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JAの活動:農協改革元年

自己改革の道 着実に2015年4月21日

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特別寄稿太田原高昭北海道大学名誉教授
・選択に苦しむ農村部
・争点が不明確投票率は低迷
・「改革合意」自民の有利に
・闘い長く続くJA自己改革
・不甲斐ない野党農村部に苦悩も

 来年の参議院選挙まで国政選挙がないなか、TPP、農業・農協改革、さらには経済政策、安全保障問題と大きな政治課題について、統一地方選挙はまさに地方からの声を反映させる機会だ。その前半戦が終わったが道県知事選挙はすべてで再選、地方議会選挙では空前の低投票率という地域も多かった。とりわけ政権が最重視する「農協改革」をめぐる動き、そして選挙結果をどう受け止めるべきか。知事選も行われた北海道から太田原高昭・北大名誉教授に読み解いてもらった。

選択に苦しむ農村部

◆争点が不明確投票率は低迷

seri1504210601.jpg  統一地方選の前半戦が終わった。道府県議選では、前回比で自民党が1119議席から1153へと増加、公明党が171から169へと微減、民主党は346から264へ大幅減少、共産党が80から111へ躍進、社民党は30から31へ微増、維新の党は関西中心に28となったが、前回は合併前のみんなの党だけで41だったから全国的には後退といってよいだろう。政権党である自公連合が横ばいであるがひとまず勝利したと言ってよい。 道県知事選では、北海道と大分を除く8県で民主党が早々と保守系現職候補に相乗りし「自共対決」の無風選挙となった。このうち最も注目されたのが北海道で、保守系現職の4選出馬に対して知名度の高い元テレビキャスターが立候補し、これに民主、共産、社民、維新、新党大地などのオール野党が乗った。結果は約150万票対115万票で現職知事が4選を果たした。マスコミは野党候補の善戦としたが、場合によっては善戦では終わらなかったかもしれない。
 北海道は反TPPの「オール北海道」体制で知られ、政府の「農協改革」についても反発が強かった。これが地方選にどう表れるかが注目されたのだが、その直前に全国農協中央会と自民党との「改革合意」があり、農協の政治組織である農政連はその時点で現職支持を決めた。内部には「農協改革」で徹底抗戦すべしとの声もあったのだが、「総理と全中会長が握手したものをひっくりかえせるか」の声にかき消された。
 TPPについても現職知事は、経済界や道議会、市町村長会を含めた「オール北海道」体制を踏まえて「慎重」「憂慮」を繰り返し、争点にならなかった。「地方創生」では似たような公約となり、唯一の争点と見られた原発問題でも「将来原発に頼らない北海道を」とかわされた。こうして北海道知事選もまた争点がはっきりしない選挙戦となり、59.6%の低投票率でブームは起きなかった。これでも知事選では全国2番目の投票率であった。

(写真)太田原 高昭 北海道大学名誉教授


◆「改革合意」自民の有利に

 このような経緯をみると、「農協改革」についての自民党と全中の「合意」は、明らかに自民党に有利に働いた。それはそれまでの地方知事選の3連敗をふまえた自民党の努力の結果であった。自民党内では滋賀、沖縄、佐賀の頭文字をとって「SOS」というほどの危機感の高まりがあり、とくに「農協改革」が正面から争点となった佐賀県知事選での大敗は強い衝撃となった。統一地方選挙に向かう戦略の練り直しが迫られていたのである。
 自民党は、「新農政における農協の役割に関する検討プロジェクトチーム」と「農業委員会・農業生産法人に関する検討PT」を一本化して「農協改革等法案検討PT」を新設し、規制改革会議の「農業改革への意見」の衝撃度を和らげることに努めた。地方の農協に直接かかわる部分を表面に出さず、多くの事項を先延ばしまたは選択制にして、もっぱら中央会制度の問題に攻撃を集中してきたことがその特徴である。
 全中との折衝の結果は、詳しく報じられているように、全中の一般社団法人化、監査機構の外出しと引き換えに、准組合員の事業利用制限を先延ばしにすることで合意が成立し、安倍首相と萬歳全中会長の握手となった。この経過について自民党PTの鳩山邦夫議員は「規制改革会議が神様なら国会議員はいらない」と胸を張り、規制改革会議の金丸会長は「せっかくの提言が骨抜きにされた」と憤慨した。
 「合意」は、自民党が抵抗勢力とみなしたJAグループの社会的評価を引き下げることにも成功した。もともと農協への市民的不信感は、米価闘争などに見られた派手な要求運動から一転して密室での談合で物事が決まる「体制内圧力団体」的体質に向けられており、JAグループはこれを反省して、農政運動の獲得目標を「政府与党との合意」から「国民的合意」に切り替えてきたはずである。


◆闘い長く続くJA自己改革

 こうした教訓から見ると、自民党インナー会議という密室での合意は最も嫌われた古いパターンであり、安倍首相との握手は絶対にやってはいけないパフォーマンスだったのではないか。それから間もなく萬歳会長の電撃的辞任表明があったが、会長の胸にそのことがあったかどうか。本人は「改革に一定のメドが立った」と言うが、マスコミでは引責辞任という見方が強かった。いずれにせよ、これで自民党は地方選での危機を回避したといえる。
 しかし「合意」の内容をよく検討すると、自民党が押し切ったとか、JAが屈服したとかいう評言は必ずしも当たらない。攻撃が集中した中央会制度についても、農協法第3章は消されるようだが、全中は「附則」に残り、都道府県中央会も連合会として位置づけられるようだ。焦点の監査についても、外出しされた監査機構は従来の機能を維持するのであり、それと一般会計士監査のいずれを選択するかはJAの決定に委ねられる。
 全農等株式会社化についても「することができる」という選択条項となり、そうするかどうかは会員であるJAの意向で決まる。何よりもそれらを含めて農協法改正の作業はようやく原案が固まったところであり、国会審議はこれからである。さらに5年間と期限が切られた准組合員制度等の問題も、これからJAとJAグループがどのような議論を重ね、どう実践していくかにかかっているのである。 これは相手側から見ても同じである。今回の合意は統一地方選を控えての自民党側の緊急避難という色合いが濃い暫定的なものである。改革派とその背後にいて農協の金融資産を狙うハイエナたちは、この先も「改革」の徹底を求めるだろうし、規制改革会議の文書はそのためのテキストとしてまだ生きている。そのなかでJAグループは自ら決定した自己改革の道を着実に進んでいかなければならないのだが、それは長い闘いになるだろう。


◆不甲斐ない野党農村部に苦悩も

 野党の動向についても簡単に見ておこう。「農協解体」を叫ぶ維新の党は論外として、民主党と共産党では対照的な対応を取った。共産党は政権の政策全般に対して真っ向から批判政党として振る舞い、TPP反対、政府の農協改革反対を貫いた。
 これが反自民票の受け皿として機能し、共産党は農村部でも支持を拡大して躍進した。直近の参院選、衆院選から続く好調で、この党はイデオロギー政党の「独自の闘い」から脱し、国民政党として幅広い有権者の選択肢に入ってきた。JAにとってもこのことは重要である。
 対照的に民主党は大きく議席を減らしたが、それは個々の戦術的な問題ではなく、政策上のあいまいさが基本的に解決していないからである。TPP、農協改革、原発再稼働、消費増税など地方にとって最も重大な問題について、この党は旗幟を鮮明にしていない。
 それどころか農協改革を除くと、他はすべて民主党政権が着手した問題であって、自公政権はそれを引き継いでいるだけだと開き直られると反論できないという矛盾をかかえている
 このままでは最大野党の地位も危ないのだが、民主党には「政権交代」の担い手としての期待がいまだ消えていない。
 これにしっかり答えるためには、例えば自動車労連など輸出産業の労働組合に遠慮してTPPに反対できないとか、電力労連に遠慮して反原発を言えないというような支持基盤の構造的矛盾を何とかしなければならない。特に北海道では歴史的に根強い農村部での民主党支持勢力の苦悩が続いていることを忘れないでほしい。

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