【第58回JA全国女性大会特集】 「リーダーを見つけ女性組織を育成する」 石田正昭(三重大学大学院 生物資源学研究科特任教授)2013年1月23日
・女性参画にリアリティをもたせよう
・お金になる活動を広めよう
・時代を先取りしよう
・仲間を集めて強くなろう
・JAも変わらなければ
女性部員の減少が続いている。そのなかで「農協運動への女性参画にはリアリティがあるか」という問いかけが可能である。
しかし、組織事業基盤のぜい弱化を前にして、もはやリアリティのあるなしを論じる段階ではない。否応なくリアリティをもたざるをえない。各JAにおいても、女性参画をすすめるしかないという現状認識が必要である。
ではどうするかが問われるが、学習活動の積極的な展開により組合員力と職員力の向上をはかることに尽きる。組合員としてなすべきこと、職員としてなすべきことを学び、その学びと気づきのなかから実践力を高めるほかはない。
「組合員力」と「職員力」の相互作用の発揮を
◆女性参画にリアリティをもたせよう
女性部員の減少が続いている。そのなかで「農協運動への女性参画にはリアリティがあるか」という問いかけが可能である。
しかし、組織事業基盤のぜい弱化を前にして、もはやリアリティのあるなしを論じる段階ではない。否応なくリアリティをもたざるをえない。各JAにおいても、女性参画をすすめるしかないという現状認識が必要である。
ではどうするかが問われるが、学習活動の積極的な展開により組合員力と職員力の向上をはかることに尽きる。組合員としてなすべきこと、職員としてなすべきことを学び、その学びと気づきのなかから実践力を高めるほかはない。
組合員の「求める力」に対して職員の「応える力」、組合員の「押す力」に対して職員の「返す力」のかん養が重要である。この両方の力の相互作用のなかで優れた協同活動が生まれ、女性参画もすすむと考えられる。
組合員力と職員力の相互作用は何も女性組織に限ったことではないが、反応のよさは女性組織が抜群で、達成感が得られやすいという特徴がある。一生懸命やっても成果が伴わなければ徐々にやる気が失われるが、こと女性組織に限ってはそれがない。努力すれば努力するだけの成果が生まれる。これが女性組織活性化の取り組みの特徴である。
◆お金になる活動を広めよう
女性組織の活動のなかで組合員と職員の相互作用、または連帯感が生まれやすいのは、何といっても「お金になる」活動である。その点でまず紹介したいのがJA静岡市の加工部である。
JA静岡市には4つの「じまん市(直売所)」があるが、そこに各地の女性部が独立採算で運営する加工部がある。“みなし法人”の形態で弁当、パン、惣菜、お菓子などを店内の調理室で製造、販売している。独立採算というのは全国的にもめずらしいが、女性たちの「仕事起こし」の意味があり、創意工夫とやりがいのある取り組みとなっている。
加工品の売上げは最も売れるじまん市で年間8千万円、4店舗合計で2億4千万円にのぼる。従事者は全部で87人、コアメンバーのほかは各人の事情に合わせた時間パートの形で参加している。
各加工部はそれぞれヒット商品をもっていて、長田店は地元の食材を使った日替わり弁当、地元産のトマトを使った「トマトジュレ」、南部店は野菜たっぷり餃子、白熊ロッシーの299(肉球)パン(クリーム・唐揚げ入り)、北部店はこだわりの油揚げお稲荷さん、和風ヘルシーハンバーク、あさはた店はちらし寿司、赤飯、メロンパン、あんバターパン、あさはたレンコンを使った総菜などである。
水道光熱料、じまん市の手数料、法人税、消費税などを自ら負担するので、経営は決して楽ではないが、それでも時給(最低賃金を割らないように努力)のほか、年末にボーナスも振る舞う加工部もある。経営継続の努力が部員たちの生きがいとなり、ひいては自信と自立心を生み出している。
こうした独立採算の取り組みの先べんをつけたのが、美和地区の女性部が独立採算で運営する直売所「アグリロード美和」である。平成24年度で設立15周年を迎えたが、現在女性理事として活躍する海野フミ子さんを中心に、163人のメンバーが「仕事起こし」「コミュニティづくり」をめざして頑張っている。
(写真)
じまん市南部店加工部のパン工房と静岡市内の高校が黒ハンペンと麻機れんこんを使った「地産地消!駿河ヘルシーバーガー」を共同開発している様子(写真提供:JA静岡市)
◆時代を先取りしよう
福島の原発事故をきっかけに全国的に脱原発の動きがみられるが、JA全国女性協でも節電をめざして「全国統一 みんなで工夫!消費電力マイナス10%大作戦!!」を展開している。その削減量部門で最優秀賞を獲得したのがJAならけん女性部だ。
平成23年度は全国で25都府県、113組織、1万2269人がこの運動に参加、2771MWh、9.4%を削減したが、JAならけんも1054人が参加、219MWh、8.6%の削減に成功した。JA全国女性協はこの運動を始めるに当たってJAならけんの取り組みを参考にしたというが、その先進性が最優秀賞をもたらした。ちなみに、削減率が低いのは平成20年度からこれを実施しているためである。
環境家計簿を記帳することで節電の意識づけができる、家計の節約になる、家族が協力できる、地域でも協力できる、地球温暖化の防止にも役立つ、計画停電を避けることができる、などと呼びかけて運動を展開してきた。
JAならけん女性部の強みは、節電運動をそれ単独で取り組むのではなく、「エコライフ実践運動」の一環として展開していること。平成20年度のJA女性「エコライフ宣言」を受け、エコライフ実践学習会、環境家計簿の記帳運動、廃油回収運動、ペットボトルを使ったソーラーランタンづくり、ゴーヤのカーテンづくりなどに取り組んでいる。
ゴーヤのカーテンづくりでは県の女性部総会時に種を配布したが、支店の総会時に苗を2本ずつ配布した支店もあった。北葛地区のリーダー研修会では、部員が育てたゴーヤのカーテンの写真を持ち寄り、「緑のカーテン写真展」を開催。持ち寄った写真を紙に貼り、大きな緑のカーテンをつくった。
この運動を推進している県女性部副部長(JAならけん経営管理委員)の門田悦子さんは、「今年(平成24年)育てたゴーヤから種を取り、来年それをそれぞれの支店で部員に配布し、奈良県中をゴーヤのカーテンではりめぐらしたい」としている。
(写真)
各家庭での取り組みを披露「緑のカーテン写真展」(写真提供:JAならけん)
◆仲間を集めて強くなろう
JA長野中央会は毎年女性理事研修会を開いているが、平成24年度は松本で宿泊研修を行った。2日目のグループ討議ではそれぞれの悩みを出しあい、女性理事の果たすべき役割について今後の課題を明確にした。女性組合員を拡大し、女性部員とりわけ次代を担うフレミズ層を拡大するにはどうしたらよいかを議論。どこでも同じであろうが、女性部活動は「マンネリとトラウマ」の克服が大きな課題で、その決定打を見出しにくい。そこを何とかしたいというのが第一の課題である。
第二の課題は、女性理事の発言力の弱さの克服である。理事会で女性理事の発言はまともに取り上げてもらえない。男性中心の理事会では、多勢に無勢の雰囲気が横たわる。職員出身の理事が多く、彼らが積極的に発言することはない。デンと構えていて、女性理事が改革の提案をしても、「従来からやっている」の一言で却下されてしまう。
こうしたグループ発表に耳を傾けていた私に、最後のコメントが求められた。私はこう提案した。
マンネリとトラウマから脱却するには、「何か事が終った後には必ず反省会を開き、きちんと記録を残すこと。その記録を関係者が共有し、それに基づいて次の一歩を打ち出すのが望ましい。例えば、今日のグループ発表は貴重な記録になるから、冊子をつくり、それを出席者に配る。出席者はそれをコピーして各JAの女性部に配り、みんなで議論するようにしたい」と述べた。実際、この提案を受けて事務局が冊子を作成、女性理事たちの共有財産にしたという。
また、女性理事の発言力を高めるには、「自分の意見として発言するのではなく、女性部の意見あるいは女性組合員の意見として発言することが重要。それには常日頃から女性組合員、女性部員、女性総代たちとJA運営に関して討議する場を設けること。女性理事は三角形の頂点にいるのであり、底辺を形成している女性組合員や、その上の女性部員、さらにはその上の総代の声を絶えず拾い上げるのが仕事である。同じことは男性理事(地区理事)にもいえるが、形式化しているその仕事を実質化できるのは女性理事たち、みなさんだ」と述べた。
(写真)
2012年11月に松本市で開催された女性理事研修会(写真提供:JA長野中央会)
◆JAも変わらなければ
楽しくなきゃ協同活動ではない。わくわくするような協同活動を展開したい。これが女性理事たちが考える協同組織像だ。
それにはどうすればよいか。これがJAの大きな課題である。
いくつかの論点があるが、ここでは1点だけを述べたい。それは「地域とともに歩むJAになる」という点である。
その要点は、(1)情報はコンプライアンスに引っかからないものを除いて、積極的に組合員に公開する情報の「透明性」、(2)フォーマルではなく、インフォーマルな機会を数多く設けて組合員の声を集め、それを運営に生かす組合員の「参加」、(3)役職員と組合員が一緒になって汗をかく「協働」、の3つである。この3つをどこまで実質化するかは、ひとえにトップの意思、すなわち何を重視して組合を運営するかというトップの経営力(構想力)にかかっている。
これに関連して、最後に職員人事の重要性を指摘したい。女性職員の管理職登用である。JAならけんでは、女性組織担当者の支店長登用がすすんでいる。全支店長の2割を女性にする計画をもつ。JAならけんには99支店、19営農経済センターがあるが、平成23年度は7名の支店長、24年度は10名の支店長と25名の副支店長(営農経済センター副支店長を含む)を登用した。男性中心の年功序列人事はこれを改める必要がある。
【略歴】
(いしだ・まさあき)
1948年東京都生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程終了、農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。1988年日本農業経済学会賞、2001年日本農業経営学会賞学術賞を受賞。第24回JA全国大会議案審議専門委員会委員、JA全中・生活活動研究会座長、同くらしの活動強化推進委員会委員、家の光文化賞審査委員など。
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