【第58回JA全国女性大会特集】 社会変革は女性の力で 小林綏枝(本紙論説委員、元秋田大学教授)2013年1月21日
・「忙しい」「忙しい」
・例えば「一円」の話し
・仲間と話し合う
・夢の数々
・新たなうねりを
1月21、22日の2日間、東京都内で第58回JA全国女性大会が行われている。JAcomでは、「日本農業の未来を創る女性たち」をテーマに識者による提言、インタビュー、座談会などの特集を企画した。
◆「忙しい」「忙しい」
「私まで出てどうするの」「お父さんだけでもお役は山のよう。私まで留守にしたら家はどうなる、家事や家族はどうする!」
「女性の力で社会変革」「未来を創る」などと云うとこんな声が返ってきそう。確かにその通り。今や農家の女性といえども家事と農業だけに専念している人は少数派。多くの人が何らかの仕事に就いて家を空けることも多い。主婦ばかりではない。夫たちもまた農外就業は一般的である。かくして現代の暮らしは農村・農家といえどもとにかく忙しい。男も女も子供達も。
こういう状況下でいきなり「社会変革」等と武張ったことを云えば、当然このような反撃が起きるだろう。
どうしたら今回の大会スローガンを身近にたぐり寄せられるか。この課題への言及は日頃、「女性の」とか「社会参画」とかから間をおいてきた身にすれば柄ではないが、少し考えてみたい。
◇ ◇
もう数十年の歳月が経過したが私が農家生活や農村調査を始めた頃、家の外へ出たくても出られなかった若嫁さんたちがいっぱいいた。地域婦人会や農協婦人部への出席自体が姑への気兼ねや農作業、家事に追われてままならない。「出たくても出られない」と若嫁さんたちは嘆いていた。今、そんな気遣いは昔語りになった。それを最も如実に示すのが女性の労働力化、家庭外・農外就業の急増である。かつて主婦が家庭外に職を求めるという事は、よほどの困窮かあるいは専門的キャリア職以外にはあまり見られなかった。今はどうだろう。専業主婦の方が珍しい。変わりがないような日常だが変化は着実に進んだのだ。
報道によれば内閣府調査によると「夫は外、妻は家庭」と云う意見への賛意が初めて増加に転じたそうだ。これは過去数十年間減り続けてきたものである。就業条件の改善が進まず、雇用先の確保も困難な昨今、女性の就業に対する気風にも変化が生じてきたようだ。このような状況を踏まえてささやかな夢を語りたい。
女性の社会参画や未来に向けての働き場所は、何も議員や大臣、知事になるばかりではあるまい。最も多くの女性たちが既に果たしている社会への参画方式に則って、その事実の上にたち一層の改善や進歩の道を探ってみたらどうだろう。
◆例えば「一円」の話し
最近、ユニークな活動により注目されるJAの話を伺った。その一つA農協では、職員総数の3.5割が非正規臨時職員、同じくB農協でも4.2割強が臨時職員だ。おそらく全国の各JAもこう云った比率の職員構成であろう。そして臨時の中には多くの女性が含まれていよう。JAと云う業務内容や季節性からして非正規職員が多くなるのも止むを得ないかもしれない。だがもしこの職員の労働条件を少しでも向上出来れば、大いにやりがいも増し地域も組織も活気づくのではないか。
もちろん非正規職員が組合員であるとは限らない。むしろ非組合員の方が多いかも知れないし、賃金の引き上げは一見組合員たる女性の利益に反するかもしれない。しかし少しずつでも身じろぎして身の回りに自治の余地ができれば、心も地域も組織も大いに生き生きしてくるのではないか。
◆仲間と話し合う
私はかつてある県の最低賃金決定に関わった事がある。労働者側と経営者側、第三者側委員の三者で最低賃金をいくらにすべきか検討するのである。時給1円をめぐる攻防が続き、その深刻さと値上げの困難さを経験した。だから上記の試みが生易しいものではなく、役員や他の組合員との摩擦も並大抵ではない事は承知している。だが、仮に要求がまとまれば、相手は政府でも知事でも首長でもない。同じ仲間内の役員との話し合いだ。活動は支店を拠点にと叫ばれ、地域の協同が重視されるこの頃ではより身近な支店責任者との話で事は進むかもしれない。もちろん身近なればこその話しにくさもあろう。しかしそれを云っていては何も始まらない。
日本の男女間労働条件の格差は国際機関の批判を浴び続けている。就業の場こそ女性の社会参加が最も進んだ分野、その条件の改善が男性を含む時給改善として身近な組織内で始まればと夢見るが、これは絵空事であろうか。今や日本では男性すら雇用の安定が危ういのだから。
◇ ◇
女性に話を戻そう。日本の女性たちは様々な男女差別を克服してきた。なかでも1975年の国際婦人年を機に「30歳定年制の撤廃」「男性55歳、女性50歳定年差別是正」「26歳からの男女別賃金表適用は労働基準法違反」等々の裁判に取り組み、いずれも勝利して今日の労働条件の土台を築いた。
これらは名だたる大企業や全国組織の労働組合ではなく、誠に小さな組織や個人によって闘われた裁判の勝利でもある。同一の職場で働きながらその職場を訴えたのだ。何と云う勇気だろう。
◆夢の数々
1円は物の例え。地域により暮らしや営農上の必要、皆の気が揃う所は様々あろう。女性が組織を生かし協同の強みを発揮し始めたなら、どんなにか豊かな未来が開ける事であろうか。差し当たり次のような願いが頭をよぎる。
*TPP反対を誓って当選した議員は農政連推薦182名中173人。この諸候をしっかりと地元で選挙権を持つ者として監視し、具体的な圧力をかけて行く等はすぐにも始めてもらいたい。何やら自民党の足取りもふらついてきそうなので。
*原発はこりごり、一日も早くゼロにしたい。大地に根ざす女性達は常に福島に思いを馳せている。しかし「太陽光や風力、小水力では必要な電力の量と質とが確保できない」等と一蹴されかねない。本当にダメなのか。自然と環境に恵まれた農協人だからこそやれる事がありはしないか。
女性たちのさえずりやおしゃべりは武器、ネットも良し、田んぼの畦でも村の辻でも良い。話題、関心、要求は限りないはず。具体的で切実なもの、共感を得られるものに絞って、父さんたちとも手を組んで国際協同組合年を引き継ぎ、新しいうねりが起こせないものか。
◆新たなうねりを
私の郷里の偉人丸岡秀子先生は「考える事、思慮深さ」の大切さを重視された方であり、様々な苦難の下にあった農村婦人達に導きの糸を示され続けた。こうした教えや活動により支えられてきた女性部には、幾多の先達による経験と組織とが財産として積み重ねられている。それらは生活に根ざした要求の実現にこそ力量を発揮するはずである。その力量は家族経営を守り、豊かにし、村々に住み続けられる展望に繋がるはずである。
これこそが日本の文化を守り地域社会を守ることではないか。日の丸だけが日本ではあるまい。家族経営が守れずして、地域に住み続けることが出来ずして、何で国を守れよう。選挙が終われば後は「お任せ」の民主主義はもうお終い。今回はTPPがある。必ずや議員諸候を見守って「お任せ」を脱却したい。「さざ波」でも良い。何かを起こしてみようではないか。さざ波がうねりとなった時には国会にも知事会にも、地方議会にも、JA役員会にも女性の姿が溢れよう。
今大会スローガンに期待を寄せ成果の大ならんことを祈りつつ。
【トップ写真解説】
被災地支援、これからも
2011年の「3・11」東日本大震災。被災者への救援と復興に向け全国各地のJA女性部などが支援した。写真は震災から9カ月後、JAいわて花巻女性部が仮設住宅で餅をふるまった様子。被災者の心に寄り添い支え続けるこのような活動は、日頃の助け合いによる絆の大切さを身をもって示した。
(特集・日本農業の未来を創る女性たち)
・【インタビュー】これまでの60年を振り返り、未来に向け転換しよう 瀬良静香・JA全国女性組織協議会会長 (13.01.21)
・【特別寄稿】大会決議の実践、女性の活躍に期待 JA全中・萬歳章会長 (13.01.21)
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