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JAの活動:農協改革元年

「農業」と「農業の場」は一体2015年3月30日

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インタビュー醍醐聰東京大学名誉教授
・農地維持こそ農の担い手
・地域づくり農協の役割大

 今回はTPP交渉参加に反対する大学教員の会などで発言を続けている醍醐 聰 東大名誉教授に地方創生政策の問題点も聞いた。醍醐教授によれば、やはり企業が魅力を感じる地域にしようという「やる気のある地域」に支援を集中させるのが本質と指摘する。そうであれば地域づくりに果たす農協の役割は大きい。

 ――農業・農協改革の議論についてどうお考えですか。

 

醍醐  聰 東京大学名誉教授 今回の議論の特徴は、農業も単なるひとつの産業であって、その意味で成長戦略のための農業・農協改革という位置づけになっている点にあります。
 農業も市場化し、そこに成長する企業がビジネスできる場をつくろう、これが発想の基本にあると思います。
 これまでのように農業といえば家族農業であり、農家が農業の担い手という考え方はこの際はやめよう、成長の担い手になりそうな人が自由にビジネスができるような環境づくりをしようではないか、ということだと思います。

 (写真)醍醐  聰・東京大学名誉教授

 

  ――農業の担い手というよりも「成長の担い手」が重視されているということでしょうか。 
 
 成長のために障害となっているものがあるのであれば、それは取っ払ってしまおうという発想が農業・農協改革の根底にあると思います。その象徴が岩盤規制という言葉です。岩盤と言ったとたんに既得権の固まりのようなイメージが植え付けられ、それにメスを入れるのは当然のことで正義であるということになる。こういう正義の偽善がマスコミを通じて流布されていることが特徴だし危うい点だと思います。
 農業も単なるひとつの産業であるという捉え方にどういう問題があるのか。TPPに反対する大学教員の会の活動などで地域を回ってみると農業は農業を営む場と切り離して語れないという特性があると改めて感じています。農業は生産拠点を移すことはできません。北海道の農業を九州に持って行けるのかといえば、品目によってはまったくできないこともないでしょうが、自然条件が違えばほとんど無理なことだと思います。その場所で農業を営むからこそ、その土地も農業に適したものになっていくのだと思います。
 企業を参入させても良いといいますが、企業はビジネスとして魅力を感じ採算が取れると思ったところに参入はしても、そこを生活の場とするわけではない。あくまでもビジネスとしてのみ関わろうとしている。農業の特徴である「場」という意識が希薄で、採算が取れないのだったら、いつでも撤退していいという構えです。
 リースで農業参入した企業に対する2013年の調査(JC総研レポート)では、平均で20%撤退しているとの結果があります。31社が参入した青森県では12社が撤退し実に約4割になっています。
 こういう企業が担い手になり得るのか。そこの土地とともにあるという農業の持続性を念頭に置かないような企業は、やはり担い手としては適していないと思います。
 もちろん農産物の加工などで地場の企業と提携することはむしろもっとあっていいことだし必要だと思います。しかし、農地を持続的に維持していく農業の担い手になり得るかといえば疑問です。そういう企業に農地利用を認めて今ある農業を駆逐するような政策は、結局は農業振興策ではなく国土荒廃政策でしかないと思います。

 

 ――それでも政府は地方創生を打ち出していますが。

 農業が衰退するということはその地域の人口が減るということであり、病院や学校も統廃合が進むなどドミノ的に地域全体を陥没させることになります。
 1991年から2014年までに農家数は全国計で約238万戸減りました。都道府県別で見ると減少率が大きかったのは鳥取県(△57.5%)、青森県(△57.4%)、北海道(△57.2%)などですが、これらの道県では小学校が統廃合で次々に減少し、鳥取県(△30.1%)、青森県(△38.6%)、北海道(△31.9%)と、どこも3割以上減っています。そういう意味でも農業は地域の命運を左右するものであって、単なる一産業というものではないと感じています。  しかし、政府の地方創生は何をやろうとしているのか?
 27s年度の税制改正のなかで、あまり知られていませんが地方拠点強化税制というものがあります どういう内容かといえば企業の本社機能の地方移転を支援するもので、建物や生産設備を地方に移転したとき、特別償却や税額控除をするというものです。税制面から地方移転を支援し地域経済を活性化させようという仕組みです。
 ただし、これは誰もが対象なのではなく、改正された地域再生計画法に基づく地方拠点強化実施計画に沿って承認を受けた法人です。この計画の認定はワンストップ化し、全部官邸がやるということになっています。つまり総理が認定するわけで、結局、地方創生といっても中央集権的で、あくまで政府が認定した計画が対象です。
 いわば選別ですが、実際、改正地域再生計画法の説明文書には、やる気のある地域に集中的に資源を投入する、と書かれています。たとえば構造改革特区は優先すると。つまり、地域全体を創生するなんてことは始めからなくて、政府が音頭を取った方向に則って計画を上げてくる地域が対象になるということです。 

 

 ――こういう状況のなかで農協改革についてはどんなことを期待しますか。

 中央会制度の議論で感じたのは、農業を通じた地域のネットワークづくりのための母体という役割もあるのではと思いました。中央会を中心とした農協組織が地域のネットワークをつくっていると思います。
 たとえば、昨年は御岳山が噴火して大きな被害が出ましたが、農業でもキャベツが火山灰をかぶってしまって出荷できない農家もいました。そこで長野県中央会が県下のJAによびかけて灰をかぶったキャベツを洗って出荷できるようにと組合員や職員が集まったということでした。善意があっても農業に携わっていなければできないことだし、日頃からのネットワークがあってこその支援活動だと思いまました。やはり地域で生活をともにしているから互助精神が働く。大事にしなければいけないと思います。
 その一方、日常的には農協はどれだけ農家の力になれてきていたのか、も考えるべきだと思います。農家からの相談を待つのではなく、もっと能動的、積極的に役割を果たすということが弱かったのではないかという気はします。
 同時に米価がこんなに下がっているときに、自分たちで生産調整を、なんてできるわけがないことを言われているわけですが、国の政策に対して農業者の声を訴えていくことは当然必要で、そのために全国組織、中央会組織があるべきだと思います。
 他の産業にも全国組織があるわけですから、農業分野の全国中央会だけがなぜ問題にされるのか。おかしな話です。ただ、中央会も現場の農業者の期待に応えきれていたのか、もっと地方の声を受け止めてそれを国の農業政策に届けていくという役割をどれだけ果してきたのか、という気がします。地方創生といっても全体を底上げしようという政策には決してなっていないなか、農協組織がどう役割を果たすか重要になっていると思います。

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