【農業・農協改革】地域の協同活動を支援 生活・営農施設を充実 小内敏晴・JA佐波伊勢崎(群馬県)常務2014年12月22日
・支店の再編は距離より機能
・居心地を優先、利用者増える
・葬祭場の利用9割の地区も
・雪害の支援で8割が復興へ
・正・准の協力は農協法の前提
・原則に即した業務指導監査
明治時代の組合製糸発祥の地、群馬県南部の佐波郡。その伝統は組合員も非組合員も区別なく、地域の人々の生活を支援するJA佐波伊勢崎に生きている。直売所や冠婚葬祭、食材の宅配など幅広い地域サービスを展開。小内敏晴常務は、「こうした地域における協同の活動支援が農協の役割」として、生活や営農関連事業の体制を整備し、施設の拡充に力を入れる。(聞き手は田代洋一・大妻女子大教授)
利益は積み立て将来の投資に
◆支店の再編は距離より機能
田代 JA佐波伊勢崎管内は、急速な都市化で混住化が進んでいます。准組合員を含め、どのように組合員サービスに務めていますか。
小内 組合員は約2万人余り。うち准組合員が1万2600人で、あっという間に増えました。この数年の支店再編の取り組みが功を奏したのだと思います。
ポイントは支店の再編にあります。一番集客力が高い場所は農村部と街の入口付近で、幹線道路から外れないところ、つまり組合員、准組合員双方に便利なところです。直売所も同じですが、そこに設置すると潜在的な利用者を増やすことができます。
27年をめざし、13カ所の支店を8カ所に統合しています。営農センターは5カ所にまとめる構想で、営農指導、経済事業を集約、生活センターは6つの直売所、3カ所のメモリアルホール、それに食材センターなど、生活関連事業を統括しています。食材センターは1000カ所余りに食材の宅配を行っていますが、これが好評で、将来は安否を確認する、お年寄り見張り隊に発展させたいと考えています。
支店統合の際には、組合員サービス維持のため、距離と中身のどちらを重視するか議論し、少々距離を犠牲にしても中身の充実を選択。つまり人員を充実させ、専門性を高め、ワンストップで組合員ニーズに対応しようということです。
(写真)
小内敏晴氏
◆居心地を優先、利用者増える
田代 支店が遠くなるため、地元の組合員の反発はありませんでしたか。
小内 最初は心配でしたが、いまは評価され、貯金残高が増えました。地元の銀行や信金などと同じか、それ以上にサービスが評価されたのだと思っています。3カ月で3割近く貯金が増えた支店もあります。それも新規でなく、もとからの地域の人の貯金です。このとき思いました。われわれは先入観にとらわれ、地域の人が何を一番に求めているのかを見切れていなかったと。
支店まで3kmくらいだったのですが、統合後、遠くても5km以内に収まりました。少し遠くなった分は、出向く渉外でフォローしています。支店運営の目標は、来店者になるべく長時間滞在してもらうこと。サービスデーを設けて花を配ったり、出張直売所を出店したり、趣味のギャラリーを開いたりして、少々遠くても行ってみたいという雰囲気づくりに努めています。
地域の少年野球やサッカーチームにはスポンサーとして支援。少年野球のチームは28、サッカーは20ほどの少年チームがあり、地区名のイニシャルをとった「ASITA杯」の争奪戦を行っています。いまではリトルチームの正式な大会として認知され、子どもだけでなく、若いお母さんたちにも農協のことを知ってもらう機会になっています。
◆葬祭場の利用9割の地区も
田代 支店の活動はまさに農協の地域活動ですね。直売所やメモリアルホールはどのように位置づけていますか。
小内 直売所のコンセプトは、土地柄ゆえに嗜好品ではなく、一般野菜を地元の人に提供することです。6直売所で約13億円を売上げますが、1店舗で大きな売り上げをめざすより、細かく配置し全体の売上げを大きくすることが大事。できるだけ近くにあって、生産者が出荷しやすく、消費者も来店しやすいようにとの考えからです。
また、地域によって客層も違い、それに合わせた細かな対応が必要です。商品構成として直売品率7割が目標。それを下回るとスーパーとの差別化ができません。だから店長は大変。全員が営農指導員の経験者ですが、新たな出荷者会員の確保、新品種の導入、栽培指導と、血眼です。
出荷者には養護施設の農場もあります。プロに負けない品物が出てきており、その収入が施設の運営に大きく役立っています。障がい者にとっては、働く喜びと生きがいです。こうした福祉活動を通じて、地域に貢献ができることは、農協としてうれしいことです。
メモリアルホール3つのほか、法宴場が4か所あります。メモリアルホールは地域になくてはならない施設で、9割前後の利用率の地区もあります。もともと冠婚葬祭に不要な費用をかけさせないという、かつての農村における新生活運動の流れがあり、農協の事業として当然のことです。葬儀のお世話をする農協の職員は最初、とまどいますが、遺族の方に感謝され、軽薄なプライドが崩れ、「これから、この人たちと一緒にやっていこう」という気持ちになります。法宴場は法事や宴会などができる施設です。農協で4ヵ所も持つのは、全国でも珍しいのではないでしょうか。
田代 メモリアルホール利用率90%は、組合員以外の人も利用しているとということですね。
小内 葬儀のときは准組合員になってもらっていますが、そもそも亡くなった人を組合員、非組合員で扱いに差をつけることはできません。不必要な贅沢を排除して、誰もが葬儀を出せる価格を提示することが大切です。今秋、日本政府の「JA攻撃」を懸念して調査で来日したICA(国際協同組合同盟)のバンセル氏が視察に来て、農協の葬祭事業に感心していました。ほかに墓石や墓地の斡旋など、組合員のニーズがあることのほとんどをやっています。
◆雪害の支援で8割が復興へ
田代 西川農水大臣は、地域のことは行政に任せろといっていますが、地域の生活に農協は欠かせない存在です。地域農業にはどのようにしていますか。
小内 行政に任せろというのは現実をまったく踏まえない戯言だとしか思えません。地域が何を必要としているかは、地域に密着していなければ分かりません。JA佐波伊勢崎は立地を生かして、首都圏向けの園芸販売に力を入れています。施設ハウスのトマト、ナス、キュウリ、露地のダイコン、ゴボウ、ネギ、ブロッコリーなどです。
田代 それが今年の春に大きな雪害がありました。どのように対処しましたか。
小内 ビニールハウスの8割、約140haが倒壊。直ちに災害対策本部を立ち上げ、まず、全職員を動員して倒壊ハウスの撤去しましたが、今もパイプ資材が不足し、再建中が4割で、完成率は1割そこそこです。
今年の春作は無収入になるので、急遽、無加温、露地の代替作物を入れましたが、来年の春作が間に合わないと、2作がだめになってしまいます。
少々の高齢者の離農があるかも知れませんが、8割はこれまで通りか、規模拡大による復興の意志があります。農協は積立金2億円取り崩しをいち早く決定しました。被害を受けた方に被害対策として、10a当たり撤去費3万円、復興対策で再建7万円、合せて10万円を実施。ほかにパイプハウスや廃材の処理、見舞金など、全体で3億円近くになります。
(写真)
農協の力で耕作放棄地を解消
◆正・准の協力は農協法の前提
田代 規制改革会議は事業で利益をあげろといいます。そうなると、こうした災害時の助成金はカットして配当に充てろということになるでしょう。
小内 そんな意見をいう人は、地域に協同組合が何のためにあるのか分かっていないといわざるをえません。配当も大事ですが、それは十分な備えができてからのこと。これから厳しい経済環境が予想されるなかで、そのリスクを考えると、可能なときに積立てするのは当然。もしもの時の大きな備えとなります。
夏キュウリの選果場をつくりたいと思っていますが、それには10億円の投資が必要です。規制改革会議は、そのための体力をも温存するなというのでしょうか。JA佐波伊勢崎は、同規模の農協に比べ、資産の取得も処分もかなり大きくなっています。常に生産施設のリニューアルを図っているからです。
田代 准組合員の比率が高くなっていますが、准組合員の位置付け、とくに共益権についてどう考えますか。
小内 准組合員の規定は初めから農協法にあったものです。戦前の産業組合は非農家も組合員でした。つまり、それを配慮して農協法で准組合員として位置付けたのだと思います。
正組合員が正規メンバーで、准組合員は一段劣るよう論じられていますが、それは間違い。農協は正・准の組合員が協力して成り立っているものです。
「本来の農協たれ」と、規制改革会議はいっていますが、もともと農協は職能組合ではありません。農業者以外の組合員が経営を支配しては困るため正・准を設けたのであり、初めから農家オンリーだったというのは間違いです。
農協は、本当に農業生産だけを目的とするものではなく、協同活動で得た成果をメンバーに戻すためにあるのだと思います。営農に必要なサービスを提供し、組合員はこれを利用して所得をあげ、生活を向上させるのです。
◆原則に即した業務指導監査
田代 中央会について、規制改革会議は農協法である必要はない、監査もいらないといっていますが。
小内 中央会が、単協の自由な活動を阻害するといいますが、そんな声は聞いたことがありません。公認会計士の監査が公平だといい切れるでしょうか。委託企業から監査料をもらうのですから委任者、受任者の関係に陥り、そこから粉飾決算などの事故が起こったりするのではないでしょうか。
業務指導監査は、協同組合たる事業を行っているかを監査します。経営の効率はその原則が守られてこそだからです。また公認会計士の監査は守秘義務があるため農協の事業を横展開できなくなるという心配もあります。農協はさまざまな経験を情報交換して、ここまで発展してきたのです。
田代 幅広い地域活動を聞かせていただき、ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
同農協は農業地帯であると同時に都市化が進んでいく地域で、准組合員も急速に伸びている。
同農協は園芸シフトを図り、雪害で倒壊したハウス撤去の手伝い、3億円の支援など農業面でがんばっている。
同時に支店を集約しながらも、その立地をきめ細かく配慮することで貯金額を大幅に増やし、直売所やセレモニーホール・法宴場を一点集中ではなく複数展開することで利用増につなげている。セレモニーホールは直営で、配置された若手職員も最初はひるむものの、人を弔うことの大切さにめざめるという。
同農協の行き方は規制改革会議の認識と真逆で、生活事業や准組合員利用が農業面への注力を阻害するのではなく、相乗効果を発揮していることを実践で示している好例である。
(田代洋一)
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