JAの活動:しまね協同のつばさ
農業団体統合がもたらしたもの2013年8月22日
・統制経済と農業団体法
・ICAへの加入と脱退
・営農指導と農政活動
・集落組織をかかえこむ
・報徳思想の体制化と戦後の課題
1943年、戦時体制のもと、産業組合や農会などすべての農業団体は、農業会に統合され、戦争遂行のための国策機関になった。 しかし、その期間は短かく、統合による総合性は、戦後農協の性格を基礎づけた。
産業組合は、すでに大正年間に国際協同組合同盟(ICA)から、真に協同組合であるかどうかの厳しい審査を受けたのち、加盟を認められた。だが1933年に、わが国が国際連盟から脱退したのに伴ない、産業組合もICAから脱退した。
しかし、戦後いち早く協同運動を再開し、ICAに再加盟した。 一方、農会は農業会への統合によって、協同運動は法律的に否定された。しかし、その下部組織は事実上の協同運動を続け、戦後農協の中核的な母体として、農村共同体の盾になった。
◆統制経済と農業団体法
日中戦争から太平洋戦争へと戦争が拡大するにつれて、国内の軍国主義体制は強化され、経済も戦時統制の下におかれた。農業においても1938年の物資動員計画によって供出と配給の体系が導入され、産業組合がその実施機関とされた。
兵役による労働力不足とこの統制経済によって農業生産は低下を続けたが、生産が縮小するほど統制が強化されるという悪循環が始まった。統制経済への移行を「資本主義でも社会主義でもない産業組合的経済組織の実現」だとして時局に旗を振る学者も現れた。
1943年には農業団体法が公布され、全国規模の農業団体はすべて「農業会」に統合されることになった。対象となったのは産業組合中央会、全国購買販売組合連合会、産業組合中央金庫のほか、帝国農会、帝国畜産会、茶業組合中央会議所、全国養蚕組合連合会である。これら団体の下部組織もやがてすべて農業会に所属させられることになった。
農業団体法は、農業会の性格を「農業ニ関スル国策ニ即応シ農業ノ整備発達ヲ図リ」として完全な国策機関としており、産業組合の協同組合としての性格は完全に否定されたことになる。
農業団体統合の時代は短かったこともあり、農協史では統制経済に伴う一時的なものとして軽く扱われることが多いが、戦後農協の直接の母体となるのはこの農業会なのであるから、そこでは産業組合の何が捨てられ、何がつけ加えられたのかをよくみておかなければならない。この時期は日本型総合農協の成立にとってきわめて重要な位置を占めている。
◆ICAへの加入と脱退
捨てられたものの第一は協同組合としての産業組合である。そもそも産業組合は果たして協同組合であったかどうかという議論もあるが、産業組合中央会はすでに大正年間に国際協同組合同盟(ICA)に加盟していた。ICAでは協同組合とその疑似組織を峻別するための国際協同組合原則を備えており、わが国の産業組合はそれをクリアして協同組合と認定され、ICA世界大会にも代表を送り続けていた。
しかし産組は、農業団体法を待たずに協同組合としての国際連帯の立場を放棄した。1933年に日本国は国際連盟を脱退したが、これに合わせて多くの団体が国際組織を脱退し、産業組合もそれに習った。再加盟するのは戦後の1947年からである。
農業会は「農業ノ統制ニ関スル施設」であり、国家のための組織であって組合員のための組織ではないことが法に明記された。また会員は地域において一定の資格を有する者の当然加入であり、加盟脱退の自由はない。役員の選任も地方長官の任命制であり、組織としての自主性はない。農業団体法によって協同組合としての産業組合は法律的にも消滅し、反対物へと転化たのである。
◆営農指導と農政活動
会員の当然加入(会費も強制徴収)や役員の任命制などは農会との統合によって引き継がれたものである。すでに触れたように、農会は経済更生運動までは産業組合に優越する代表的な農業団体であった。それは最初は農業技術の交流発達を目的とする篤農家の集まりであったが、次第に地主階級の利益代表としての性格を強めた。 農会の役割は大まかに言うと農事指導と農政活動の2つであった。農業技術を高め、生産力の向上を図ることは地主の直接的利益であり、府県農会や町村農会に多くの技術員を抱えて農家の指導に当たっていた。稲作を中心として封建時代のほぼ2倍の反収を実現したいわゆる明治農法は、農業試験場と農会組織の活動の成果であるとされる。
農会はまた生産費調査などの調査機能を有しており、農業政策や経済政策について毎年のように政府に提言し、政友会と組んで国会での実現をはかるという一大圧力団体であった。地主階級は、戦前社会において資本家と並ぶ支配階級であったから、その政治力の強さはしばしばビスマルク時代の農政を牛耳ったドイツ農業者同盟とくらべられる。
農業団体法によって生まれた農業会は、事業的には産業組合由来の経済事業と信用事業に加えて、農会由来の指導事業と農政活動を合わせ持ったことになる。戦後の総合農協の事業基盤が整ったという意味でも農業団体法の影響は大きい。
◆集落組織をかかえこむ
しかし農会からもちこまれたものでいちばん大きかったのは集落組織ではなかったろうか。集落は共同体としての長い歴史をもち、封建時代の村に相当しており、自治組織というべき機構を備えて近代に繰り込まれた。産業組合拡充運動ではこれを農家小組合として産組に取り組んだ経過もあるが、それは信用力を持たない小作層を組織するための便法で、本格的に集落を下部組織としていたのは農会の方であった。
農会は集落組織を農事実行組合、農家組合、部落組合などの名称で下部組織としてかかえこみ、農事指導や共同作業の単位として生かしていた。明治の町村合併で集落の多くは独立した村から新町村の一部(ほぼ大字に当たる)となったが、町村役場もまた集落を行政区として活用した。このように農村における生産と生活の基礎単位としての役割をもつ集落が、農業会を経由して戦後農協の下部組織となったことは重要な意味をもつ。
総合農協につながる事業として厚生事業について補足しておこう。厚生事業の先駆をなす農村医療組合は、昭和恐慌期の貧困化によって生じた「医療地獄」から農民を救おうとする人道主義的な社会運動として始まり、経済更生運動の中で医療組合を産業組合に統合することが、医師会の猛反対を押し切って公認された。これは農業団体統合によってもたらされたというよりは、それ以前の産組運動の大きな成果としなければならない。
◆報徳思想の体制化と戦後の課題
最後に報徳思想のたどった道についてみておかなければならない。民間の経済倫理としての報徳思想は、国家総動員体制の下で国家公認の道徳規範として国民的な規模で影響力をもつことになった。全国の国民学校に薪を背負った金次郎像が建ち、「手本は二宮金次郎」と歌われた。報徳の普及という点ではこの時期についに頂点に立ったことになるが、それは皇国イデオロギーとの一体化によるものであった。
内容的にも、経済更生運動までは報徳仕法による村づくりなどの尊徳的実践が重視されていたが、尊徳ではなく金次郎少年がシンボルとなることによって、仕法や推譲の協同思想が後退し、もっぱら勤倹貯蓄と忠孝の道が強調されることになった。体制化した報徳は大日本帝国の崩壊と共に崩壊し、戦後社会での影響力を著しく損なうことになる。
戦後の思想界や宗教界は、戦争協力の責任をめぐって大きく揺れ動き、この問題をしっかり総括できたところから復活するという経緯をたどるが、報徳についてはそのことがあまり明瞭でないのではないか。筆者は、報徳思想がわが国独自の協同思想としてなお有効であり、現代においてもっと大きな役割を果たすことが出来ると考えているが、そのためにはクリアすべき課題もまた大きく残されていると言わなければならない。
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