JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
論理性のない利用規制 レクスコ・明田ラボ 明田 作氏2017年2月14日
「守り」から「攻め」へ
准組合員の組合の事業の利用の規制のあり方については、法律の規定に基づく検討事項になっていますが、規制ありきの検討になってはなりません。規制改革推進会議等の主張は、現実を直視しない一定のものの見方、価値観に基づきターゲットを定め、准組合員の利用規制もそれを実現するためで、そもそも理論的な主張ではありません。理論的に押し返すというより利用規制は現実的に受け入れられないと主張する以外ないでしょう。
とはいってもこの問題は、理論的かつ制度的な整理も必要な問題ですので、改めて准組合員問題に関する論点について考えてみましょう。
第1点は、准組合員の利用を規制すれば「農業者の協同組織」になるのかです。「農業者の協同組織」であることは、准組合員に議決権等を付与しないことで制度的には決着がついている問題です。したがって、准組合員の利用を規制するというのであれば、それにより「農業者の協同組織」となるのか、つまり農業者の真の利益になるのかを、筋道を含め誰もが納得できる説明を徹底して求めることが、反論以前の大前提として不可欠でしょう。また、それを誰が求めているのか、明らかにするよう求めていくべきでしょう。
第2に、准組合員が正組合員の数を超え、さらに増えていることは果たして問題なのでしょうか。協同組合のオープン・メンバーシップ制、すなわち組合員として責任を引き受け、事業を利用することを希望する者には権利・義務が平等で、分け隔てなく門戸が開かれているという原則からすると、問題です。そして、准組合員が許容されるのは正規のメンバーに受け入れられる前の限られた一定期間ということになるでしょう。
しかし、組合員資格を農業者とする協同組合にオープン・メンバーシップ制の原則をそのまま当てはめるのは無理です。農協制度のように、本来の組合員資格を有する者以外の者を組合員としたのは、正規のメンバーの利用の妨げとならない範囲で利用の途をひらいたもので、理論的にはその数・割合の問題ではありません。
かつて市町村農業会に任意会員(准組合員に相当するが議決権を有する)として農業者以外の者をどの地域でも無制限に認めることによる弊害を考えて農業団体法で加入制限を課していたのと異なって、戦後の農協法は准組合員について加入制限を課していませんので、員外利用のあり方との関係で問題があるとしても、制度的には割り切ったはずの問題です。協同組合の理論をもって准組合員の割合が高くなったことを問題として指摘するのは筋違いというものでしょう。
協同組合論的に准組合員の割合の増大が問題だというなら、利用制限をかけるという方向ではなく、正組合員と権利義務を同じくするという方向でなければ論理的ではありません。それが不可能ならば、現行制度を維持する以外にないのではないでしょうか。
第3に、員外利用は協同組合としての論理的な問題なのでしょうか。准組合員の利用によって正組合員の事業利用が妨げられ、不利益を被っている事実がなければ、員外利用の是非は本来、協同組合の定款自治に委ねられるべき問題です。
また、現行法の利用分量規制の基準には、理論的根拠は見出し得ません。さらに法人税率等も優遇されていて会社等とイコール・フッティングとなっていないといわれますが、逆に資本調達や員外利用規制があることで競争上イコール・フッティングでないというべきです。イコール・フッティング論から協同組合を否定するような議論には与することができません。員外利用の理論的・制度的な問題は、むしろ員外利用によって生じた「利益」の帰属の問題であって、組合員に帰属しないような仕組みを導入することで解決すべきです。
なお、准組合員制度と員外利用制度は相互代替的な性格があり、これまで准組合員については、単に「ビジネス」の側面から、員外利用規制を免れるためのものとして便宜的に扱ってきたのではないでしょうか。両者を同じような機能をもったものとして併存させることの問題に関していえば、事業の利用は組合員であることを原則とし、員外利用は現行生協法のように例外的な位置づけをすれば整理がつく問題のように思われます。
さらにまた、「農業者の協同組織」であるという点を補強しようとする観点でいえば、員外利用から生じた「利益」と准組合員の利用から生じた「利益」のうち、准組合員に還元しない部分は農業振興や地域の活性化のための活動の資金にあてるための強制積立金(不分割積立金)とする制度を導入することでしょう。
◇ ◆
最後に農協法の目的を含め、その性格を変える制度変更の議論がありますが、これは価値観・世界観が絡む問題であり、価値観を共有し同じ方向性を持って議論しないかぎり、一致点を見いだせない抽象論に終始し、目前の議論には役立たないでしょう。むしろ、望まれるのは、農業者を主体とする農協制度の中に准組合員や員外利用の問題を積極的に位置づけ、守る姿勢から積極的な攻めの姿勢に転ずることです。完璧な「守り」は存在せず、「守り」はいずれ破られるからです。
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