JAの活動:JA 人と事業2015
【JA 人と事業2015】大貫 盛雄・JAあつぎ代表理事組合長 夢ある未来へ 人とともに...2016年3月31日
知恵・企画力ある職員育成
神奈川県のJAあつぎは都市化が進む中で地域に密着した活動を展開し、農協の存在感を高めている。その核になる職員の育成には定評がある。大貫盛雄組合長にJA改革と職員教育の考え、対応を聞いた。
◆何を根拠に「不要論」
――JA改革が唱えられていますが、どうみていますか。
「農協は改革すべきだ」と組合員からいわれたらどうするか。このことが常に頭から離れませんでしたが、それを国から突然言われるとは想像していませんでした。農家が高齢化していますが、都市の農家は農協がなくても農業や生活はできるかも知れません。
しかし常勤役員になってから、協同組合とその理念のすばらしさを一層強く感じています。それがここにきて、国からの〝農協不要論〟です。それもアメリカから言われ、それが90兆円超の農協貯金を狙ってのことだとなると、国はいったい何を考えているのかと言いたくもなります。
昨年組合長になりましたが、組合員や職員のため、この難局を乗り切る責任があります。重要な問題の一つは准組合員にあると思っています。「農協は本来の営農経済の仕事だけすればよい。福祉、地域貢献は必要ない。准組合員の利用制限は当然」と、ある農水省の幹部は主張していますが、何を根拠にそう言うのでしょうか。
私は職員として営農指導員からスタートしました。当時、営農指導員は〝花形〟で、農協の中で最もやりがいのある仕事でした。農家のためになるべく安くてよい生産資材を供給し、農産物の出荷も共販の拡大へと懸命に取り組んできました。その間、組合員とは常に話し合い、理解しあいながら仕事を進めてきました。結果として組合員から信頼され、共済事業などではあえて推進しなくても契約がもらえました。
◆安全な農産物を提供
―地域における農協の役割は何でしょうか。
JAあつぎの役割は第1に管内の住民に安全で安心な地場農産物を提供すること、第2に食農教育です。飽食の時代で食べ物は豊かになりましたが、食と農にかかわるものとして、生きていく上で不可欠な食糧の大切さを子どもたちにどう伝えるかが重要だと考えています。
それと福祉の充実です。いま訪問介護事業をやっています。かつて入所施設を計画しましたが、すでに管内では福祉施設は相当整備されており、それなら要介護にならないか、遅らすやり方もあるのではないかと考え、当農協にふさわしい福祉のあり方を研究中です。施設はつくらず、高齢者や地域の人に、自ら農協の支所店に来てもらい、地域のみんなで高齢者を支えるという仕組みもあるのではないでしょうか。
農協は外務、営農指導などで常に職員が地域に出ています。こうした職員が地域を見守る。これも農協だからこそできることです。また職員は、農業まつりや盆おどりはもちろん、学校や地域のさまざまなイベントに参加しています。特に消防団には50人近い職員が団員として活躍しています。これらは地域密着の農協の重要な役割であり、職員の成長にもつながります。
それと農業所得のアップですが、都市近郊では専業で食べていける農家は少なくなっており、どのように農業所得の向上につなげるかが一番難しい課題です。そのなかでJAあつぎ農産物直売所「夢未市(ゆめみいち)」が担う役割は大きいと認識しています。
平成21年にオープンしたファーマーズマーケットですが、建設決定後、職員旅行や研修などでは可能な限り直売所をみてくるよう指示し、全国の農産物直売所の事例や職員の知恵を集めました。最初は荷を集めることに苦労しましたが、買い物客の反応や販売による所得向上が出荷者の生きがいにもなり、荷が増えてきました。新規就農者の出荷が増えていることも大きな励みです。
◆准組をパートナーに
――将来、どういう農協をめざしますか。
ピンチをチャンスに変えたい。農林中金の代理店化等ではなく、独自で生きる道を探りたいと思っています。これまで准組合員問題については、員外利用規制があったので、組合加入を増やした面もありますが、これからは地域の農業と農協をともに支える実質的なパートナーとして農協の事業に取り込んでいく必要があります。
JAあつぎの組合理念は「夢ある未来へ人とともに、街とともに、大地とともに...」。この理念をです。農協のイベントなどの時は、必ず確認しています。
農協改革が平成26年の6月に突然出ました。ただちに全部長職から、その後にはすべての部署で全職員の協議を踏まえた農協改革についてのレポートを求めました。さらに自己改革推進委員会を中心に、JAあつぎの自己改革プランを策定しました。
部門別に基本方針を決め、それを27年事業計画に織り込んで実践しています。プランは組合員にとってもですが、職員がその意識を持つことが大事です。
さらに昨年9月には「農協改革対策室」をつくり、OBを含めて3人の専任スタッフを配置しました。ここで正・准組合員の現状分析や農協法改定への対応方策を検討分析と対応の検討を行っています。
また、事業活動の中心である支所には、組合員を中心とする地区運営委員会、協同活動推進委員会があり、より組合員に近いところで、組合員と職員が接することで、JAあつぎの存在感を高めるとともに地域の活性化に努めています。
◆農業塾で新規就農者
――地域農業や地域への関わりはどのように。
家族経営が中心の農業、集落的営農を支援しています。高齢化等で農地が荒れ、不耕作地が増えています。これを防ぐため平成20年に地域農業対策課を設置したほか、26年に地域農業にかかる諸問題解決に向け、厚木市、農業委員会、JAあつぎにおいて「厚木市都市農業支援センター」を設置し、相談窓口を一元化しています。農作業の受委託とともに、「農業塾」で新規就農者を育成し、不耕作となった農地を貸し出すようにしています。なお厚木市の農業委員会は農業塾の「就農コース」の修了者を新規就農者として認定しており、今後も積極的に進めるつもりです。
また新規就農者の支援や地域農業の活性化を目的に「農業機械レンタル事業」を昨年スタートさせました。
◆新人はメンター制で
――職員教育はどのように。
組合員の意見をどう事業に反映させるか。4半期ごとに正組合員訪問を行い、組合員の意見や要望を集約しています。訪問の際は正組合員との会話を中心とし、情報提供はしますが、推進・配達はさせません。 近年どのJAでも組合員とJAの距離が遠くなっています。それを防ぐには職員と組合員との対話が重要です。
私は、職員に「日々の仕事をこなすだけでは組合員から必要とされない。知恵を出し、企画力を発揮せよ」と、常々言っています。それによって職員は、農協に貢献しているんだという意識が育ちます。
新採用職員の教育では、採用して5か月間は部署に配置しません。その間を研修期間とし、先輩職員が1対1で指導するメンター制度によって、各部門の業務を経験させ、適性を判断しています。
また採用内定者の懇談会には、その親にも出席してもらっています。子どもを預かる農協としては、社会に通用する職員に育てる責任があり、それには家族の協力が絶対に必要です。今の子どもは親から怒られることが少なく、職場で怒られると参ってしまいます。そのときには家族が子どもの顔色をみて励まして欲しいと伝え、両親の理解を得ています。
日ごろ心にとめている言葉は「射石飲羽」です。「射石」は弓で石を射る、「飲羽」は矢の羽までも深く突き刺さるという意味で、「精神を統一して、一所懸命に事にあたれば、何事も成就する」ということです。
(写真)農機レンタル事業の体験講習、大貫 盛雄・JAあつぎ代表理事組合長
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