JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【覚 醒】国の狙い 見極めよ 信用事業譲渡 2016年12月26日
新総合ビジョン確立・課題別セミナーの第3回目のテーマは「JAからの信用事業譲渡」でした。このセミナーで、農水省の経営局・金融調整課の担当官(組合金融グループリーダー)から事業譲渡について説明がありました。
いうまでもなく、JAからの信用事業譲渡は今次農協改革の本丸であり、この問題の実質的な提案者である農水省から、初めて内外にその考え方が明らかにされたという点で画期的なものとなりました。
さすがに、この問題の重要性を認識しているJA役職員の皆さんの関心は高く、当日は定員オーバーの盛況となりました。しかし農家や農協職員を読者とする日本農業新聞はこのセミナーの内容を報じませんでした。
その背景には、今回の全農改革に関連して規制改革推進会議農業ワーキング・グループから出された、今後3年をめどに信用事業を行うJAを半減するという内容が、最終の取りまとめから外されたことで問題はなくなったという、JAグループの判断があったのでしょうか。それとも、そもそも事業譲渡問題に対する基本認識がないことによるものでしょうか。いずれにしても、このような農協改革に関する同紙の報道姿勢は、今後のJA改革運動を危機的状況に導くものと言っていいでしょう。
それはともかく、今回農水省が明らかにした、JA信用事業譲渡に対する考えとは以下のようなものです。まず、JAを取り巻く環境について、人口減少と少子高齢化による営業地盤の変化、農業貸付の不振、金利低下による利ザヤの縮小と信用事業収益の減少、バーゼル規制による自己資本増強の要請等があげられています。
また、フィンテック(金融IT)の進展によって、既存の金融の仕組みに大きな変化をもたらす可能性が大きく、とくに金融店舗の必要性が大幅に低くなることが想定されるとしています。
このような、JA信用事業を取り巻く情勢については、多くのJA関係者も認識を共有できるものでしょう。ですが、問題はここからです。このような厳しい環境変化に対応するために、農水省は事業譲渡を選択肢として取り入れ、信用事業に関するリスク・負担を軽減するとともに、農業振興のために信用事業から経済事業に人的資源等をシフトするなどして対応すべきと主張しています。こうした農水省の考えに対して、参加者からは事業譲渡の道を選択すればJA信用事業はますます厳しい状況に追い込まれる、経済事業への人的資源のシフトなどは空論で、結局は人員整理にしかならないなどの意見が出されました。要するに、事業譲渡のメリットはなく、デメリットしか考えられないというのがJAサイドの受け止め方だったのです。
◇ ◆
そしてここが肝心なところですが、今後農水省は、信用事業収益の縮小傾向は確実で、農業者に対して安定的なサービスを提供して行くために持続可能性の確保が必要とし、「自己改革の中で信用事業の将来像について今から検討を始め、農業者と役職員との話し合いを通じて早期に結論を得る」必要があり、検討に関しては、その過程を含め、組合員はもちろんのこと行政等への説明が求められるとしています。
つまるところ、政府はJA信用事業の将来像について本格的な議論提起を求めているのであり、われわれはこの課題に真剣に向き合って行かなければならない状況にあります。議論にあたって留意すべきは、「自己改革」と「自主選択」に対する考え方です。この点について、JAグループ内には、自己改革はJAが行うものであり、事業譲渡はあくまでもJAの自主選択で、そのような道を取らなければ何ら問題はないといった雰囲気があるのは憂慮すべきことでしょう。
農水省の「自己改革」は総合JAの否定であり、われわれの主張とは全く異なります。また、「自主選択」といっても、政策誘導によってこれが進められれば、それは空文になります。今後JAは信用事業譲渡について、早急にその影響やメリット・デメリットを実態に即して検証し、その対応策を考えていくことが一層重要になります。対応策は(1)公認会計士監査において事業譲渡が勧告されないように体制を整備すること、(2)准組合員の利用制限と引き換えに事業譲渡を受け入れざるを得ないような状況をつくりださないようにすることです。
これらの対策は、JA自らが考え実行して行く以外に方法はありません。この点、政府が言うように、まさに「自己改革の中で信用事業の将来像について今から検討を始め、農業者と役職員との話し合いを通じて早期に結論を得る」ことが必要になっているのです。
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