【農業・農協改革】米国が農協攻撃-50年前、占領下の沖縄で- 普天間朝重・JAおきなわ代表理事専務2014年12月2日
・「キャラウェイ旋風」
・背景に米国の意向
・農家支える農協の収益
・買い取り制度で農家安定
・厳しい監査で経営軌道に
・誰が離島を守るのか!?
・現場から危機感発信を
政府は農協改革関連法案を来年の通常国会に提出する方向で検討を進めているなか、安倍首相は衆議院を解散、12月14日投開票で総選挙が行われることになった。空前の米価下落や円安による生産資材価格の高騰など厳しい農業に対する政策は当然争点にすべきだが、同時に農業の成長産業化の名のもと現場実態を無視した農協改革論を問い直す機会にしなければならない。今回は小さな離島を多く抱え農業と地域をまさに両輪として支えるために12年前に県単一JAとして合併したJAおきなわの普天間朝重専務に現場からの考えを聞いた。普天間専務は今回の農協改革論は本土復帰前の沖縄で起きたことと同じだと強調する。(聞き手は田代洋一大妻女子大学教授)
歴史ふまえ「今」を見抜け
◆「キャラウェイ旋風」
田代 今回の農協改革の議論を沖縄ではどう位置づけていますか。
普天間 知ってもらいたいのは沖縄では50年前に今回とまったく同じ農協攻撃があったということです。
復帰前の1963年(昭和38年)から64年にかけて当時の琉球政府が農協を猛烈に攻撃しはじめた。理由のひとつは貿易自由化に即応するため、です。今はTPPですね。
具体的には“連合会の事業は政府の策定した各種産業の合理化計画に基づいて行う”との方針を示し、政府主導で農連(琉球農協連合会)を整理する、といわんばかりのものでした。その理由は“新しい時代にマッチした経営感覚を取り入れるべきだ”です。これも今と同じですね。当時も、時代は変化しているではないか、と員外理事、員外監事、要するに外から人を入れろと通達で要求した。
こういう要求に対して農連は4か月も解決策を示さないではないかなどと、さらに通達をばんばん出すという相当な農協攻撃があり、ついに何が起きたかというと、米陸軍の会計監査部が農連と中金(当時の協同組合中央金庫)に抜き打ち監査を行ったんです。これで琉球政府による農協攻撃はアメリカの意向だったこともはっきりしたわけです。
しかし、これによって当時の山城農連会長は辞任せざる得なくなり、農連事業の一部が民間企業に統合させられていった。本土復帰前ですから沖縄をひとつの国と考えれば、農連は今の全農と同じ、つまり全農の株式会社化ということです。
これに対して農協長会だけでなく、市町村会や議長会なども含めてみんなで農連を守ろうという動きが起きました。琉球政府の農業政策には反対だ、それは農連の解体を意図しているからだ、と。
◆背景に米国の意向
普天間 ところが、高等弁務官のキャラウエイは、農連の解体は既定方針だとして、山城会長たちは法律で訴えられ牢屋にぶち込まれるという事態にもなった。結局、農連は勝ち目がないので琉球政府の通達、勧告を飲んでいく。山城会長は無罪にはなるんですが……。 この一連の農協攻撃は沖縄では“キャラウエイ旋風”と呼ばれていますが、ちょうど貿易自由化を進展させようというときに起きた。だから今回の議論もTPP交渉という農産物貿易をもっと自由化しようというなか、どうしても農協が邪魔な存在になるという話ではないのか。政府や規制改革会議は中央会ができて60年も経ち役割も変わった、だから改革だと言っていますが、それは違う。貿易自由化を進める、それに即応するため農協は退いてくれ、あるいは株式会社になれということであって、どうしても農協解体に結びつく。こういう話は今に始まったことではないわけです。
田代 結局、農連はどうなったのでしょうか。
普天間 農連の製糖工場やパイン工場は民間に統合されていきました。
田代 今、政府も農協は6次産業化でがんばれといっていますが、中身は結局、農外資本が6次産業化を果たし農業者は加工原料の供給者になればいいという位置づけで、非常に似ているのではないかとも思います。
まずは50年前を振り返り根本的な問題を指摘してもらいましたが、では今の改革論はどうお考えですか。
沖縄県におけるJA組織の歴史 米国統治下から本土復帰まで |
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年月 | 出来事 | |
1945年 | 4月 | 沖縄において米国海軍軍政府樹立 |
1946年 | 4月 | 「沖縄農業組合規約準則」に基づき各地に「農業組合」設立 |
5月 | 沖縄農業組合連合会設立 | |
1951年 | 5月 | 「琉球協同組合法」に基づき、農協と信協設立・併存 |
10月 | 琉球農業協同組合連合会(農連)設立 | |
1952年 | 12月 | 「協同組合中央金庫法」により協同組合中央金庫(中金)設立 |
1956年 | 9月 | 「協同組合法」により農協・信協合併により総合農協へ改組 |
1958年 | 10月 | 協同組合中央金庫を農林魚業中央金庫に改組 |
1967年 | 9月 | 沖縄農業協同組合中央会設立 |
1971年 | 5月 | 「農業協同組合法」公布 本土法に準じて協同組合法を改組 |
8月 | 琉球農連、経済連に改組 | |
9月 | 沖縄県信用農業協同組合連合会(信連)設立 | |
1972年 | 5月 | 沖縄県共済農業協同組合連合会(共済連)設立 |
5月 | 本土復帰 |
◆農家支える農協の収益
普天間 問題のひとつに農協も利益を上げるべきとの主張がありますが、やはり農協は利益を上げることを目的にしてはいけないと思います。しかし、私がずっと言っているのは安定的収益の確保は必要だということです。収益が安定しなければ農協の経営は成り立ちません。収益が悪くなるとどうしても無理をする。
田代 無理、とは?
普天間 無理な融資です。これがわが沖縄で起きたことで、みな収益力がないものだからバブル時代には農業者以外の不動産、開発業者に大量に貸し出していって結局不良債権を抱えることになってしまった。これが県単一JAになった原因でもあります。経営がしっかりしていないとどうしても無理な方向に走っていってしまう。
つまり、利益を上げるべき、上げるべきではない、という議論ではなく安定した収益の確保こそが重要だということです。これは農家にも言えると思います。農家は所得倍増なんて考えていない。言っているのは農家経営を安定させてくれ、です。だから最近ではJAも全量買取販売に取り組みリスクを負っています。
田代 農家のリスクをカバーするためにも安定的な収益が農協には必要だということですね。
普天間 そのうえで収益を上げられたら農協としては利用高配当は絶対にやるべきだと思います。われわれのJAでは合併当初こそできませんでしたが、利用高配当、出資配当、それから准組合員に対しても貯金、貸出金の利用高配当を行っています。
それとは別にJA内部でも利益還元の取り組みを行っています。たとえばファーマーズ・マーケットでもかなり利益が上がりますが、ただ、どういう利益の返し方が適切なのか、買ってくれた利用者に返すのか、一生懸命出荷してくれた生産者なのか分からないので、そこは直売所で決めればいいと全体で500万円を用意し店舗の売上げに応じて出荷生産者会に分配することにしました。それで地域のために使ってくれ、使い方も任せると。
それから支店長にも還元しています。支店が利益を上げたら、支店長に一部は還元する。支店長は自分の裁量、自分の考え、自分の支店の創意工夫でこのお金を使ってみて、ということです。昨年から始めたんですが支店ごとにいいアイデアもあったので今年からは予算を2500万円に増やし支店の売上げに応じて分配することにしています。
◆買い取り制度で農家安定
田代 先ほどの全量買取の取り組みについて聞かせてください。
普天間 具体的には加工用シークワーサーの全量買い取りです。
シークワーサーについては10数年前にあるテレビ番組で血糖値を下げる機能があると紹介されたことをきっかけに、業者間の取り合い合戦となって価格もそれまでのキロ50円から450円にまで上がるような状態になり、JAへの出荷もどんどん減っていったんです。ところがそのテレビ番組が実はそんな機能は確かめられているわけではないと釈明するような事態になって、今度は一気に人気がなくなり業者はだれも仕入れなくなったから価格も下がってきた。
そういう経験をしたので、われわれJAとしてはシークワーサーを原料にいろいろな一次加工品を開発して、県内だけでなく大手食品・飲料メーカーと取引するようにしたところ、これでシークワーサー人気が戻ったのはいいんですが、かえってJA以外に出荷する人が増え、JAが開発した商品の製造販売を中止せざるを得なくなるほどJA出荷が減ってしまった。 しかし、こんなことを続けていてはシークワーサーの将来がないと考えて25年産から、契約・値決め・全量買取制度を導入しました。契約をした農家は豊作のときも不作のときも全量買い入れます、と。ただし価格はあらかじめ複数年(3年)にわたって固定した価格に決めます(図1)。
宮古島で作っているかぼちゃも一時期はJA出荷が落ち込んだ。それは規格外品を農家に返したからですが、それはだめだと全量受け入れに戻した。市場出荷だけでなく本島のファーマーズマーケットで売れるからで、こうした対応は合併したからできたことです。今は出荷量も戻り安定しています。私は農家は安定をいちばん求めており、それを実現するのが農協だと思います(図2)。
◆厳しい監査で経営軌道に
田代 県単一JAとして合併し12年が経ちましたが、今、中央会の一般社団法人化など見直しが提起されてもいます。どうお考えですか。
普天間 今の県中央会の機能は監査、経営指導、農政活動の3つです。教育はJAに移管しました。沖縄にはサトウキビなど制度品目もありますから農政活動はやはり中央会でなければできません。
監査については、政府や規制改革会議は中央会監査はしょせん内部監査ではないかというわけです。しかし、それは違う。規制改革会議は不正事件を起こした米国のエンロン社を例に出し、これには監査法人のアンダーセンも不正に加担していて、同時にそっちも潰れていってしまった、だからこういう形になりかねないじゃないかと全中などに主張したようですが、それはまったく逆の話です。
私たちJAおきなわは合併当初、全中の監査機構に相当厳しい監査を受けました。合併初年度(平成14年度)の当期剰余金は10億円となったんです。ところが全中は合併時に持ち込んだ法人税等の繰り延べ税金資産20億円の計上を認めないといった。それで当期剰余金はマイナス10億円となりました。
このときは全中監査機構と相当やりあったけれども、監査機構は絶対に認めない。あの時、私は相当に頭に来たけれども、今こうして合併JAとして経営継続を果たしていると、全中が全国のJAを対象にし、しかも法的な根拠を持って監査する力というのは非常に重要だと思う。もしこれに法的な裏付けがなければJAは監査法人を自分たちで言い分を多少は聞いてくれるところを探すようになる。
しかし、そもそもJA経営というものは緊張感が違うと思います。われわれも本土のどこかのJAが万が一にも破綻したらびびりますよ。利用者や国民から見たら、JAは危ないんだ、となるわけでしょ。われわれにもそんな緊張感があるんだから、全国を見ている全中はなおさらだと思います。だからこそ厳しい監査になるし、それは法的な裏付けがあってこそできることです。
田代 厳しい監査を受けて青息吐息になりながらも合併JAをここまで率いてきた経験からすれば、中央会の監査機能は非常に重要だということですね。
普天間 とくに単一JAにとっては重要です。JAに何か起きたら、沖縄にもう後はない、合併しようもないわけです。だから全中の機能が非常に重要になります。
◆誰が離島を守るのか!?
田代 JAは農業関連事業に特化すべきとの観点からさまざまに提起されています。信用事業の代理店化も言われていますがどうお考えですか。
普天間 われわれは離島を多く抱え、そこには支店を置いているわけです。そこを農林中金の代理店が担うことができるはずもないし、そうなれば誰が住民の生活を支えるのかということになります。総合農協だからこそできるのであってJAおきなわにとって、信用事業の代理店化というのはどう考えても無理、あり得ないことです。
田代 同時に規制改革会議は農協は職能組合になれということから専門農協化し、ついては准組合員の利用制限もすべきと主張していますね。
普天間 沖縄からすれば絶対に反対です。繰り返しますがわが離島はいったいどうなるのかということです。小さい離島がたくさんあってそこに全部支店を置いている。販売事業しかやりませんということになったら、離島に住む人たちはどうやって暮らしていくのか。行政がすべてやれ、といいたくなりますが、そんなこと行政にできますか。
今回の議論がおかしいのは、一方で規制緩和だといっておきながら、なぜ准組合員の利用制限という規制強化をするのか、です。准組合員であれ一般の人であれ、企業を使いたいのか農協を使いたいのか、自由ではないのか。一方で規制緩和、自由だと言っておきながら、農協に対しては壊滅的な規制を加えようとする。
◆現場から危機感発信を
田代 准組合員の利用規制の問題は単に農協経営の問題ではなく離島などの生活はどうなるのかということですね。地方創生といいながら地方つぶしばかり、という感じがしますね。
私の考えではTPPを来年前半には片づけたいという気持ちが政府にあって、それを睨んで農協改革をしゃかりきになって進めたいということだと思います。その意味では今度の選挙は重要になってきます。
普天間 従来のように自民党を応援すると規制改革会議のあの案を認めた、となる。そうは思われたくない。政策協定を結ぶことも必要です。
田代 JAおきなわの実践をお聞きすると合併から12年、小さな離島も抱えるなか実態に即していくつもの改革は行いながら、県単一JAとして地域を守る最後の砦の役割も果たしていることがよく分かります。
普天間 政府が現場の実情を分からないで改革はこうやれ、とは絶対に言えないし、言うべきでもない。われわれは肌で感じているからできるのであって、まったく分からない立場でしかも一律にこうしろ、というのは無理なことです。
田代 ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
沖縄の人びとの気概がビンビン伝わる、目から鱗のインタビューだった。歴史は繰り返す。今日の農協「攻撃」は米軍占領下の沖縄で起こったこととウリ二つ。自由化という背景も同じ、アメリカの利害が背後にあることも同じ。しかし沖縄はそこから立ち上がった。その後、破綻農協も出たが、オール沖縄の1県1農協化で乗り越えてきた。全中も「自己改革」で合併を打ち出しているが、「それしかない」というギリギリの必然に基づく必要がある。
准組合員の利用を制限して誰が離島の生活を守るのか。JAは「もうけ追求」ではなく、リスクカバー、農業振興のための投資、そして事業分量配当のために「安定的収益(剰余)」を追求すべき、全中監査は頭に来るほど厳しかったが、それがあったからこそ今日のJAおきなわがある、と言い切られる。
歴史と経験に裏打ちされた発言の一つ一つが腑に落ちるものだった。
(田代洋一)
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