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JAの活動:JA革命

【JA革命】第3回 地域農業最後の担い手 グリーンパワーなのはな(富山市)をゆく2014年8月19日

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谷口信和・東京農業大学教授
・協同の器に盛られた企業家精神
インタビュー:太田吉孝・専務取締役(JAなのはな営農部長)
・JA出資型法人の力
・18年で300ha超の水田農業経営へ

 富山県のJAなのはなが出資して平成8年に設立された(有)グリーンパワーなのはな。設立から18年を迎え、今では農業で生きようという若者たちが特産品づくりや新たな販路の開拓などに力を発揮、地域農業を担う農業法人として経営を発展させてきた。"安心して農地を預けられる組織"として出発したJA出資型法人の成果と今後の地域農業の課題を考えようと、東京農業大学の谷口信和教授と現地を訪ねた。

協同の器に盛られた企業家精神
谷口信和・東京農業大学教授

 

農村で暮らすことに価値を見出す若者も増えた。

(写真)
農村で暮らすことに価値を見出す若者も増えた。

 1996年の(有)グリーンパワーなのはな(GPN)設立はJA組合長・江西甚昇氏の鶴の一声で決まったが、JAには農地制度の精通者がいなかったから、新会社は役員要件未充足で農業生産法人になれなかった。しかし、[1]管内の全農地を引き受ける、[2]中核的農家が安心してリタイアでき、将来にわたって農地を預けられる組織をつくる、[3]食管法が廃止される中でも生き残れるJA組織=米の販路を確保する、という長期的視点と戦略的構想を有していたことが、生産法人化を経て2014年には314haの全国でも有数の水田経営面積に到達した最大の要因だ。それを可能にしたものこそ、関係者の地域農業に対する熱い心と農地の集約化を通じて課題を達成するという高い志であった。

 

◆高い志を持ち、管内農地守る

 平均的には毎年17ha強の規模拡大となるが、これを支えたのが中核的な農家のリタイアというこの地域の現実であった。その極致は2001年の経営面積54haから02年の107haへの想像を絶する飛躍である。すなわち、40haと30haの二つの農業生産法人が解散する中で、GPNは55haの面積に加えて、正社員2名と臨時社員5名の労働力を継承したからだ。そこに、自らがかなりの経営規模を有するJA出資型法人の地域農業維持に対する特有の意義が存在する。

 

◆相手は、100集落・農地2645筆

 管内233集落のうちGPNしか担い手がいない集落は2つというくらい、稲作への愛着が強い地域だが、GPNが相手にするのは全集落の半分の600人近い地権者であり、非農家も100人を超える。借入農地は1筆当たり11.86aに過ぎず、20a未満の農地面積が67.6%、9a未満だけでも15.7%に及ぶ。こうした状況へのGPNの対策は3つだ。[1]短期間ではあれ、耕作余力のある担い手に対して農地の再委託を実施している(借入地の9%は全面委託、5%は全作業委託)。[2]水管理の32%、草刈りの43%を個人(第1候補は農地貸付者)か集落生産組合に委託している。[3]30a以上から9a未満までの農地を4等級に区分して地代格差を設け、条件不利農地に対して10a当たり1万7000円の農地管理料を徴収している。

 

◆周年就業確保への執念

 大規模経営だが正社員(常用)15人と臨時社員(3?11月の9ヶ月雇用)21人を基準とすると、1人当たり7.5haの経営面積に止まり、積雪地帯での周年就業確保は容易でない。GPNは、[1]水稲240haの作付をうるち・もち・古代米の品種と早生から晩生までの組み合わせで10種類とするほか、大豆・野菜・薬草・花卉(園芸)等も導入して作期拡大を図り、[2]冬期には農業機械整備の集中実施、CE・育苗センター等のJA施設への人材派遣、[3]JAの直売所での焼き芋販売、[4]ホームセンターの灯油配送業務を担当する運輸会社への出向等、考えられる限りの努力をしている。
 さらに米の9割はJAを経由して大手商社系列のコンビニに販売するほか、通信販売にも取り組むなど一貫して販路拡大に取り組んできた。

 

◆若者が就職する 持続経営の実現

 JA出資型法人はJAの販路開拓の先駆けの役割を果たしている。JAの営農部長・太田吉孝氏は異動を断りながらGPNの専務を14年間続け、江西氏の企業家精神を協同の器に盛り込んできた功労者である。その成果は15人の正社員のうち5人を大卒として抱え込めるところにまで到達したことに示されている。
 第1段階のJA出資型法人革命は完成しつつある。次は太田氏の後継者をいかに育てるかの第2段階の革命への挑戦が待っている。

 

設立から18年 正社員が15人に
若者を育て、水田を維持

 

インタビュー:太田吉孝・専務取締役(JAなのはな営農部長)


◆18年で300ha超の水田農業経営へ

seri1408190501.jpg 谷口 「グリーンパワーなのはな」の現在の到達点をどうお考えですか。
 太田 設立の目的は自己経営が困難になった農家の農地を安心して預けられる組織ということでしたから、当初はまさに管内の農業者が営農できない農地をどうするかで四苦八苦していました。つまり、農地を遊ばせないことだけが使命のようにして事業に取り組んでいたということです。
 ところが、そこに社員を雇っていくことになると、経営者として社員の家族の生活も守っていくという社会的使命も出てきます。将来にわたってここに勤めることができる会社にしていかなければいけないとなると収支もトントンでいいというわけにはいきません。
 そこで付加価値のある農産物を売る、あるいは他の生産者が作っていない特産物を作って、いかに販路を広げていくかに取り組んでいく必要が出てきたということです。
 規模が小さいときは私だけのノウハウでどうにかこうにか切り盛りができていましたが、面積が増え預かっている農家戸数も増えてきました。そうなると農家や集落との折衝や、販路を広げるための買い手との交渉など、さまざまな場面で私一人ではできないことも多くなってきました。
 やはり人材を育てて、いろいろな仕事を担うことができる人間が必要になってくるということです。そのなかで最近は社員の資質も向上し、農業で生きていきたいという彼らの思いからお互いに切磋琢磨し、通信販売やレストランへの売り込みといったこともみんなの議論から実現に結びつくようなかたちになっています。
 たとえば、米にしてもコシヒカリばかりが喜ばれるわけではなく、業者によってはそれ以外の米がほしいという要望もたくさんあります。そこにきちんと的確に対応できるような栽培体系や栽培品目を選定できるような非常にいい人材がそろってきたというのが今の到達点ですね。

 

◆責任持たせる人事制度導入

 谷口 人材が育ってきて、この組織は、いわば太田さんの下に生産現場や販売面を束ねるリーダー的な人材が配置できるという3層構造に移行しつつあるということでしょうか。
 太田 そうですね。今まではJA職員が出向して、経営も現場も束ねるというかたちでしたが、今は雇用した社員のなかから現場を束ねるチーフとリーダーを選抜して、責任を持たせています。
 部門は水稲、園芸、農機・施設の3部門とし、会社でいえばその部門の課長と係長ということでしょうか。今年、人事を発令してあわせて4人が役職についています。役職手当までつけて、あなた方は管理職だぞ、と発令したのは初めてのことです。役職が人を育てるということもありますからね。
 今は部門チーフ(セクションチーフ)ですが、最終的には部門を統括するマネージャーというポストも用意してあり、そのこともみんなに伝えてあります。社員のトップがマネージャーであって、これをめざしてがんばれ、ということです。
 谷口 JA出資法人自身が担い手になるという段階から、地域の担い手を内部で育てるという段階に入ってきたということだと思います。経営体として持続的な組織になる仕組みを作り出してきている。それは将来の分社化という構想にもつながるわけですか。

 

◆分社化も視野に 組織作りに力

 太田 将来はそうしたいと考えています。現在も地区ごとに3班体制をとっています。草刈りなどの農作業も含めて営業拠点を分けているわけです。まだ分社化というわけではありませんが、効率化を考えて運営しています。
 ただ、一方ではJAの管内程度がエリアであれば拠点を増やすよりもある程度集中させたほうが、その日の作業計画や分担をスムーズに割り振れるという面もありますから、組織のあり方は、まだ経営規模や地域との関係で考えていかなくてはなりません。
 谷口 ただ、お話を聞くと、ある程度の人数が集まると、そこには単なる農作業の人員というだけではない、いろいろな人材が出てきてそれが刺激になってお互いが育つということも始まっているのではないかと思います。

 

◆農業者としての自覚が生まれ

seri1408190504.jpg 太田 そうですね。正社員がやっと15人になったあたりからそういう意識も出てきたのだと思います。2、3人のときには逆に人手が足りないなかで自分が農業をやっているんだ、という変な安心感がありました。
 しかし、人が大勢になると、ミスしたら自分はどうなるかということも社員自身が考えるようになります。そういう意味では私が口で指導し伝えるよりも社員自身が自覚し始めたというのが最近のGPNということだと思います。
 それによって会社も成長していくということですから、人の成長なくして会社の成長なし、と思っています。やはり人づくりがいちばん大事です。とにかく自分で考える力です。そして発想したことを行動に移すことのできる人間を育成していかないといけない。それを通じて、農業をするならここの会社に入りたい、と思うような組織にしないと。きちんと就職してくれる若者がいるかいないかが会社の存続にもかかわってくるということだと考えています。これからはそこに力点を置かなければいけないと思います。
 谷口 経営の持続性を考えると、これまでは依頼があれば農地はすべて引き受けるというのが原則だったのを少し見直そうという問題も出てきているわけですか。
 太田 そろそろ何か引き受け要件を変えていかないと、委託は雪だるま式に増えていくが機械の投資や人材育成が追いつかないと思っています。 さらに今後の米の需給バランスのなかで米価は下がる、国の補助金は削減されるとなると経営は一層厳しくなるということです。

 

◆生活を支える多角的経営も

 そうなると経営体としては不採算部門をどうするかの問題になりますから、農地の受託についても不採算となってしまう小さなほ場や用排水が完備されていないといった農地まで引き受けられるのかということです。私としては農業政策できちんと農地を整備することが重要で、そうすれば担い手の経営も成り立つと思いますね。
 谷口 規模を拡大して雇用労働をたくさん活用していかなければならない組織になっていけばいくほど、簡単にリストラなどできないから、経営の将来が見通せるような農業政策の安定性が必要だということですね。その政策を考える場合、農業を単純に就業の場としてだけ捉えるのではなく、農村で農業をやって生きていくことが素晴らしいという価値観も若い人たちのなかに生まれていることも注目すべきだと思います。
 太田 私も農業法人だからといって農業だけの複合経営で会社経営を考えてはいません。当然、農業法人として冬期でもできる施設園芸にも取り組んでいますが、会社として農業分野以外でも通年採用できれば農村での社員の生活を守ることになると思います。その仕事が、地域に必要とされる仕事、などというのはおこがましいですが、結果的に地域に認知される仕事にも取り組みながら多角経営が実現できればということです。

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