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JAの活動:時の人話題の組織

地域の農業を守るのは協同組合――道を失った「改革」を正す 水谷 成吾(有限責任監査法人 トーマツ JA支援室 シニアマネジャー)2017年1月6日

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 改正農協法の施行をうけ、農業者の所得向上や各種組織のあり方等、全国のJAは自己改革を迫られている。そのような中、1968年に日本初の全国規模の監査法人として創立した有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)は、大規模多国籍企業や主要な日本企業に対する各種サービスの提供から長年にわたって蓄積してきたノウハウ、経験を活かして「JAグループの『創造的自己改革への挑戦』の取り組みに寄り添う支援を一元的に提供」するとして「JA支援室」を設置した。
 JA支援室は、全国のJAに対して組合員意識調査、中期経営計画策定支援、組織と人材変革支援(人事制度再構築、要員配置基準策定、各種研修)などの支援を行なっている。
 そこで、様々なプロジェクトを遂行する過程でJA役職員の声、農家・組合員の声に触れる機会のあるトーマツJA支援室の水谷成吾氏に、現在の農業・農協活動に対してどのように考えているかを率直に語っていただいた。なお、この内容は、水谷氏の個人的な見解であって、必ずしもトーマツの組織的な見解ではないことをお断りしておく。

◆誰のための「農協改革」なのか?
 
 ――JAグループのコンサルティングをしてきた経験から、いま進められている国の「農協改革」について、どのようにみていますか。
 
水谷 成吾(有限責任監査法人 トーマツ JA支援室 シニアマネジャー) 「農業所得向上のため」という名目で始められた「農協改革」は、「全中の監査権限を剥奪する」とか「農協事業を利用する准組合員の利用制限を検討する」など、一般の人には地域農業の活性化との因果関係が全く見えない議論を強引に推し進めているように感じます。こうした「農協改革」の議論が地域農業活性化につながると考えているのは、農協の存在が邪魔な一部の農業生産法人や農業周辺事業に関わる企業のみで、大多数の農家はきちんと地域農業に向き合った議論をして欲しいと考えています。
 「農協改革」の実態は、改革強行論者達による約400兆円といわれる「農協マネー」の獲得合戦の場であり、改革強行論者達が、日本農業の将来を考えるふりをして、改革という言葉に便乗してマスコミ受けする主張を繰り返しているに過ぎません。
 
◆「農協解体」が目的に
 
 ―何のための誰のための改革か分からない?
 
 農家のために始まったはずの改革が、いつのまにか農協組織の解体が目的化し、地域農業活性化に向けた具体策はみえません。「農家ファースト」で進めてきた改革のどの部分が農家最優先に考えているのでしょうか。
 トーマツでは、これまで全国の農協で「組合員意識調査」を実施してきましたが、組合員の農協に対する期待のなかで、「全中の監査権限を剥奪して欲しい」「准組合員の利用を制限して欲しい」と訴える農家の声を聞いたことがありません。
 
 ――民間企業のなかには「農協に出荷するよりも、うちに出荷した方が農家の所得が高くなる」という人もいます。
 
 彼らはどれだけの量を販売することができるのでしょうか。自社で販売先を見つけられる量だけを「農協よりも高く買い取る」と言って農家を囲い込むことと、市場への安定供給の責任を負うということは、全く違います。
 数件の契約農家の農作物を契約販売先に市場よりも高い価格で出荷することは、それほど難しくありません。しかし、もし地域の全ての農家が市場よりも高い価格で買い取ることを希望したら、この業者はそれを受け入れ販売することが本当にできるのでしょうか。
 
 ――生産者にも同じような主張する人が...。
 
 「自由な取引」を求めて「農協という規制」に対抗していると主張している農家は、ごく少数の集団の意見であるにもかかわらず農家全体の意見を代表するかのようにふるまっています。
 農協の組合員は、販売事業、購買事業を利用することによって、市場との交渉や精算などの手間やリスクから開放されているわけですが、農協を排除すべき規制だと主張する農家は、それを理解せずに農協に支払う手数料は農協による「搾取」だと訴えています。このような農家は、農協が地域農業全体に対して投資している助成金やカントリーエレベーターや選果場など共同利用施設への投資についてもきちんと評価していません。
 
◆農協改革によって崩壊する地域農業
 
 ――「農協改革」が進んでいくと地域農業はどうなると思いますか。
 
 地域農業の将来には関心がなく、短期的に個々の利益を最大化することのみに執着する改革強行論者や一部の農家の主張を真に受けて農協改革を実践すれば、地域農業は崩壊するでしょう。
 確かに、改革後には少数の成功農家が誕生するかもしれません。その一方で個人での販売力が弱い小規模家族農家は離農して大量の耕作放棄地が発生し、残った農家も自家消費分を生産するだけになり食糧自給率は大幅に低下するでしょう。それでも、改革強行論者は少数の成功農家の事例を取り上げ、農協改革は成功だったと勝利宣言するでしょう。しかし、農協が守っているのは少数の農家の短期的な利益ではなく、多数の農家の長期的に安定した生活です。
 「農協改革」を正しい方向で実現するためには、全国の農協グループが一枚岩となって農家の声を代弁することが不可欠です。組織を守るためではなく、農協グループを支持してくれる大切な農家を守るために、戦うべきところはしっかりと戦わなければなりません。
 守るべきは「農業生産法人」や「企業」の利益ではなく、日本全国に存在する「農家」であり「地域農業」です。農家の大部分を占める小規模家族農家は非効率の象徴でも淘汰の対象でもありません。農家としての誇りと地域への責任感で営農を継続する地域農業の担い手です。特に大規模化ができない中山間地域では、小規模家族農家がいなければ耕作放棄地は増加します。農協は小規模家族農家に対して"生きがい"を感じて営農を継続できる環境を提供し、地域農業が衰退することを食い止めなければなりません。そのうえで、農協が意欲のある農家を支援することで中規模・大規模な農業経営への成長を促していくのです。
 
◆准組合員の購買行動変革が地域農業再生の鍵
 
 ――地域の人たちにも地域の農業を理解し支援してもらうなどの連携も大事だと...。
 
 農業所得の増大に向けて最も効果的な取り組みは、准組合員を中心に地域住民の購買行動を1円でも安いものを探す購買行動から地域農業を考える購買行動に変革し、考える消費者を育成することです。
 准組合員と職員が家計のためだけではなく、地域農業を守るための消費という観点を持ち毎日の買い物の際に、まず価格を見るのではなく輸入農作物よりは国産農作物を選ぶ、県外産農作物よりは県内産(管内産)の農作物を選ぶというような購買行動をすることで、地域農家の農業所得の向上に貢献できます。特に農協職員が組合員の作った農作物を適正な価格で消費することは当たり前のことです。
 
◆農協が支える地域農業の未来
 
 ――それは株式会社ではなく、協同組合の役割だといえますね
 
 農協改革の先にある地域農業の未来は、一部の成功者をつくるのではなく多数の小規模家族農家が営農を継続したいと望むような農業をつくることです。農業は一人ではできません。
 地域農業の将来は、政府の唱える「農地集約による大規模化」や「企業の農業参入」などによって支えられるのではなく、多数の小規模家族農家の営農活動によって支えられるのです。そうであるならば、多数の農家の意見を集約する存在が不可欠であり、その役割は"個"の利益を追求する株式会社ではなく、"地域"の利益を優先できる協同組合が担うべきです。
 地域農業を守ることこそが農協の使命であり、道を失った改革を正すのが農協の役割です。

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