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【農業・農協改革】 もう黙ってはいられない! 村上光雄・JA三次(広島県)代表理事組合長2015年1月13日

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・昔から担い手は不足!
・誰が農業振興をするのか!
・地域協同組合では、なぜいけないのか!
・全中の農協経営指導は必要ないのか!
・役職員の意識改革なくしてJAの将来はない!

 農業・農村にとって平成27年は早々から「農協改革」が大きな焦点となる。JAグループは自己改革の実践が重要で政府が進める関連法制度の見直しもそれを後押しすべきものであるべきだ。しかし、農協改革はその論議の当初から現場の実態をふまえたものとなっていないと批判は根強い。改革はどうあるべきなのか? JA三次の村上光雄組合長は、それを考えるには改めて戦後日本の農業・農村の歩み、農協の果たした役割への理解が不可欠だと強調する。そのなかからこそ「最大の危機」を乗り越える道も見えてくるはずだ。

危機感もって
自らの実践を示そう

村上光雄・JA三次(広島県)代表理事組合長 今回の規制改革会議の内容が余りに歴史認識の欠如、現状認識不足、メチャクチャな理論展開での言いがかりでありでっち上げなので反論するのもアホらしく、黙っていた。けれどもここにきて総選挙も終わり、岩盤(そもそも大切にするもの)をドリルで破壊する工事が一気に推し進められるということになってはもう黙ってはいられない。
 しかも在日米国商工会議所の提言でも判明したように、喜ぶのは米国の金融保険会社であるということになってはなおさらである。
 また私の一生である農業農村生活、農協運動のすべてが崩れ去り、抹消されることになるとあってはもう我慢できない。

◆昔から担い手は不足!

 私が大学を卒業して就農したのは昭和39年、オリンピックの年である、農業すると言ったら「バカか」といわれ、極小数派であり異端者扱いされた。それは中学校を卒業した昭和32年当時からそうであった。同級生はどんどん他産業へ都市へ出ていき家庭の事情で出られない者が残らざるを得なかっただけである。原因は今と同じように農業が儲からないからであり、他産業との所得格差があるからである。あれから50年、変わったことといえば少子高齢化社会となり人口減少が始まったことであるが、そのことも東京一極集中も当時から分かっていたことであり、ただ最終局面に入ったというだけである。
 当時、私も青年農業者として「一日内閣」でときの佐藤首相に青年向け農場の創設を提案した。せめて今残っている青年が続けて農業ができるようにしなければ日本の農業農村は大変なことになるとの思いからである。選別政策と混同されてしまったところもあり私の思いは実現しなかったけれども、その後の農業青年育成基金、後継者育成資金などにつながっていったように思う。
 それにしても半世紀の長きにわたり政府、農水省は何をしていたのか。「戦後レジュームの転換」をいうのであれば、まず政府、農水省は戦後農政の総括をし、その反省の上に将来展望を明らかにすべきである。にもかかわらず農協が妨害したとして自分の農政失敗を農協に責任転嫁するなどもっての外である。農協は民間組織であり、建議、発言をしながらも協力してきた。そして今後ともそのことには変わりはない。

◆誰が農業振興をするのか!

 今農政の現場がどのようになっているのか規制改革会議の先生、国会議員の先生は本当にご存じなのであろうか。
 安上がり農政のおかげで農業改良普及員は激減し農業試験研究機関も縮小削減され、そして県市町の農政担当者は行政改革、広域合併によりこれまた激減している。その穴埋めをしているのが農協の営農指導員なのである。本来の営農指導のため外に出たくても、生産調整、中山間地域直接支払、経営安定対策等々のデスクワークが増え、農家回りをしたくても出来ない状況が続いているのである。そして農産物販売額が減少し事業収益が減少しても、要員削減もできず、厳しい経営環境のなかで地域農業振興のために汗水たらしながら踏ん張っているのである。
 私が合併前の三和町農協の組合長に就任したのが昭和56年39歳の時である。若くして農協経営を任され、意気に感じて酒米生産販売の拡大、野菜の契約生産販売、特産物の開発販売もし「ふるさと会員制度」もスタートさせた。また豆腐などの加工施設から堆肥センターなどの生産基盤整備などあらゆる農業振興方策を実施してきた。
 しかし、新規就農者は増えなかったし農産物販売高も減少を食い止めるのが精いっぱいで増加することはなかった。海外農産物輸入による価格低迷と高齢化の進行により「笛吹けど誰も踊らず」ということであった。このように我々は必死になって地域の農地を守り農業生産を拡大するために努力をしてきたし今もしている。しかし経済情勢、社会情勢が急速に変化し「猫の目農政」に振り回されながら忸怩たる思いで頑張っているのである。
 また時には行政が補助金、助成金があるからといって推進した大規模経営の借入金返済の尻拭いまでさせられた。何が信共分離、専門農協化だ、まったくもって腹立たしい思いである。
 だが要はいったい誰が営農指導を、農業振興をするのかということである。
 農業所得倍増、地方創生けっこう、しかし現場力を削ぐようなことばかりしていては、農業も地域も衰退するばかりである、いな加速することになるであろう。

◆地域協同組合では、なぜいけないのか!

行政・商工会議所とJAが三セク方式で設立した広島三次ワイナリー。もはや地域になくてはならない存在となっている。 我国は島国で土地が狭隘で平場が少なく都市と農村が混在しており、大規模経営ができないから兼業化が進行した。また地域全体が農村社会であることから、そこに存在する農協も地域協同組合的な要件を具備するようになり、特に農村部では地域住民のライフラインと大きくかかわることとなってきたように思う。
 その農協から信共分離し、農業専門農協化することは現在のライフラインを破壊することになり、地域住民の生活に混乱をおこし、将来に対する不安を増幅するだけである。そんなことは企業に任せるか、株式会社化すればいいではないかと反論されると思うが、企業は儲からなくなったらすぐに撤退する。現に介護福祉事業で、それが起きている。そして株式会社化はすでに一部の事業で取り組んでいるところであり、とやかく言われる筋合いではない。そして地域振興にしても行政、商工会議所と一緒になり三セク方式で広島三次ワイナリーなり三次ケイブルビジョンを運営しており、もはや地域になくてはならない存在となっている。
 もし農協が規模を縮小し、撤退していくことになれば地域の活力は益々衰退していくばかりである。
 また専門農協化については過去に経営が行き詰まり総合農協に吸収合併された歴史がある。信用部門がないために大きな相場、景気の波を受けたら持ちこたえられないのである。そんな不安定な状況では組合に加入する者はいないであろうし要員確保もできない。そうなればとてもではないが安定的に営農指導など出来なくなってくる。総合農協だからこそ赤字でも営農指導が継続して実施されているのである。それでも専門農協化を図ろうとするということは何かほかに郵貯と同じように米国の金融保険会社の意向に従って日本市場への参入の便宜を図ろうということか。

(写真)
行政・商工会議所とJAが三セク方式で設立した広島三次ワイナリー。もはや地域になくてはならない存在となっている。

◆全中の農協経営指導は必要ないのか!

 「全中が農協の自由を拘束している」ということがウソであり、完全な言いがかりであることは、とうの組合長がそのように思ったことがないのであるから本当であるし現実的に全中にそんな力はない。私はむしろもっと全中は指導力を発揮しないと農協組織はだめになるとの危機感をもっている。にもかかわらず官邸は錦の御旗として掲げ、マスコミはそれを鵜のみにして報道するのであるからたまったものではない。
 そもそも模範定款例は農水省の省令で定められたものであり、単協の定款変更も行政庁の許認可が必要である。すべては行政指導の延長線上のことでありこのことを云々いうのであれば農水省の規制改革をすればいいことである。
 話をもとに戻すと、今回の規制改革会議のなかにも出てくる役員の兼職禁止の問題にしても、私は三次ワイナリーの社長をしていたが兼職禁止が強化され辞めた。三次ワイナリーへは市と農協が1億円づつ出資しており代々農協の組合長が非常勤で社長を務めていた。1億円も出資しており地域の重要な三セクの会社であるので農協の代表者が出なくていいのかと迷ったが指導に従った。
 ところが今回、外部からの役員登用を図る観点から見直しがされるようである、このように我々は絶えず農水省の指導管理下におかれているのである。また模範定款例が示されないとなると経営基準がなくなりそれこそ自由放漫な経営に歯止めがかかりにくくなることが予測される。そんなことでよいのか慎重に検討してもらいたい。

◆役職員の意識改革なくしてJAの将来はない!

 我々が自己改革をしなければならないことは当然のことである。今回の規制改革会議の挑戦状を受け、またこのことを絶好のチャンスととらえて危機感をもって改革を実行していかなければならない。
 まず一つに准組合員の問題である。このことについては第26回JA全国大会の議案審議において先送りした経過がある。今になってなんらかの対応策を打ち出すべきであったと反省している。しかしそれは規制改革会議のような利用制限ではなく、共益権(議決権など)の付与というかたちでの検討である。すくなくともオブザーバー参加という形ででも運営参画の方策を検討すべきであった。まず各JAで出来ることから実行していくべきだと考える。
 二つに整促方式(予約購買、全面委託販売など)の見直しである。この事業方式が始まってからすでに60年近くが経過しており委託販売が当たり前のこととなっているが、リスクがないということで安住し、自ら販売するという危機意識がなくなり、また消費者動向にうとく、適切な営農指導も出来なくなっているのではないか。従ってリスクはあるけれども段階的に買取り販売を導入すべき時期に来ていると考える。もちろんそれへむけての先物市場、全国連あげての保険制度の創設などの環境整備も必要であることも当然のことである。
 三つに平等から公平にということである。これまでは共同でコスト低減ということが最優先で品質に差があってもすべてプール処理、共同計算である。施設の関係で物理的に出来ないこともあるが、すべて個別処理とはいかないまでも品質ごとに処理、販売していくことを考えなければならない段階にきている。そのことは情報処理技術も発達し可能となってきているし、ネット販売もどんどん導入していくべきである。
 最後に系統三段階のもたれあいである。助け合うことは当然のことであり必要であるが、問題はそれに甘え依存しきってはいないか。単協は単協として、県連は県連として、そして全国連は全国連としての役割しっかりとわきまえたうえで自己完結できる体制となっているかということである。戦後農協が誕生して60年余り、組織の最大の危機をむかえ、我々役職員が意識改革しないことにはJAの将来はない。

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