【第59回JA全国女性大会にエールを送る】個の内発的な活動を通して協同の輪を 今村奈良臣・東京大学名誉教授2014年1月23日
・農業は生命総合産業であり農村はその創造の場である。
・ピンピンコロリ路線の推進を
・皆さん、全員、美しい魅力的な名刺を持とう
第59回JA全国女性大会の開催おめでとうございます。農村の明日への活力の源泉となる大会の成功を祈念して、私のエールを送りたいと思います。
私は今年の年賀状に次のように書きました。
農業は生命総合産業であり農村はその創造の場である。
この言葉をそのまま第59回JA全国女性大会に参集された皆さんに贈りたいと思います。どうかこの言葉を胸に刻んでいただき、この1年の活動の指針にしていただければこのうえない喜びです。
この言葉が、私の胸に刻み込まれたのは、今から15年前の「食料・農業・農村基本法」が成立・公布された時です。あの長文の基本法を一言で表現すれば、そして農村の皆さんの誰にでも判りやすい表現にするにはどう表現したらよいのかと考えました。
農業はいうまでもなく多彩な食料の生産と供給を通じて国民の生命を維持・存続させる源泉であるとともに、その食料を生産・供給する産業として安定的に存続・発展していかなければなりません。食料の生産・供給にあたっては、「大小相補」の原則のもとに、多様な農業生産者が協力し、あるいは協同して、さらにまた、私が21年前から提起してきた「農業の6次産業化」という生産・加工・販売の新しい路線などを通して行われなければなりません。
そして、農業の存立している農村は、産業としての農業のみではなく、農業者などの生活空間であり、緑豊かな森林に囲まれ、清らかな水に恵まれ、美しい農村景観という国民共有の財産とも言えるかけがえのない、価値創造の場でもあります。 「食料・農業・農村基本法」があの43条にわたる長文の中でうたっていることを私なりに要約すれば以上述べたような内容となるのでしょうが、現実の農業・農村の姿は、条文に掲げるような理想的な姿には決してなっていません。条文に書かれているような理想的な姿を実現するための最大の責任は政府にあると思いますが、「国が悪い」、「政府が悪い」、「農水省が駄目だ」と、犬の遠吠えのようなことばかりを言っていても一歩も進みません。
私も「食料・農業・農村基本法」が示しているような望ましい姿を実現するように問題提起し、その改革・改善のための努力はしているつもりですが、皆さんもどうか、いろいろな場面で全力をあげていただきたいと思います。特に、現在の農業・農村を支えているのは、6割を占める女性のエネルギーだと私は信じています。どうか、「小さな協同がキラリと光る」女性の活動をさらに全国に広げていっていただきたいと心からお願いします。
そういう実践にあたって私は次のようなことを強調しておきたいと思います。
「多様性のなかにこそ真に強靱な活力は育まれる。画一化のなかからは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に生かすのが、活力に充ちたネットワークである」
この考え方は私の信念とするところであります。多様性に富む地域農業、多様性に富む農村社会、また多様性に富む個性を持つ組合員がいて強力なJAになれると思います。とりわけJAの役職員、そして女性部・青年部の皆さんは、多様な個性に富み、多方面にわたりJA改革に取り組み、また女性部・青年部は多様なかたちで農業や農産物加工や直売所活動に携わり、地域コミュニティの活動を推進していると思います。その多様な個性をいかに活かすか、そのネットワーク作りが重要になってくると思います。個性を殺す画一化路線は駄目だと思います。JA女性部や青年部は多彩なネットワークの拠点になるよう努力してもらいたいと思います。
◆ピンピンコロリ路線の推進を
いま、農村では農村人口の高齢化が急速に進んでいます。しかし、私は農村の高齢者を「高齢者」と決して呼ばず、「高齢技能者」と呼んできました。農村の高齢者は単に年齢を重ねてきたのではなく、智恵と技能・技術などを頭から足の先までの五体に摺り込ませて生きてきた人達です。その持てる智恵と技能を、地域興しに、とりわけ農業生産活動や農業6次産業化の活動に活かしてもらいたいと思います。高齢技能者は作ったり加工したりするのは上手だが、売ったりするのは下手です。そのためには、とりわけ若い女性、中堅の女性の皆さんの多面的なリーダーシップがなによりも必要です。高齢技能者を老人ホームなどに送り込むのではなく、加工や直売活動あるいはコミュニティ活動など地域住民や消費者などとの接点を求める活動に、その持てる知恵と技能を生かしてもらうことが元気回復の源泉になると思います。そんな活動をしながらある日皆さんにたたえられて大往生を遂げていただくようにしてもらいたいと思います。
◆皆さん、全員、美しい魅力的な名刺を持とう
日本の農家で名刺をもっている人はこれまでほとんどいなかった。他の産業分野と決定的に異なった日本農村の特徴であった。名刺を作り、持つ必要がなかったからだが、これからは違うと思う。名刺は情報発信の基本であり原点だと私は考えます。
皆さんたちそれぞれが、自ら行っている仕事や活動に誇りを持ち、世の中の多くの人々に語りかけ働きかけるためには、パソコンによる手作りでよい、地域の特産品や自らの誇る農産物、あるいは自らの地域の美しい景観や自らの活動が生き生きと判るような姿を描いた美しくかつ魅力あふれる名刺を持とうではありませんか。今回の大会を契機に始めた小さな協同の輪を更に大輪の花に咲かせ、広めるためにも魅力あふれる名刺を作り活動を始めましょう。
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