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JAの活動:しまね協同のつばさ

住専問題とは何だったのか2014年6月20日

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【太田原高昭 / 北海道大学名誉教授】

・バブルの責任、農協に押付け
・からくり巧妙、逃げる母体行
・仕組まれた農協救済説
・公的資金使い実は銀行救済
・ウソで固め農協を批判

 いまから20年前、マスコミは連日、住専問題を報じていた。住宅専門貸付会社が巨額の不良債権を作ってしまい、それをどのように処理するか、という問題である。
 政府は、6850億円の公的資金を使って処理することにした。しかし、この処理に対する不満が全国に満ちあふれた。このとき、農協が非難の標的にされた。農協のために6850億円の税金を使った、というわけである。
 だが、これは住専の社長に天下った大蔵省の先輩と、大蔵省の現役が共謀して仕掛けたワナだった。農協をこのワナにかけようとして、ウソとオドシで固めた悪質な陰謀だった。

◆バブルの責任、農協に押付け

 バブル経済がはじけてしばらく経った1995年、世の中の目と耳は住専問題に奪われていた。住専とは住宅専門貸付会社の略称で、住宅ローン専門の貸付業者のことである。誕生したのは1970年代で、これがバブル経済に乗って急成長し、この年の住専7社の総融資残高は11兆4000億円に達していた。
 その74%にあたる8兆4000億円が不良債権となり、その処理のために6850億円の公的資金を投入するという閣議決定が騒動の始まりである。国会はこの問題を巡って紛糾し、テレビも新聞も連日大々的に報道した。問題はこの資金投入が、住専への債権者の一角をなす農協を救うためのものだと宣伝されたことである。
 たしかに住専7社の債務総額12兆6241億円のうち、農協資金(農林中金、信連、共済連)の合計は5兆5997億円で全体の44%を占めていた。残りは銀行と保険会社であるが、銀行融資のほとんどは住専を設立した「母体行」のものだった。この母体行が口をそろえて「農協の責任」を語り、マスコミがそれに乗って農協批判に追い打ちをかけた。

 

◆からくり巧妙、逃げる母体行

 住専の母体行は三和、さくら、興銀、長銀などの大銀行であり、テレビにはこれらの銀行のお抱え評論家が顔をそろえて「農協責任」論をぶっていたのが記憶に生なましい。しかし多数の行員を住専に送り込み、実質的に住専を支配していたのは母体行だった。個人向け住宅ローンを扱えなかった大銀行が、住専を設立して迂回融資をもくろんだのである。
 その責任をどう農協にかぶせたのか。金融自由化で都銀も個人向け融資ができるようになると、母体行は住専の融資先のうち安定的な顧客には銀行ローンへの借り換えを薦め、不動産業者や開発業者などリスクの高い債権を住専に押し付けた。そしてバブル崩壊が決定的になると住専への融資そのものを引き上げ、その肩代わりとして農協に目をつけたのだ。
 当時の農協系金融機関は大量の余裕金を株などの有価証券の形で抱えていたから、株の値下がりで大きな打撃を受け、鹿児島、宮城、秋田、埼玉などの信連の経営危機が表面化していた。これを契機に系統資金が住専に流れ、母体行の資金引き上げの穴を埋めていった。
 気が付けば農協は住専の最大の貸し手となっており、公的資金投入は農協救済のためだという銀行筋とマスコミの大々的な宣伝にさらされることになったのである。
 しかし、住専の危うさを系統農協や主務官庁の農水省が知らなかったはずはない。そこには大蔵省の巧妙な誘導策があった。

 

◆仕組まれた農協救済説

 バブル経済の終末期に大蔵省は銀行に対して建設業、不動産業、住専を含むノンバンクへの貸し付けを制限する通達を出しているが、信連や共済連には出していない。また農協系金融機関から住専への貸し付けに際しては、銀行局長が母体行に「農協に迷惑をかけない」という念書を出させたが、印鑑はゴム印でよいとされた。
 こうした詐欺まがいの手を使ってまで大蔵省が農協の肩代わりを誘導したのはなぜか。実は住専各社の社長には大蔵省出身者がずらりと名を並べていた。ここに書いていることは佐伯尚美『住専と農協』に依拠しているが、佐伯は大蔵省が住専を保護し続けたのは「天下りポストの維持という以外に積極的意義を見出しがたい」と厳しく糾弾している。
 このように銀行と大蔵省は、もっぱら自らの利益のために農協系金融機関を住専の泥沼に引きずり込み、不良債権だけでなく住専破たんの社会的責任までも農協に押し付けようとしたのである。

 

◆公的資金使い実は銀行救済

 政府はその罪滅ぼしのために農協救済策として巨額の公的資金を投入したのだろうか。そうではないことを政府は国会答弁で何度も繰り返している。では誰のため、何のためだったのだろうか。
 その答は住専処理が一段落した後に明確になった。銀行本体が背負い込んでいた不良債権は住専どころではない巨額のものであることが明らかになったのである。
 拓銀のような都銀の破たんが現実となった。その波及を防ぐために政府は危ない銀行に兆単位の公的資金を投入した。6850億円であれほど大騒ぎした評論家やマスコミは、これについては「金融システムを守るためには仕方ない」と沈黙したのである。彼らは今に至るまで口を拭っているが、住専への公的資金投入は、巨額の不良債権を抱えた銀行救済のための呼び水であり、農協はそのためのダシに使われたというのが真相である。
 佐伯は「母体行、大蔵省にだました責任があるとすれば、系統農協にもだまされた責任がある」と書いている。住専は清算され、銀行は倒産・合併を繰り返し、大蔵省は分割されるというかたちでそれぞれの代償を払ったが、農協もまた深い傷を負ったのである。

 

◆ウソで固め農協を批判

 住専問題はいまだによくわからないナゾの部分を残している。農協側の「だまされた責任」の問題を含めて今後さらに解明を進め、そこから教訓を学び取らなければならないが、ここでは2つのことに限って指摘しておきたい。
 1つは「信・共分離」などを執拗に要求する勢力が、農協資金をどのように位置づけ、どう利用しようとしているのか、住専問題からかなり見えることがあるのではないか。
 もう1つは彼らの側からする農協批判や農協攻撃は、必ず大小のウソで固められていることが住専問題では際立っている。ウソは必ず後でバレるのだが、後では遅いのである。

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