JAの"大義"発信を 新世紀JA研究会顧問・福間莞爾2014年11月6日
・官邸の強い意向反映
・農業問題は官民挙げて
・争点は日本的総合JA
安倍首相は10月3日、臨時国会の衆院予算委員会で農協改革について「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないことになると考えている」と改めて強調した。その理由として単協が農業の成長産業化に全力投球できるようにできるよう中央会、連合会はサポートに徹するためだという。しかし、中央会の役割と機能が検証されたうえでの今回の農協改革論議なのか。改めて問題の本質を提起してもらった。
助け合いは人の本性
公正な社会の実現へ
さる10月23日に、自民党の「日本経済再生本部規制改革推進委員会」が開かれた。本部長は稲田朋美(自民党政調会長)、委員長は後藤田正純氏である。稲田は前・内閣府規制改革担当大臣、後藤田は同副大臣である。二人セットで政府から党への横滑り人事だ。
稲田会長は冒頭のあいさつで、「60年前に農協法の中に中央会が制度化されたが、今700農協になり、法律で強固な権限を与えるよりはもっと任意で自由な制度にする方が単位農協の創意工夫を阻害しないのではないかという問題意識を持っている」と述べた。また、注目すべきこととして主要検討項目にJA関連で掲げられているのは、「中央会制度から新たな制度への移行」のみである。全農の株式会社化などほかにも課題はあるはずだが、「推進委員会」では完全に中央会の問題に的を絞った格好だ。
安倍総理は6月24日の「農林水産業・地域の活力創造本部」のあいさつで、「農協については60年ぶりの抜本改革となる。これにより中央会は再出発し、農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないことになる。改革が単なる看板の掛け替えに終わることは決してない」と述べている。「委員会」の問題意識はそうした総理の意向を体現したもので、ここにきて中央会がJA批判の敵役として象徴的存在にされてきた。
◆官邸の強い意向反映
今年になって降って湧いたように出てきた中央会問題は、「規制改革会議」では「中央会の廃止」となっていたが、自民党の意見を入れて、政府は「中央会制度から新たな制度への移行」とした。そしてこれまで、「新たな制度」の中身についてJA全中・農水省・自民党の間で激しい駆け引きが行われてきた。だがここにきて、全中で行われている中央会の自己改革の検討結果を待たずして、政府は中央会について一般社団法人化の方向を固めたとの報道が相次いで行われている。
中央会の一般社団法人化は、それが中央会監査の法的根拠を奪うものであり、中央会の生命線にかかわるものであることは前号で述べた通りである。「新たな制度」については、もう一つの選択肢として指導連としての中央会も想定されたはずである。だが、その選択肢も飛び超えて一挙に一般社団法人化の方向が出されたのは、中央会を法律上、系統組織の中に位置づけては監査権限の法的措置など面倒なことが起こる、この際、そのような心配のない一般社団法人にするというのが政府の本音なのだろうか。監査事業について、これまでの農水省・中央会はじめJA関係者の努力や、何よりもこれまで積み上げてきた実績さえも一切顧みないということだ。中央会の力を削ぐためにはどのような手段も選ばないという、悲しいまでの殺伐した雰囲気が伝わってくる。
(写真)
10月23日、自民党の規制改革推委であいさつする稲田政調会長
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◆農業問題は官民挙げて
それでは、なぜ中央会制度が不要になってきたのか肝心のところがはっきりしない。表向きはJAの自立のためには一律の経営指導は必要ないということだが、
本当の理由はどこにあるのか。理由の一つに、中央会が法律で定められた半ば公的機関であるにもかかわらず政治活動に肩入れし過ぎたこと(激しいJA批判として、国家権力まで動員して行われた総務庁の「農協の行政監察」の苦い経験を踏まえ、政治活動は農政協で専一にやるはずだった)も挙げられようが、基本的には農業振興と協同組合に対する考え方が双方で大きく乖離してきていることにあると考えられる。
たびたび指摘してきたことだが、農水省は平成13年の農協法改正以来、JAを農業振興の手段としてしか見ていない。これは農水省の農業振興への責任逃れと農業政策をJAに肩代わりさせるための方便でもある。これが今回さらにエスカレートして、農業振興に力を入れず信用・共済事業を兼営する総合JAの中央会指導などもってのほかということになり、さらに農業振興には不効率(そうではないのだが)な協同組合を指導する中央会の存在は、国としてもはや不要という考えになったのではないか。
そうだとすれば、ことは単に中央会の組織いじりということだけではなく、その背後にある農業振興や協同組合に対する国の考え方や哲学を問題にしなければならないということになる。これから通常国会に向けて法案を作成・検討する過程で、さらには国会審議を通じて国はこの問題をどう考えるのか真剣に審議・検討してもらいたいものだ。農業問題や協同組合の問題は党派にかかわらず国にとって重要問題であり、現実にその問題の解決に当たっているのは総合JAである。そして、その指導を行う中央会は、農協法73条で規定され、第3章として章立てされているが、こうした中央会の存在は引き続き法的に位置づけることは国にとっても大切なことではないのか。これは、行政に対する協同組合(JA)の独立性の問題とは別次元のことである。
農業問題については、農業は工業製品のように分業ができないという産業的特性から資本主義国では共通の国民的課題となっており、官民挙げてその課題解決に当たるべき重要問題である。とくにJAはこの問題の解決に欠かすことのできないパートナーであり、意見の相違はあっても共に手を携えて課題解決をはかるのが国としても当然のことだろう。いくら大規模農業が効率的と言っても限界があり、後継者不足・高齢化は人口減少の中で必然の結果でもある。もちろん、JAも努力不足の点(協同組合としての他企業にたいする優位性の発揮)があるのは先刻承知だろうが、だからといって総合JAを打ちこわし、JAを農業専門的運営にするからという理由で、中央会を敵視することはないだろう。
第一、総合JAを無くして専門農協にするなどというのは冷静に現実を見れば完全に間違った方向であり正気の沙汰とは思えない。このような方向をとれば、専門農協はもとより総合JAを含めて助けあいの協同組織は壊滅する。もし現政権が、助けあいの協同組合など不効率な組織は不要と考えるのであれば国を預かる資格はないといっていい。協同組合は人間の本性(Human Nature)に基づく人間社会で必要不可欠な存在であり、どのような政府のもとでもその存在は否定できないからだ。
◆争点は日本的総合JA
とくに、政府関係者は真顔でことあるごとに今回のJA改革はJA潰しではないと言っているが、政府の全体構想を見ればそれが総合JAの解体にあることは疑う余地がなく、まったくもって責任ある態度とは言い難い。
また、協同組合の重要性の認識については、具体的には監査制度の見方に現れる。一般的には、中央会監査は公認会計士監査と同一視され、中央会監査が公認会計士監査と比べて優位性を持つのは、コスト面や経営指導との連携が指摘される。だが、中央会監査が公認会計士監査と違う点は、中央会監査が本質的に協同組合監査であることにある。
協同組合監査は財務諸表監査・業務監査であると同時に、協同組合が組合員参加の協同組合らしい比較優位の経営をどのように実現しているのかの指導監査であり、教育的監査でもある。
国が、このような人間の本性に基づく協同組合を指導・育成する観点から協同組合監査を法的に位置づけることは何ら問題のあることではなく、むしろその国の成熟度や品格を表すものと言っていいだろう。競争一辺倒の社会は活力をもたらす半面で、人々に多くの不幸をもたらす。競争と助けあいの良きバランスのもとでの公正な社会の実現こそ、われわれがめざすべき社会であろう。
政府は今回のJA改革を中央会制度解体の一点に絞ってきた。それは、中央会を解体することが、JA解体に最も効果的で近道であるからだ。政府が「規制改革実施計画」を進めるに当たっては、JAの自己改革の内容を見てというものであったが、新聞報道によれば、来年の通常国会に提出する政府案はすでに出来上がっているという。内容は、中央会の一般社団法人化と全農の株式会社への転換を可能にするというものだ。つまるところJAの意向などとは関係なく、既定路線に従ってJAの解体を進めるというのが政府の方針なのだ。
今回のJA批判は、政府自らJA(正確には総合JA)を解体する方向で進められている。それが良識ある意見を代表しているとは言えないとしても、政府は本気でJA解体を考えている。それはまさに系統組織のリストラクチヤリング(再構築)なのだ。だから従前のように農水省のやることだから、JAをどうせ悪い方向へ持っていかないだろうなどという考えは通用しない。
したがって、JAグループはできるだけ早く自己改革案をまとめ、内外に情報発信を行い、自らの正当性を主張すべきだ。その際の議論の大義は、農業振興であり地域社会における協同組合の役割である。そして議論の焦点は、その大義の役割を果たす「日本的総合JA」の是非であり、そのもとでの系統組織のあり方である。同時にまた、議論は決して組織の自己防衛のためのものであってはならない。
組織は自らの存立を脅かされるまでに追いつめられると自己防衛に腐心することになる。政府による露骨な分断攻撃により、今回のJA批判は中央会であり、われわれには関係ないという雰囲気が連合組織や肝心のJAからも醸し出されている。この点、中央会攻撃がJAグループ全体攻撃の戦略的位置づけになっていることを見抜き、前述した観点で議論を巻き起こし、できるだけ早く戦線の統一をはかるべきである。法案が提出される前の、来年の通常国会開催までが大きな山場になる。
「JA組織が法律で守られていることで生ずる最も恐ろしい現象は、JA組織が空気のようにあたり前の存在で、日常的に協同組合とは何か、JAの使命とは何か、JAの総合事業とは何かを考えないようになることである。」(近拙著『新JA改革ガイドブック』より)。これまでJAはその多くを法律で守られ、自らの組織について深く考えることはなかった。協同組合は本来、実践活動を通じて学び強くなる組織だ。今回のJA批判を奇貨として、協同組合とは何かを改めて学ぶ契機にもしたい。
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