JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第1回 農協ほど人材を必要とする組織は無い2017年2月14日
ー2つの研究会への参加のすすめー
1.なぜ研究会を始めたか
私は、いま「JA-IT研究会」と「JA人づくり研究会」という2つの研究会の代表をつとめている。JA-IT研究会のほうは来る2月17~18日の両日にわたって、第45回研究会を、いま一つのJA人づくり研究会は3月1日に第27回研究会を開催することになっている。いずれも原則年2~3回の開催であるので、それぞれ創立以来16年、9年という歴史を刻んできた。
JAーIT研究会は、特に営農企画・営農指導、あるいは販売部門等に携わる第一線のJA職員を対象に部課長クラスまで含めて広くJAの職員の参加を求めており、JA人づくり研究会の方は主として、組合長、専務、常務あるいは常勤理事などの役員を主たる対象に開催してきた。
では、なぜ、こういう研究活動に私は情熱を傾けてきたか、という問いにまず答えておきたい。
一言でいえば「農協(JA)ほど人材を必要とする組織はない」ということにつきる。
なぜこのような発想を持っていたか、その背景について、若干説明しておきたい。
いまから27年前の1990年(平成2年)に(財)21世紀村づくり塾を設立し、その副塾長として、東京大学教授として研究・教育にかかわる本職をつとめつつも、情熱を燃やして「村づくり塾」の活動に非常な力を注いで、全国各地に「農民熟」「村づくり塾」を設立しその活動を推進・指導してきた。その原点は「農業ほど人材を必要とする産業はない」という私の信念にもとづくものであった。
この私の信念というか、思想を農協の分野に照射したのが、はじめに述べたJA関係の2つの研究会である。
2.では、人材とは何か
人材とは、私の考えにもとづき、簡潔に、かつ明快に、判りやすく説明するために第1図を用意した。
人材とは図に示したように、企画力、情報力、技術力、管理力、組織力という5つの要素の総合力であると私はかねてより考えてきた。5角形の各頂点を10点満点として、各自、各項目はそれぞれ何点であるか。自己評価して10点満点に近づくように努力すべきであると指導してきた。
では、それぞれの項目の意味と内容はどう考えるべきか、次に説明しておこう。
(1)企画力
分かりやすくいえば、種子を播く前に、売り先、売り方、売り場、買い手、売り値などを明確に考え抜き、その発想にもとづき指導し、構想する能力。要するにPlan--Do--See、あるいは計画--実践--評価などがきちんとできる能力であると言ってもよい。これを磨かなくてはならない。
(2)情報力
情報力は受信力と発信力の2つの要素で構成される。受信力は、先人、先学の学理や経験、実践の原点について学ぶことからまず得られる。さらに広く社会経済、あるいは農業・農村の分野についての調査、情報収集、それらの分析・考察を通して得られる智恵と能力である。
他方、発信力は受信力の蓄積を基礎に、その分析・考察を踏まえ、広く地域や社会あるいはJA組織、職員、組合員などに対して発信する能力である。
この両者を一体としたものが情報力であると私は考えているが、特に若い世代には受信力に磨きをかけるようにすすめている。
(3)技術力
技術力とは伝統技術と先端技術の両方について勉強し多様な実践の場で活かす能力と考えている。特に農業分野においては、伝統技術は数千年にわたって蓄積された先人の知恵と技能の結晶であるが、それらを身につけていかに生かすかという能力である。
先端技術については、常に研究、習得を怠らず活用しようとする態度が必要であろう。しかし、例えば遺伝子組み換え技術のような安全性について未知数のものについては慎重を期す態度が必要であろう。
要するに、この伝統技術と先端技術の両者を、特に農業・農村とのかかわりが深いJA役職員にあっては、しっかりと身につけられれば鬼に金棒ということになろう。
(4)管理力
管理という分野が近年急速に拡大してきている。例えば、人事管理、財務管理、経営管理、安全管理というように、管理という言葉の前につく言葉をあげていくと際限ないほどに増えてきた。『広辞苑』で「管理」の項を引くと「管轄し処理すること。良い状態に保つように処理すること。とりしきること」とあるが、例えば初版から最新の第6版まで引き比べてみると〇〇管理と管理の前につく言葉が近年激増してきていることが判る。なぜ増えたのか。どういう分野で増えたか一応じっくり考えてみて管理の問題に取り組んでもらいたい。
(5)組織力
現代社会では1人で行えることには極めて限界がある。とりわけ農業にかかわる分野では常に組織力が要求されるし、農協という組織では組織力が基本となる。個を生かしつついかに組織的に多面的な活動を行うか、ということが、ますます求められてきていると思う。その要求される能力は多岐にわたるが、「個を生かし組織力を高める」という考え方で自らを磨いてもらいたい。
(6)総合力の発揮
以上、各項目について簡潔な説明を行ってきたが、重要なことは、この5つの要素の総合力である。上掲の5角形の各頂点を10点満点と考え、現在の自分はそれぞれの項目について何点か、一応自己評価してみてほしい。私の考えでは「これはすぐれた人物だ」と評価できた人は、5項目とも8点以上の方だと考えている。もし、ある項目が8点以下であると自己評価したならば伸ばすように努力を重ねてほしい。私は、かつて、どの農民塾でも塾生に対して、この5角形をグループ討議などに活用し、参加者の自己評価と他者評価のスコアを図に表現して討議を重ね、人材として成長していくための手段として活用してきた。いろいろの分野で活用してもらいたい。
(7)「多様性のなかにこそ強靭な活力は育まれる」
私はかねてより「多様性の中にこそ真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない」と考えてきたし、いろいろの場面で説いてもきた。しかし、同時に「多様性を真に生かすのはネットワークである」とも説いてきた。つまり、多様性と表現されるようなすぐれた個性をさらに伸ばしつつ、短所を改め、欠陥を補ない、新たな創造を目指すためには、どの組織でも、どの地域でも、とりわけどのJAでもすぐれたネットワークを作りあげてほしいと心から願っている。
◆ ◇ ◆
1.JA-IT研究会の事務局・連絡先(一社)農山漁村文化協会(農文協)内 〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1 JA-IT研究会事務局 嶋川亮 電話:03-3585-1141 fax:03-3589-1387
2.JA人づくり研究会 〒100-6827 東京都千代田区大手町3-1-1 JA全中教育企画課気付(事務局長 山西隆一)電話:090-9373-9874
3.JA-IT研究会 第45回研究会は2月17日13時~18日JAビル17F
JA人づくり研究会 第27回研究会は3月1日10時~JAビル36F
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