【農業・農協改革、その狙いと背景】組合員目線から批判を 規制改革会議の改革論 増田佳昭・滋賀県立大学教授2014年11月25日
・「地方創生」を担う地域のための農協
・地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
・決して甘くない自治監査
・組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
JAグループは11月6日、「JAグループの自己改革」を決定し公表した。農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化の3つの基本目標に向けて自主自立の協同組合として「農業と地域のために全力を尽くす」改革を打ち出した。これに対して政府の規制改革会議は12日「意見」を公表、農協法から中央会規定を削除するなどの提起を行った。規制改革会議の意見はいまだ政府としての方針ではないがその問題点を徹底的に検証する必要がある。今回は滋賀県立大学の増田佳昭教授に緊急に問題点を執筆してもらった。増田教授は農業、農村の実態に生きる「組合員目線」からの検証が重要と説く。
誰のためにもならない
現実離れした形式論
◆「地方創生」を担う地域のための農協
11月6日、総合審議会の「中間とりまとめ」を受けて、全国農協中央会は「JAグループの自己改革について」を発表した。12日には規制改革会議が、「農業協同組合の見直しに関する意見」を発表、両者は中央会のあり方を中心に、「ガチで」ぶつかり合う様相だ。
焦点は中央会問題に絞られているようにみえるが、農業協同組合のあり方に関する理念の対立は明確である。規制改革会議(いや農水省というべきか)は、農業協同組合を「農業者の組合」に純化する方向で大幅な制度の「刈り込み」を志向しているようだ。准組合員の利用率制限しかり、信用・共済事業分離しかりである。これに対して、JAグループの描く農協の姿は「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」であり、その姿勢は「農業と地域のために全力を尽くす」である。いま、存亡の危機にある「地域」のために、農業者、組合員とともに役に立つ存在になろうというわけである。
この点では、客観的にみてもJAグループに理があると思う。高齢化と人口減少の本格化で、地方の経済、社会は息も絶え絶えである。政府でさえ「まち・ひと・しごと」、「だれもが安心して暮らすことができる地域づくり」を掲げて、「地方創生」に取り組まざるをえない今日である。これまで、農村地域に多様な組合員組織を重層的に持ち、ライフライン的店舗を構え、地域の福祉や文化、仕事づくりに実績を上げてきた農協から非農業分野を切り離してしまって、いったい誰が現場の「地方創生」を担うのだろうか。規制改革会議答申は「生協」や「社会医療法人」への移行をあげているが、いかにも官僚的形式論である。
そもそも、農業はそれぞれの地域の社会や経済と密接な関係を持っている。だからこそ、1999年の食料・農業・農村基本法は、従来の「農業」の枠を拡大し、「農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれていることにより、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしている」として、「農業の生産条件の整備、生活環境の整備その他の福祉の向上」という「農村振興」の課題を掲げたのである。そうした基本法の理念や方向に対して、いま進められようとしている農協法の農業純化志向がいかにずれていることか。
(写真)
増田教授
◆地域農業の困難増す「農業者だけの農協」
それでは、農水省の考える農協の農業純化の先に、輝ける日本農業の姿が描けるのだろうか。正直に言えば、他国に比べても大幅に見劣りする現下の農業政策の下で明るい未来など描きようもない。「農業・農村所得倍増」、「輸出倍増」だのと威勢のいい言葉が並べ立てられるその下で、日々の農業経営の存立に必死に努力しているのが大多数の農業者の実情だ。農業協同組合のもともとの姿は、そうした農業経営が力を合わせて自らを防衛するためにつくったいわば自主的な「自衛組織」である。そんな自衛組織に対して、「しっかり儲けて利益を組合員に還元しなさい」などとお説教するのは、そもそも間違っているのである。ましてや、農業政策の責任を放棄し、農業がうまくいかないのは農業者と農協が努力しないからだとばかりに、責任を農協に押しつけるなど、為政者として恥を知るべきであろう。
そもそも、農水省は農協の構成員を農業者に絞り込み、いったい何を農協にやらせようというのだろうか。そのような新しい農協に結集する農業者に助成を集中しようというのだろうか。あるいは「農業者の農協」に対して何らかの優遇措置を講じようというのだろうか。いや、昨今の農政を見れば、そんなことはとてもありえないだろう。 とすれば、農業純化した農協に対して、あとは勝手にやりなさいとばかりに、これまた「自助努力」を促すだけではないのか。何のことはない、農協法第1条の目的をたてに、農協組織と事業を「刈り込む」だけの形式論理の「改革」に終始するのではないか。
農協の組合員を農業者に絞り込んだからといって、農業者組合員は喜ばないし、現在農協未利用の法人等が喜んで農協を利用するとも思えない。農業者組合員にとっては、准組合員利用制限と信共事業分離で専門農協化した経営基盤薄弱な農協経営を押しつけられることになり、営農指導事業の弱体化も明らかだ。そんな農協を組合員は望むのだろうか。現に農協を利用している農業者組合員が本当に求めているのは何か。それは、農業者組合員が抱えている営農上の課題にしっかりと応えてくれる農協だ。それは「農業者の組合」に純化したからできるというものではない。それぞれの農協が組合員とともにしっかりと考え、努力するべきことなのである。為政者が描く「農業者だけの農協」では、むしろ農業者の困難が増すと考えるべきだ。
組合員の期待には、農業者の経営を守るための政策、制度要求も当然含まれる。米価暴落、乳価はじめ各種農産物価格の低迷、それらに対して、個々の農業者ができることは限られている。力を合わせて制度環境の改善を求めることは、大事なことだし当然のことだ。中央会組織の解体、連合組織否定の単協主体論、農協組織解体論は、本来必要な農業者の政治力を決定的に弱めることになるだろう。
(写真)
6月答申の際の規制改革会議会見。9月からも岡議長(右から4番目)、金丸・農業WG座長(左から2番目)体制は変わっていない。
◆決して甘くない自治監査
中央会監査についてふれておきたい。中央会による監査は独立性を欠くとか、真の意味での外部監査といえないというのだが、本当にそうだろうか。グループ自治としておこなわれる中央会監査において、もしも身内に甘い監査をしたならばその影響は中央会のみならずグループ全体の信頼を毀損することになる。その意味で、自治監査は「甘い監査」に対して抑制的にならざるを得ないのである。
これに対して規制改革会議が主張する「外部監査」はどうか。外部の会計監査人は市場に多数存在しており、会社はそれらを自由に選択することができる。さらに、会計監査人は監査対象から監査報酬を得るのであるから、完全な第三者として監査に臨むわけではない。会社側は厳しい指摘をしない監査人を選任し、監査人は来年度の契約を得るために、監査に手心を加えるという可能性は存在する。外部監査だから独立性を有するというのも、これまた形式論理なのである。
ドイツ協同組合法においても、協同組合への監査連合会による監査の義務づけを一時廃止したことがあるが、その際に連合会監査を受けない「野生の協同組合」の経営破綻が頻発し、再び協同組合の監査連合会への強制加入を復活させて現在に至っている(多木誠一郎『協同組合における外部監査の研究』)。
中央会監査は、協同組合という特質を踏まえて会計のみならず組織運営にまで及び広範な監査が可能である。しかも、単協に中央会監査を義務づけることで、中央会は単年度契約の外部監査人と違って、安定的な立場で組合に適切な監査を実施することが可能なのである。それに加えて、平成8年の農協法改正ですでに公認会計士による中央会監査への関与が法定化されており、公認会計士が中央会監査に関わる方式が作られている。これまでの法改正経過や実際の監査の現実に目をつぶって、何が何でも中央会監査を否定しようというのは、乱暴な議論だろう。
◆組合員は喜ばない乱暴な改革明らか
規制改革会議の主張を一言で表せば、空虚な形式論理の羅列である。農業純化論自体も農協法第1条から形式的に導かれたものであって、実際の農協の姿や地域のニーズといった現実から乖離した観念的な形式論理である。また、上述のように外部監査の絶対視も形式論理に過ぎない。
さらに、今回の中央会解体論の根拠となっている「単位農協の自由な活動を促進するため」という大義名分さえも現実離れした形式論理である。単協の自由な活動を保障するために、中央会を農協法から削除し、「単協が自主的に組織する純粋な民間組織」にし、「全中監査の義務づけを廃止」するというのだが、実情を知る立場からいえば、中央会がそれほどの統制力を有しているか、大いに疑問である。中央会の存在ゆえに単協が自由に活動できないなどというのは、ほとんど虚構に近い。かりに中央会に統制力があるとしても、その統制力の根源は監督官庁による統制であり、中央会はその代位、代行が中心である。規制改革をいうなら、事細かに口を出してきた監督官庁のそれを問題視すべきだとの意見もむべなるかなである。
はっきり言って、今回の規制改革会議の農協改革論は、担い手農業者も含めて、組合員が喜ぶような改革でないことは明らかである。いわば農協批判者による農協批判者のための改革論でしかない。何よりも組合員目線で、この乱暴な改革案を批判していく必要があるだろう。
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