【特別寄稿・農協改革 その狙いと本質】世界の農政に逆行する日本 農民作家・山下惣一氏2014年6月26日
・こんな村に誰がした?
・農地法廃止狙うは企業
・家族農業はなぜ大事か
・米国も小農多数派変わる潮目
規制改革会議は6月13日、安倍総理に今後、5年間を農協改革集中推進期間とし、重大な危機感を持って自己改革するよう求める答申を行った。これを受けて政府は「農林水産業・地域の活力創造プラン」に農協改革などを盛り込んだ改訂版を決める。この改革で農業と地域に真の活力は生まれるのか。農民作家の山下惣一氏は今回の改革は農地法と漁業権を狙い撃ちしたもので、家族農業と地域社会が成り立たなくなると警鐘を鳴らす。
◆こんな村に誰がした?
狙われているのは「農地法」と「漁業権」である。背景はTPPなど国際環境の変化と農政の行き詰まりだ。私はそう考えている。
今に始まったことではないが首相の「岩盤規制を砕くドリルになる」という宣言で明確になった。第一次産業における岩盤規制は「農地法」と「漁業権」に他ならない。
つまり、農業の生産主体の選手交代である。このままでは日本の農業は壊滅してしまうから外部からの参入を促進して活性化、再生しなければならない。これが農政改革らしい。ラストチャンスだという声が高い。
私たち農家にしてみれば「国の農政に忠実に従ってきましたがな」といいたいところだ。山は荒れ放題、田畑は草ぼうぼう、若者は去り、大きな家に年寄りだけがひっそりと暮らし、その灯が次々に消えていく。
「こんな農村に誰がした!」声にはださないが多くの農家はそう思っている。好きで故郷と家を捨てたりはしない。苦渋の選択なのだ。
◆農地法廃止 狙うは企業
そしていま村に残っているのは専業であれ兼業であれ、なんとか村で頑張って生きていきたいと考えている人たちである。この人たちを支援するのではなく選手交代を迫るのはすなわち戦後農政の破綻である。
原因は戦後の農地解放による自作農主義にあるという。
「農地は耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて…」の第一条に始まる「農地法」がいまや農業発展の足枷になっている。これを廃止することもまた「戦後レジームからの脱却」なのだ。早い話が戦後民主主義の否定、戦前への回帰である。いづれ新しい地主、網元の誕生となろう。昔は地主も網元も日本人だったが、これからはそうもいくまい。それがグローバリーゼーションであり、「新農政」はそれに対応した新しい第一次産業というわけだろう。
この流れの本質を押さえておけば、農協改革も農業委員会廃止論も、その他の政策もパフォーマンスもその目的に向かっての地ならしであることがわかる。農家のためであるかのような「法人化」も根は同じだ。小泉構造改革のころ「郵政の次は農協だ!」「農協解体は、企業のビックチャンスだ」などと叫んでいた勢力が当面跋扈することになるのだろう。しかしそんなことを許していいのだろうか。
そもそも企業は農業に適するのだろうか。とてもそうは思えない。倒産したらどうなるのか。地域社会が守れるか。持続性はあるか。
◆家族農業はなぜ大事か
私は佐賀県北部の唐津農業協同組合の正組合員だが、正組員7200名(准組合員7000名)、田4000ha、畑・果樹園2500haだ。1戸平均では田55a、畑35aの合計90aにしかならない。しかし生産農協で頑張っている。国の農政の方向には私たちの未来はない。
一方、国連は今年(2014年)を「国際家族農業年」と定めて各国政府に家族農業への投資と支援を呼びかけている。同報告書の日本語版「家族農業が世界の未来を拓く」(農文協)によれば「家族農業」とは「家族の労力を主に用いて所得(現物・現金)の大部分を得ている農業」で小規模で農外就労(兼業)を伴う。
では、家族農業がなぜ重要か? [1]世界の農業の土台であり90%を占めている。[2]飢餓解消にはこれを支援するしかない。[3]小規模農業は大規模より効率的である。[4]多くの人々にとって故郷であり、伝統文化の継承者である。[5]農業の専門特化はリスクを高める、多様化こそが回避の道である。(要約)
◆米国も小農多数派 変わる潮目
国連の場合は主に途上国の飢餓への対応からその当事者でもある零細農業への投資を呼びかけているわけだが、一方の先進国では自由貿易の推進で急速に兼業化が進んでいる。各国の兼業化率は次の通りだ。
▽アメリカ=67%。販売額2万5000ドル(250万円・1ドル100円換算)以下のが農場全体の67.8%を占めている。
▽フランス=フルタイム農家の50%以上が農外にも従事。
▽オランダ=80%が男女を問わず農外就労しており農家所得の30?40%を占める。
▽イタリア=90%が多就業活動。
▽日本=兼業農家率72.3%。などとなっている。
私は昨年ロシアの「ダーチャ」を体験してきたが、都市住民の70%が郊外にコテージ付きの自給菜園を持ち、オーガニックでロシアのジャガイモの90%、野菜の70%などを生産し、小規模農業が世界を養える実践として注目されている。報告書は「輸出志向型の大企業が優遇される一方で小規模農業は無視されてきた」が「小規模農業が舞台の中央に立つ『小規模経営投資国家戦略』の策定」を各国政府に提案している。時代の潮目は変わりつつある。この国の農政の方向はズレていないか。逆コースではないのか。
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