JAの活動:JA 人と事業
【JA 人と事業】第6回 藤尾東泉・岩手県JAいわて中央代表理事組合長に聞く2013年7月1日
・「志和型複合経営」原点に
・周りの人に助けられて
・九州の野菜作が刺激
・個別経営の受け皿に
・個々農家の意思尊重
政権交代で集落営農の先行きが不透明になっている感があるが、岩手県のJAいわて中央は、地域の農業の実態を踏まえ、集落営農をベースに、環境保全型農業を基本に米と野菜、そして畜産を組み合わせた「食農立国」ブランド化による地域農業の再構築に取り組んでいる。藤尾東泉代表理事組合長に集落営農の位置付け、将来方向を聞いた。
「志和型複合経営」原点に
集落営農ベースに野菜、畜産
――これまで、農業・農協とのかかわりを話してください。
父が、かつて志和農協の役員で、当時盛んだった「志和型複合経営」を勧めていました。小規模でも稲作に畜産、野菜を組み合わせた有畜複合経営によって、農業で生活できる経営を確立しようというものです。そうした父の勧めもあって大学卒業後農業に就きました。農協青年部に傾注するようになって県組織の会長などを務め、その後、JAの指導者となった多くの仲間とつきあい、貴重な体験ができました。
就農して肉牛の繁殖経営を始め、ピーク時には43頭ほど飼育していました。農協に勤めるようになってから減らし、今は妻が中心で19頭の経営です。2人の知的障害者を20年以上、住み込みで預かっています。彼らは一人で立派に牛のお産の手伝いができ、大変助かっています。動物が好きなようですが、動物の世話をするということは、知的障害のある人には合うのでしょう。こうしたことがあって、これまで牛の飼育を続けることができました。ここには経済的なこととは又別の価値観があるのではないでしょうか。協同組合の精神とつながるところがあるように思います。
◆周りの人に助けられて
農協青年部の活動を経て、平成2年から紫波町農協の理事になり、11年盛岡市、紫波町、矢巾町の3JAが合併して岩手中央農協となります。そこで平成12年から、専務を経て組合長を務めています。常勤となって初めて農協の運営に関わったときは戸惑いました。経営のことを知らずよく常勤になったなと。青年部のころから教育が重要だとは思っていましたが、常勤になって、特にこのことを痛切に感じました。当時のJAの経営状況は、自己資本の基準は達成しておらず、事業利益もマイナス。大変なところに首を突っ込んだなと思いましたが、それでも周りの人に教えられ、支えられながらなんとか乗り切ることができました。
そのころJA全中のマスターコース?を受講しましたが、ここでは多くのことを教えられました。考え方が90度くらい変わったでしょうか。JAの経営環境、経営戦略、さらにはトップとしてのあり方などのカリキュラムの中に、全国でも一流のJAの視察があり、それまでは、農協は農家のつくったものを売るのが役割だとくらいにしか思っていなかったのですが、そうではなく、川下から川上へ、つまり消費者が求めるものをつくらないとだめだということを痛切に感じました。
◆九州の野菜作が刺激
あちこちの先進的JAを見て、俺たちも負けておれないという気持ちになりましたね。志和型複合経営のパターンは分かっていましたが、まず、驚いたのは九州の複合経営の品目の多さです。もともと米だけではだめだというのが志和型複合経営です。岩手にはヤマセによる冷害があり、リスクを減らすため、地力を維持する畜産も入れ、品目組み合わせのバランスが必要です。しかし、実際にうまくいったのはせいぜい2つか3つの品目です。結局、販売額の半分は米で、米に頼らざるを得ない実態が分かりました。畜産も園芸ももっと増やしたかったのですが、他産業の所得が高いとそっちの方に労働力は流れます。
――野菜作がなぜ増えなかったのですか。
やはり外国の輸入農産物の影響が大きいと思います。志和型複合経営で夏秋キュウリを中心に導入をはかり、当初は順調でした。品薄の時は一気に価格が3倍になることもあり、安値が続いても、いつかは必ず儲かるから楽しみもあったのです。しかし野菜の関税は3%。国内で不足し価格が上がると、すぐ外国から入ります。同時に、技術的に増収の出来ない農家は、採算面から脱落してしまいます。
農業を知らない人々は、規模を拡大すればよいといいます。しかしキュウリのように毎日手作業で収穫しなければならない品目などは、とても大規模化できるものではありません。米価も下がって、年金でコストを補てんするようになった。そのような中では後継者ができるわけがありません。結局は土地を集約し、コスト低減をはかることになりました。
――集落営農ならコスト削減し安定した経営ができるのでしょうか。
◆個別経営の受け皿に
2万円(60kg)だった米価が1万2000円まで下がり、コストを安くするには個人担い手と集落営農しかないという考えで取り組んでおります。国の担い手経営安定対策に加入するには、集落営農では10ha以上、個別経営では4ha以上という面積が必要だったということもありました。安定対策が戸別所得補償制度になりましたが、このとき農家経営はすごく助かりましたね。
しかし、個人の担い手には限度があります。もし本人が病気などで倒れたらどうしようもなくなります。そのサポートをするのが集落営農の役割の一つだと思っています。つまり、個人担い手を集落営農の一端に組み入れて安定させるのもひとつの方法です。JAとして、個別経営だけの組織をつくる必要があるのではないかと思っています。JAがそのような対策をとっていかないと、個人担い手がJAから離れてしまいます。
――営農集落の将来像をどのように描きますか。
JAいわて中央の個人担い手は98名、集落営農56と合わせ、全面積のカバー率は65.5%となっております。この中でも、これからの農業は環境にやさしい消費者に選ばれる環境保全型の農業が中心となるでしょう。現在、特別栽培米が中心となっている都南地域に、構成員939名、面積960haの大型農事組合法人があります。ここは、米粉を使用し製麺業者と連携した米粉麺、じゃじゃ麺、冷麺等をも作っております。
このように、特別栽培を含んだこだわりの農業も必要と思われます。さらに他の地域で土地利用型の農業として米を中心に麦、大豆など他の品目をうまく組み合わせた所が成功しております。例えば、転作に前半は枝豆を出荷して、最終的には大豆として収穫し、最後には味噌まで加工している法人組織もあり、この組織は平成24年に大豆の集団の部で農林水産大臣賞を受賞しております。
またある組織では、作業班を作って30aほどのキャベツを契約栽培し、JAを経由して販売しております。価格は通常より高値ですが、毎日決まった量の出荷が義務付けられており、主に集落の高齢者を中心に早朝の1時間ほどをこの作業にあてております。これらの人たちは、世間話もできるこの働き場所が生きがいとなっております。
平成24年において、園芸作物を新規増反した個人担い手は25名で面積は35ha、集落営農組織では18組織、面積は16.7haにのぼりました。
しかし、個人担い手には後継者がいればいいのですが、後継者がいないところは経営は無理です。集落営農を含む法人組織に受け継がれると思われます。
――両者は補完関係にあるということでしょうか。
◆個々農家の意思尊重
そういう形になるかもしれませんね。法人化しているところも、全部を法人が確保しているわけではないので、いま急いで個人担い手を組み込むと軋轢が生じるでしょう。ただ、米価がこう安いと早まるかもしれません。特に米の大型経営は投資額も大きく、一気に返済金の支払いができなくなるおそれがあります。
――将来の農業の形をどのようにイメージしていますか。
若い人を雇える経営体を作ることです。その点で集落営農を選ぶか、個人担い手の経営でいくかは、個々の農家が決めることです。
ただ、個人担い手として10ha規模の経営でないと成り立たないので、集落営農の形をベースに、それぞれきちんとやれる形をつくっていくことが大事です。麦か大豆かではなく、最終的には野菜や畜産の地域複合経営を組み合わせた農業の形を作っていきたいと考えています。JAにはそのための条件を整え、支援する役割があります。
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