作りもあり、事務所を建て替えてからです。最初は和菓子用の寒天だけでしたが、研究開発で寒天の技術を使った様々な製品に広げました。寒天は海藻から作られる天然のものなので製品のイメージは悪くありません。生産性を上げて売り上げを少しずつ伸ばし、赤字が一度もない企業になりました。
設立当時は寒天の原料調達に苦労しました。そこで粉末ジュースを作ろうと自分で研究を始めたことが研究開発の原点です。優秀な人材が入りはじめると、社員を大事にする会社という評判を聞いてか、一時は競争率が50倍にもなりました。会社も軌道に乗り研究開発費も徐々に増やしました。主用途の和菓子以外の業界開発に取り組み、そのための研究開発も進みます。短期間に全国7カ所に営業拠点も作り新しいユーザーも作ることができました。
社員が自分の会社と思ってもらえば経営者的な発想になります。自分たちの会社だから自分たちのために働く仕組みでなければだめです。そのため、会社としての数値目標ではなく、営業は自己目標を作り、それをチームや営業所単位で考えます。社員の待遇や賃金を改善することは私の仕事だと思っていますから「私が労働組合の委員長」と宣言しました。
労働環境も改善しました。冬の寒い時期に、つらい水仕事の作業環境から抜け出せないかと「長靴さよなら運動」を行いました。運動靴で仕事ができるような環境にしたかった。そのために水が漏れないような設備にしました。
コミュニケーション戦略も重要です。月に1回、全員が集まる仕組みを作っています。横の連携、仲間意識があるから楽しい。社員旅行も盛大で50周年の時は欧米にも渡航しました。
農業生産法人も作りました。食とつながっていたかったからです。震災を契機に米を備蓄するようにして、昨年の米不足の時にはみんな助かりました。水も同じです。地下水をくみ上げたタンクがたくさんあるので、地震が来たらタンクの元栓を締めるようにと指示しています。
急成長するような特別な年はありません。数字にこだわるのではなく、経営は「年輪」のようなものと考えて「年輪経営」としました。年輪のない年はありませんし、いい木材は年輪の幅も狭くしっかりしています。会社もそのようにありたいと少し理屈っぽく考え、歩んできました。
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