JAの活動:JAは地域の生命線2014
【JAは地域の生命線2014】JA糸島(福岡県) 食と農の活動が基軸、組織改革続ける女性部2014年1月28日
【現地ルポ】
・組合員家庭は全員が女性部
・女性部会から男女共同参画
・地産地消運動食と農を結ぶ
・組織活性化とグループ活動
【インタビュー・中村俊介代表理事組合長】
・設立から50年、直売所が活気
・糸島ブランドをしっかり育てる
・新規就農者の研修の場作る
・地域密着型の女性部活動を
・「生産農協」の旗を掲げ続ける
JA糸島女性部は昨年、新たな組織づくりに取り組んで20周年を迎えた。新規約では「正組合員家庭の女性はすべて女性部員」としたのが画期的で、組織基盤はしっかりした。そのうえに立って女性農業者としての家族経営の課題、食農教育など次世代への伝承などさまざまなテーマで活動を展開してきた。今村奈良臣東大名誉教授とともに現地を訪ね、女性理事、女性部長に集まってもらい、これまでの歩みと今後の課題などを聞いた。
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JA糸島では女性のさまざまな能力を引き出す活動を大切にしている
【JA糸島の概況】
○組合員数:1万6731名(正組合員6063名、准組合員1万668名、25年3月末)
○販売品販売高:101億4900万円
○購買品供給高:74億2800万円
○貯金:1015億円
○長期共済保有高:4647億円(以上、24年度実績)
◆組合員家庭は全員が女性部
JA糸島女性部は昨年7月、組織改革20周年記念大会を開いた。掲げたスローガンは「絆?つなごう未来へ」である。20年の歩みを振り返り、今後の女性部による協同活動の展開やJA運営への積極的な参加などを誓い合った。
同JAでは平成5年に組織改革を実行した。注目されるのが、そのときに決めた新規約である。「部員構成」を定めた第3条には「女性部は糸島農業協同組合の正組合員家庭の女性及び、女性部が行う事業及びその目的に賛同する准組合員の女性をもって組織する」とある。つまり、正組合員家庭の女性はみんな女性部員とする、と決めたのである。25年度に新部長に就任した吉富美佐子部長は「つまり、死ぬまで女性部員ということです」と笑う。
同時に女性部員のメリットとしてポイントカード「レディスカード」も発行した。
当時、地域の婦人会活動が下火になっていくなか、JAの女性組織が地域の核になっていくための組織改革だった。正組合員家庭の女性はすべて女性部員という規約はあまり聞いたことがないのではないか。ポイントカードの導入とともに先駆的な組織改革だったといえる。現在、女性部員は4456名。規約にあるように活動に興味を持ったり賛同したりする人も准組合員になることを条件に参加を認めることにしており、現在、そうした自由加入者は226名を数える。
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女性部の活動拠点、食育研修センター「いきいき」
◆女性部会から男女共同参画
組織改革を契機に、女性部とJA理事との懇談の場を設けたり、JAも部長を理事会参与としたりしたのち、平成8年からは参与を女性理事とした。
また、学校給食に自分たちの農産物を納入しようというグループ「やってみよう会」の活動も始まる。「自分たちが作った野菜をなぜ子ども孫に食べさせられないか」との素朴な思いからだ。この女性部活動がきっかけとなって現在の糸島地域はもとより、福岡市内までのJAとしての学校給食への農産物供給事業が始まった。中村俊介代表理事組合長は「JAが女性部に突き上げられたかっこうです」と話す。
ただし、「女性」としての課題もさまざまあった。そのひとつが男女共同参画。この問題は男性側にこそ認識が必要だが、元女性部長で現在は理事の波多江小夜子さんは「自分としてはこれまでにもっとも力を入れてきたこと」と話す。
波多江さんは、夫と息子の3人で米とイチゴをつくる専業農家。波多江さんが力を入れたのはイチゴ部会に女性部をつくることだった。
「女性が自ら農業を学んで、そこから意識を変えることが大事と考えたから」と話す。部会では研修会や先進地視察などを行っているが、現在、参加者は100人ほどだという。この女性部会の活動によって「たとえば、夫から指示待ちではなく自分で考えて作業をするなど、労働改善にもつながった」という。男女共同参画には女性自らの意識改革が大切という波多江さん。部会を継続するためにあたっても役員のなり手が継続的に生まれてくることが必要になるが、波多江さんは「私でよければがんばります、という感覚でいいからと呼びかけています」と話す。
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波多江小夜子さん(元女性部長、理事)
◆地産地消運動 食と農を結ぶ
農業女性としての活動強化や男女共同参画といった課題のほか、食農教育活動への取り組みも女性部として力を入れてきた。
平成18年度から女性部が中心となって開いている「地産地消フェスティバル」もその代表的な活動のひとつだ。
それまで女性部では家庭菜園コンクールを行ってきたが、直売所への出荷などが当たり前になると、自給的な家庭菜園活動を対象としたコンテストの意味が薄れてきた。しかし、こうした場をなくすと、自分たちの地域で作っている農産物や家庭料理などをお互いに認識し次世代に伝えていくことも薄れてしまう。そこで食と農の重要性を地域にアピールし、農業者自身も研さんする機会にしようと企画したのがJA糸島「地産地消フェスティバル」である。
主催は女性部だが青年部、農政協議会、生産部会協議会などJAの主要組織と共催するJAあげてのイベントなっている。 8回目となる昨年11月のフェスティバルでは、あぐりキッズスクール参加者による体験発表や地元の農産物をつかった女性部員らによる料理レシピコンテスト、糸島の郷土料理「そうめんちり」の試食会などが行われた。 このフェスティバルは今は女性部活動の中核的なイベントなっており、地域住民へ食と農の大切さを発信する重要な取り組みだ。
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JA糸島地産地消フェスティバル。女性部の中核的活動だ
◆組織活性化とグループ活動
この20年の組織改革では、平成13年度からはグループ活動を組織することにした。多くのJA女性部が選択した組織活性化のための方策だ。糸島女性部には、文化教室グループや趣味グループのほか、農業生産や加工など目的別グループ、さらには共同購入グループ、年代別グループなども含めて24年度は231グループある。このなかには農業体験をしたいという消費者の活動を支援する「あぐりくらぶ」もつくられている。
参加者は糸島地域内の非農家のほか、福岡市内などからも来るという。活動内容はみかん収穫体験、みそ加工、こんにゃく作りや、さらには糸島めぐりなど。消費者を巻き込んだ女性部活動を、という問題意識から活動している。
一方、グループ活動について吉富部長は「どうしても自分の興味あるグループだけに参加して、女性部全体の活動に関心が向かない面もある」と現在の課題を話す。ただし、これはJA糸島女性部だけの問題ではないだろう。中村俊介組合長はそもそもグループ活動を軸にしたのは興味のある活動にまずは集まってもらい、再び組織全体として活性化するための「過程」としての改革だったと指摘する。それはまた組合員が主体となるJA運営にも関わることだからでもある。
たとえば、学校給食への農産物供給事業が女性部活動が契機となってJA事業となったほかにも、介護事業「ヘルパーステーション」につながったのも女性部による助け合い組織がきっかけになっている。この高齢者福祉事業はその後、高齢者専用住宅の開設にまで発展し、地域の高齢者と高齢者を家庭で支える女性農業者への負担軽減にもつながっている。農業生産はもちろんだが地域の課題に応えるJAの力を発揮するためにも、女性の発想や能力は欠かせない。 元部長で理事の富永あゆきさんは「農協がどうしてできたのか。農協がなければどうなるのかを私たちの世代が伝えていくことも大事になっている」と話す。
もっとも女性の正組合員加入運動には積極的に取り組み加入率は26.5%と県の目標を上回っている。
吉富部長は「女性にもいろいろな能力の人材がいる。参加して何かの役割を担えば自信を持つ。一歩踏み出してもらえるよう、背中をどう押すか、それができれば女性も組織ももっと元気になると考えて活動していきたいと考えています」と話す。
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上:冨永あゆきさん(元女性部長、理事)
下:吉冨美佐子さん(女性部長)
【JA糸島ファーマーズマーケット】
JA糸島のファンづくり
直売所『伊都菜彩』
JA糸島の農産物直売所『伊都菜彩』は、平成19年に国道202号バイパス沿いにオープンした。糸島管内で生産された農産物を中心に加工品や精肉、惣菜、乳製品のほか、地元漁協と連携した鮮魚までそろえている。常時2000種類を超える商品を販売、大勢のお客さんでにぎわっている。糸島産小麦のミナミノカオリ、チクゴイズミを使ったJA糸島オリジナルのうどん麺を開発しうどん食堂も出している。
出荷者は1468名(昨年3月現在)。農産物の出荷は正組合員のみ。加工品は准組合員でも出荷できる。24年度の販売高は約35億円。来店者数はレジ通過者ベースで127万人を数えた。
『伊都菜彩』は、組合員への5つの場づくりを目的としている。([1]高齢化する農家組合員や女性の担い手が活躍できる場[2]糸島地域の食に関わる産業者が連携し地産地消運動の拠点としての場[3]中間流通コストを可能な限り削減し農業所得の向上を図る場[4]共販品の規格外品を有利に販売し農業所得の向上を図る場[5]JAの共販から離れていった組合員をJAの販売事業に再結集させる場)。また、糸島の農産物を福岡都市圏を中心とした地域住民に提供して糸島ファンづくりをするとともに、次世代の食育活動の拠点としても位置づけている。
商品構成のうち農産物(野菜、果樹、花、米)は42%。地場産率は96%と高い。
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平成19年に開業したJA糸島ファーマーズマーケット「伊都菜彩」のようす
【インタビュー】
糸島の未来を耕す
中村俊介・JA糸島代表理事組合長
聞き手・今村奈良臣東大名誉教授
◆設立から50年、直売所が活気
今村 JA糸島は、50年前に郡単位で合併しましたが、郡単位で合併したのは、当時、大分県の日田郡とここ糸島だけでしたね。
中村 昨年、JA糸島設立50周年記念誌を発行するために、記録を振り返ってみたのですが、その当時の組合長さんたちの思いが感じられました。
14あった農協の組合長さんのたちが話し合った記録をみると、あまりに消費地に近いものですから、多種多様な農産物を生産・出荷していたのですが、時代とともに流通が変化してくると、福岡市にはもっと他の地域からも農産物も入ってくるようになったという危機感が伺えました。
そこで、糸島の農業はこれだというものを作って主産地にならないと他の産地に負ける。では、糸島は何を選ぶのかということが議論され、ひとつは米麦、それからみかんなどの果樹、そして畜産でいこうとなった。この3つを柱としてこれからの糸島農業、主産地形成をやっていこうと考えたわけですが、そうなると量をきちんとまとめて出荷しなければなりません。そこで絶対、糸島はひとつになっていかなければならないということから郡農協として合併したということだったわけです。
今村 それ以来、福岡市民へ農産物を供給するという役割を発揮してきたと思いますが、今は同時に福岡市からこの糸島に買い来てもらおうという事業も展開しています。直売所の「伊都菜彩」です。大変な賑わいですね。
中村 JA糸島の管内は福岡市の近郊ですからかなり都市化しているように思われますが、小学校の頃によく登った地域の中心、雷山の山頂からみるとかつてはずっと田園が広がっていました。しかし、ここ10年ほどの間にマンションが建ち並ぶようになって緑がどんどん消えていっています。 それと同時に直売所を構想した10年ほど前にはJAの販売高が70億円ぐらいまで落ちたんです。そのときにもう1回、100億円をめざそうという気運が盛り上がりました。しかし、今の部会を中心とした販売体制だけで復活できるのかという話にもなった。よく考えてみると後継者不足などの事情を考えると、共同出荷だけでは100億円復活は無理だろうと。
一方で、部会をリタイアしても、それまでは5反つくっていたが3反ならできるという人や、おじいちゃん、おばあちゃんが野菜をつくっているということも活用できないかということを考えたわけです。さらに女性部のメンバーからも自分たちで作るもので現金収入は得られないかという意向もあって、そういった農産物を全部合わせるとまだまだできるじゃないかいう考えで始めたわけです。
◆糸島ブランドをしっかり育てる
今村 オープンから7年で35億円の販売額は、今や日本一です。それも農産物だけでなく漁協と手を組んで水産物も販売していますね。牛肉、豚肉も自分たちの手で売ることを実現しています。それに女性たちの手による加工品も多く、花も大変な品そろえでした。
同時に学校給食への農産物供給や食農教育にも積極的に取り組んでいますね。
中村 学校給食は女性部のメンバーが納入グループをつくったのが最初です。自分たちの子どもになぜ自分たちの作ったものを食べさせられないかということから始まりました。ジャガイモ、タマネギから始まって、それにJAが喚起されたかっこうで米を納入するようになったという経過です。今は福岡市の学校給食にも米を納入しています。
今村 JAのキャッチフレーズは「糸島の未来を耕す」。どう農業生産を振興させていきますか。 中村 昔からきちんとした組織づくりができていましたから部会が非常に活発に活動してきました。今は31部会ありますが、イチゴやキュウリ、キャベツ、ブロッコリーなどが大きな部会がきちんと育ってきています。 部会による市場向け生産については「まる糸」ブランドを市場がどう評価してくれるかが課題になります。ただ、市場側も最近は自ら量販店など販路を開拓するようになっています。そこに糸島の農産物を売り込んでくれる。われわれの農産物を仕入れようということになれば、今度はこちらに責任がかかってくる。せっかく売り先を見つけていただいたのに評判を落としてはいけません。
たとえば、最近では荷姿も問題になります。これまでは5キロ、10キロという箱でしたが、今はもっと小さくしてほしいというニーズも出てきています。イチゴのパックはもう少し小さくしてほしいなどです。それにもしっかり応えながら、一方では多種多様な農産物を直売所で販売する。この両輪で農業振興を持続させていこうと考えています。
◆新規就農者の研修の場作る
中村 それから部会組織がしっかりしていることでJAとして助かっていることのひとつが新規就農者の受け入れです。これには市と改良普及所とJAが受け入れ体制を一緒につくっていますが、実際には部会がきちんと受け入れて初期研修をしてくれています。
ただし、JAとしてはいつまでも部会頼りではいけないということから、JAとしても全額出資の農業法人を来年度には設立して新規就農者の受け入れ体制を明確にしていこうではないかという方針を打ち出しました。
実は、年間20人以上の新規就農の申込みがあります。そのなかで農業者として定着できるのは1割程度なので、やはりきちんと自立して就農できるように希望者には研修が必要です。そのための機関としてもJA出資法人を立ち上げようということです。
今村 農業者として自立するためにも「伊都菜彩」が貢献しそうですね。 中村 新規就農希望者はみなさん、あそこで売れるからなんとかやっていけるはず、と言いますが、そう甘いものではありませんよ(笑)。名前を付けて売るわけですし、質のよくない商品は誰も買いませんから。
今村 消費者も目が肥えてきた、と。
中村 お客さんのなかには好きな生産者の農産物だけを買っていく人もいるほどですから。
それから新規就農対策と同時に農地保全も課題になっています。
今、青年部員は95人いてみな専業農家ですが、そのなかの果樹部会は高齢化で手入れができなくなったみかん農園の手入れを請け負っています。そこでJA出資法人が立ち上がったら、果樹園を維持するような保全活動にも取り組んでいこうと考えています。
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対談する今村教授(左)と中村組合長
◆地域密着型の女性部活動を
今村 女性部についてはどんな活動を期待していますか。
中村 やはり地域に密着した活動を期待しています。たとえば、それぞれの地域での農業体験教室などです。小学5年生を対象にした米についての教室を開くなら、米の歴史、文化を伝えることから始まって、田植えや稲刈りなどの農作業体験、そして最後には米やさらには郷土料理まで食べて学ぶところまで取り組みたいと考えていますが、女性部にはそのどこかの部分を受け持ってもらえないかと働きかけているところです。地産地消フェスティバルなども活発になってきましたが、さらに自分の身近な地域での活動を重視してもらえば地域も活性化するし、組織の維持していくことになると考えています。
◆「生産農協」の旗を掲げ続ける
今村 これからJA糸島がめざすのは何でしょうか。
中村 われわれは「生産農協」を止めてはいけないと私は言っています。いかに今の作付け面積と販売高を維持していくか。農業者は少数になるかもしれませんが、逆に活路が生まれるかもしれないから、その人たちの生活をきちんと安定させる事業をつくっていくのがJA糸島としての役割だと常に考えています。それに向かって新しいことにみなで取り組んでいかなくてはならない。生産農協を忘れては糸島農協の原点がなくなります。
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