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JAの活動:JA革命

【JA革命】第1回JA浜中町 とんがって、光って、北の星2014年6月6日

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 「農業・農協改革」が叫ばれる今、本シリーズ「JA革命」は農協界はもちろん、関連業界、経済界、その他の幅広い立場から農業・農協の未来を切り拓くために求められていることを現場から明らかにしよう改めて企画した。今号から東京農業大学の谷口信和教授とともに生産現場を訪ねる。第1回は酪農先進地のJA浜中町。地域農業はもちろん地域経済を牽引する役割も期待されているJAだが、石橋榮紀組合長は、同JAの長年にわたる酪農家支援の取り組みについて「いちばんの基本はいかに組合員のためになるか、どうすれば地域のためになるかを考えてきた」と強調する。最近では地元企業と連携した法人『酪農王国』が注目されているが、そこに至る経過を改めて聞き、未来への課題を照らし出したい。

地域の資源総動員
谷口信和・東京農業大学教授

 

 JA浜中町は小規模の未合併農協である。だが、“山椒は小粒でもぴりりと辛い”の譬えの通り、“とんがっているが光っている北の星”である。酪農における新規就農研修事業のいち早い導入でつとに有名だが、2009年に設立されたJA出資型農業生産法人(株)『酪農王国』は新規就農・研修事業の分野において、異業種からの参入を通じた法人経営創設を直接に支援する“革命”を成し遂げた。
 また、強固な家族経営とその発展形態としての法人経営が主力である酪農において、家族経営と協働する集落営農というべき(株)『酪農天国』が2010年に立ち上げられた。将来的にはJAからの出資も見込まれており、酪農・畑作部門での集落営農の可能性に新たな一ページを切り開く“革命”がJAの強い影響力の下に実現しつつある。

 

◆JAの家族酪農支援

石橋組合長 だが、こうした革命は突然に起きたわけではない。その前史の第一は既存の家族酪農経営の生産・販売過程における一貫した支援策の展開である。農作業受託事業の多方面の組織化・展開の出発点は1975年に始まる「公共育成牧場」の創設と牛乳集乳事業導入であり、89年の酪農ヘルパー事業導入を経て、95年にはコントラクター事業の展開に結実している。
 技術的支援策としては81年設立の酪農技術センターを通じて、土壌・飼料分析によって良質な飼料基盤を確保し、生乳分析によって高品質の牛乳生産を可能とした。この延長線上で2002年には日本で最初に牛乳トレーサビリティを確立している。

 

◆新規就農への研修

(有)浜中町就農者研修牧場 前史の第二はJAの名を全国に轟かせるきっかけとなった北海道農業公社の農場リース事業を利用した新規就農者研修事業の83年からの実施である。当初はもっぱら農家での実習に依拠していたが、89年からは酪農ヘルパーとしての就業を経由しての新規就農へと枠が広がり、91年にはJAの一部門として「浜中町就農者研修牧場」が設置され、新規就農者を独自に養成するトレーニング施設が誕生した。

◆支援のレベルアップ

新規就農者は酪農家の2割に達している 研修農場は、2004年にはJA出資型法人である(有)浜中町就農者研修牧場としてJAから独立し、直接に独立・新規就農の道(家族経営)を開拓することが可能となった。また、09年に設立された『酪農王国』はJAと地元関連企業との共同出資による大規模法人(母体は公共育成牧場)で、出資企業からの出向者を、農作業を担う従業者として受け入れることによって、建設会社の農業生産法人(株)MOW MOWファーム設立を支援するという全く新しい担い手育成方式を生み出した。さらに、集落営農型酪農法人(酪農天国)への出資が行われるようになれば、JA出資型法人の担い手育成は第三ステップに突入することになろう。
 重要な点はJA浜中町の担い手支援は、家族経営か法人経営か、家族経営の法人化か非農業企業の農業参入かといった狭い「対立軸」の枠を超えて、地域農業・経済の維持・発展に役立つ全ての経営資源・ノウハウをJAのイニシアティブを軸にして総動員していることである。なぜなら、ここに現局面における担い手政策の最大の課題が存在しているからである。


 

世界一狙う『酪農王国』
インタビュー・石橋榮紀組合長

 谷口 JA浜中町は、生乳だけでなく土壌・飼料まで成分分析をする『酪農技術センター』、『就農者研修牧場』など全国初の取り組みや、最近では地元の異業種とタッグを組んで設立した『酪農王国』が先進的な事業として注目されています。
 今日はこうした事業をリードしてきた石橋組合長の思いと、これまでの取り組み経過をお聞かせいただきたいと思います。
 石橋 私たちの思いのいちばんの基本は、いかに組合員のためになるか、そしてそれがいかに地域のためになるか、この2つです。
 それも時々の情勢をふまえるというより、将来とも組合員が酪農でメシを食っていけるためにはどうしたらいいか、また、昭和40年には8000haだった牧草地は今や1万5000haにまで拡大しましたが、これをフル回転で使う生産体制をどうつくっていくかも課題としてきたということです。

 

◆酪農は社会資本

酪農は社会資本 石橋 そのためには牛乳がきちんと売れなければなりませんから、品質問題にしっかり取り組まなければならない。そこから生まれたのが『酪農技術センター』です。経験や勘で行っていた酪農を科学的データに基づく経営に変えようということでした。
 とはいえ、その後、生乳の計画生産は増産型になったかと思えば減産型になるといったことが繰り返され、将来に不安を持った組合員が離脱していき、その後を埋めるにはどうしたらいいかが課題になってきました。
 多額の投資をし、施設を建設したり草地も住宅もつくるなど、社会資本として整備をしてきたのに人がいないということになりかねない。
 そこで、これを再利用するという観点から、今後は新規就農者に来てもらえばいいのではと考えました。新しい人を入れ、その人に地域の産業を担ってもらう。それには自前で人を育てるしかないと、平成に入って『研修牧場』をつくりました。
 そうやって草地基盤も守り酪農生産体制も維持して評価の得られる牛乳をつくっていくんだと考えてきました。

 

◆世界一の環境に

 谷口 そうした取り組みを進めるなか、昭和57年に横浜に本社があるタカナシ乳業の工場が浜中町で操業、全量搬入するようになったわけですね。
 石橋 たまたま進出してきたのだと思っています。ただ、提携が始まりプレミアム牛乳(北海道4.0牛乳など)ができたり、ハーゲンダッツ・アイスクリームの原料に選択されるという僥倖に恵まれました。
 そこで、もう一段ランクアップするために、世界一クリーンな環境で牛乳生産をしようということを目標にしました。そのためには自分たちで環境をきちんと維持していかなければなりませんが、それが『緑の回廊』という思想にもつながりました。これは自然と調和した酪農経営をめざすものですが、ラムサール条約にも登録されている霧多布湿原のナショナルトラスト運動も応援しながら森の再生や湿原保全にも酪農家が取り組もうというものです。
 さらに全戸に合併浄化槽を設置して家庭雑排水で地球を汚さない、あるいは家畜の糞尿を100%回収して、それもきちんと肥料として使う、こういう取り組みも進めようと考えています。

 

◆異業種とタッグ

 谷口 それでは平成21年設立の『酪農農国』についてお聞かせください。
 石橋 私たちの農協は昭和50年代に育成牧場も開設して組合員を支援し、2か所で2800頭も預かったこともありました。ですが、1戸あたりの草地も広くなり施設も整備されてくると自分たちで育成しようという酪農家も増えてきたので、1か所に統合しても対応できるだろうとなりました。
 しかし、空いた育成牧場はどうするのか。利用の仕方を組合員のみなさんともずいぶん相談しましたが、いっそのこと農協直営で牧場運営してみようかということになった。
 ただ、それだけでは面白くないので、ここはひとつ、私たちと取引をしていただいている企業のみなさんにも出資をしてもらい、一緒に牧場経営に参加してもらおうと考えたわけです。それによって企業もより酪農現場を知るようになるだろうという思いで、地元企業を中心に9社に出資をお願いし、農協と合わせて10社で株式会社としてつくったわけです。現在、規模は受託を含めて約1000頭。搾乳牛は約300頭です。
 さらに、この農場は法人経営の研修の場にもしようと考えた。個人経営の研修牧場はありますが、地域の将来を考えると残念ながらまだ離農は進んでいく。しかも引き継ぐなら法人経営が必要になるだろう、と。そこで牧場マネージャーを育てることも目的のひとつにしたんですが、幸いにしてその目的どおり出資企業から社員が派遣されて研修の立場で牧場運営に加わることになった。

 

◆地域経済支える

 石橋 それからちょうど3年経った一昨年、250頭規模のある大型牧場主が病気で亡くなられて事業承継が問題になりました。まさかこれほどの大型経営が突然倒れるとは思っていませんでした。研修牧場から研修生に引き継いでもらうことも考えましたが、そもそも個人就農する場合の5倍の規模、とても無理です。 そんなとき『酪農王国』の研修生の親会社、つまり出資企業でもあるわけですが、そこが研修生を場長にした酪農生産法人をつくるという決断をし、土地や牛舎、牛、それから働いていた従業員もまとめて全部継承していただいた。それが昨年4月、地元土木会社が設立した(株)「MOW MOWファーム」です。
 谷口 幸運にして、と言っていいのか、それぞれの事業がうまくかみ合っています。このような問題が起きることを見越して準備してきたわけですか。タイミングが合ったこと自体は偶然にしか過ぎません。しかし、その偶然を呼び込むためにはあらかじめ種を播いておかなければいけない、ということだと思います。
 石橋 そうですね。地元土木会社とはコントラクター(農作業委託)事業から酪農や農協とのつながりができていましたし、今回の法人設立でも農協がフォローするかたと信頼関係ができていました。新たな事態に対応できるものをあらかじめ持っていなければだめなんですね。

 

◆住み続けてこそ

seri1406061007.jpg 石橋 そのひとつに「人」があります。たとえば私たちの農協は酪農の現場で仕事ができる職員を抱えています。『酪農王国』の立ち上げでも、職員が自主的に入れ替わり立ち替わり牧場の面倒を見に行った。これがスムーズに立ち上がった大きな要因だと思っています。
 谷口 お話を聞くと、時代の変化に合わせ地域農業に足らなくなった部分を何とかして補っていったという、その繰り返しだと思いますね。
 石橋 まさにその点でいえば、実は『酪農王国』に次いで、『酪農天国』という法人(株・トライベツ酪農天国)も立ち上がっているんです。
 トライベツにあるその集落は13戸で今、酪農をやっているのは10戸。しかし、土地はあるのでみんながそれを出資して新しく牧場をつくり、個人経営と協働しながら運営していこうとしています。 おばあちゃんたちが住んでいて、亡くなったおじいちゃんと一緒に苦労して開拓した土地、ここから動きたくないという思いを持っています。それなら住み続けてもらい、新しい牛舎ができたら、竹ぼうきで掃くぐらいはやってもらいましょう、と。そのおばちゃんたちも酪農天国という法人の構成員ですから。
 谷口 本州水田農業地帯の集落営農の考え方ですか。
 石橋 完全にそうです。酪農ではほかの地域にはまだないと思います。飼料は『酪農天国』のTMRセンターでつくり、それを個人牧場にも供給する。搾乳ロボットを導入し、新しい法人の経営にあたる、ということで、今年からいよいよ始まります。農協も出資を計画していますが、あくまで集落主導です。
 谷口 この取り組みを聞くと北海道はこの行き方、都府県はこう、という線引きはやめたほうがいいですね。
 石橋 自分の地域で何ができるかを考えればいい。組合長室には「焦らず、慌てず、諦めず」の色紙を掲げています。
 私たちの管内の農地をどうやって使っていくか。個人就農させる方法もあるし、法人就農させる方法もあるし、それでもだめだったら地域全体でまとめて農地を活用する方法を考える。
 谷口 つまり、地域にいらない人をつくってはだめだということですね。
 石橋 そう、全員が必要なんです。死ぬまでみんなでこの地域でがんばってもらいましょうという、と。地域をつくるとは、そんなにしかつめらしく考えることではなくて、やれることは何だ、と楽しみながら一つひとつ考える。そういう仕掛けをつくっていくのが農協の役割です。
 そのためのテーマを職員に見つけさせる。常に問題意識をもってものを見るということです。だから、私は職員に丸くならないでとんがって、星のように光れ、と言っています。


【JA浜中町概要】

JA浜中町の位置 厚岸郡浜中町一円と厚岸町の一部がJA管内。町の南側には国内3位の広さを持つ霧多布湿原が広がる。北側はほぼ全域が酪農地帯。農地は1万5000ha。乳牛約2万3000頭を飼養し、生乳生産量は年9万9000tを超す。

○正組合数=298名
○准組合員数=207名
○職員数=77名
○生乳生産量=9万9208t
○生乳販売高=84億円(販売品販売高91億円)
seri1406061001.jpg○搾乳戸数=185戸
○戸あたり乳量=536t
○購買品供給高=40億円
○貯金残高=101億円
○長期共済保有高=54億円
(以上、24年度実績)

 

 

○JA浜中町のあゆみ

【育成牧場】
 昭和40年代後半の国営大規模草地開発事業を契機に組合員の育成牛を預託する牧場としてスタート。農協に育成牧場課を置き課長が場長を務める。「姉別」と「茶内」の2農場で事業を行ってきたが茶内に統合し、姉別の育成牧場は平成21年設立の『酪農王国』の牧場となった。

【酪農技術センター】
 昭和56年(1981)開設。生乳分析・検査だけでなく、土壌や飼料の検査まで行っている。蓄積したデータで独自の酪農情報システムを導入。全国初の牛乳のトレーサビリティを確立した。

【浜中町就農者研修牧場】
 平成3年に新規就農者養成のため開設。16年に有限会社に。場長は農協職員が出向。25年までに36組の夫婦が研修を終えて就農している。

【(株)酪農王国】 
 平成21年7月設立。22年10月生産開始。JAは50%出資。ほかに土木建設・農作業受託(3社)、運輸(2社)、乳業(1社)、飼料(1社)、生産資材(2社)の9社が共同出資。酪農牧場として生乳生産・販売を行うだけでなく、異業種に酪農経営技術を伝え、将来の法人による農場設立を促進し、農業と地域社会の維持もめざす。25年7月現在、自己所有牛529頭、外部受託牛(育成牛)368頭。草地面積391ha。施設は成牛舎(310ストール)、ミルキングパーラー(12頭ダブル・パラレル方式)、バンカーサイロ5基など。25年度の生乳生産量は2467t。26年4月時点の従業員はJA出向者2名、直接雇用者6名、事務員1名、研修生2名。

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