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JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと

第2回 JAーIT研究会の実践に学ぶ2017年2月21日

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今村奈良臣・東京大学名誉教授

 JA-IT研究会は前回述べたように2001年7月に発足した。その開会式の記念大会で私は講演したが、その記録を読み返してみると、現在でもなお通じる内容と路線の提示になっていると思われる。なおこの全文は『自然と人を結ぶー「農村文化運動」』161号に掲載されていたが、この「農村文化運動」はその後廃刊となったので、貴重だと考え、一切手を加えずにそのまま、やや長文にわたるが再掲させていただくこととする。

◆JA甘楽富岡のJA改革戦略の理論的総括ー組合員の潜在的エネルギーに火をつけるー
 東京大学名誉教授・日本女子大学教授 今村奈良臣

 「去年までは組合員の農協離れが進んでいると言われてきたのですが、今年に入ると農協の組合員離れがさらに進み出した。由々しいことです」。東北地方のある著名な農協の元組合長から先日聞きました。もし、そうだとすれば、まことに由々しきことです。しかし、他方では21世紀の手本となるような活動をしている農協を全国でいくつも知っています。その一つとしてJA甘楽富岡を紹介しながら、農協運動への直言を提起したいと思います。

<危機をチャンスに>

 JA甘楽富岡は、明治初期の殖産興業政策の目玉として明治5年に設立された官営富岡製糸場のある富岡市を中心に5市町村にわたって組織されています。水田が少なく畑と山と傾斜地の多いこの地区では、養蚕とコンニャクイモが地域の農業を支えてきました。1980年代半ばの地域の農産物売上げは約83億円、そのうち約50億円が養蚕の売上げであり、約30億円がコンニャクの売上げでした。しかし、養蚕は84年の生糸の輸入自由化により、コンニャクはガット・ウルグアイランドの合意による95年の輸入自由化の決定から壊滅的な打撃を受け、この主力2品目の合計は、98年にはわずかに10億円に縮小しました。つまり、10年間で70億円の売上げが地域から消滅したのです。ここまで激変した地域を、全国でも前例を私は知りません。
 しかし、ここからJA甘楽富岡の挑戦が始まります。「信用・共済は銀行や保険会社でもできるが、農協にしかできないことは農業生産だ」(同農協黒澤賢治営農事業本部長)。地域農業再興の戦略、戦術とその実践への知恵とエネルギーには目を見張るものがあります。

<第一 基本戦略>

 97年に甘楽富岡地域農業振興計画『ベジタブルランドかぶらの里』という基本戦略を提示しました。その要点は「上信越自動車道で首都圏まで1時間という地の利を生かして、首都圏の消費者ニーズに適合した生鮮野菜を開発する。一方で地場消費をおこし地場消費に対応した農業生産で、地域の野菜の総合生産地として再生させる」(「かぶらの里」とは地域を貫流する鏑川に因んでつけたもの)

<第二 実践プログラム>

 『チャレンジ21農業プログラム』の策定と実践。ここに実践路線が具体的に描かれました。
 (1)生産目標として108品目にわたる野菜、畜産物、きのこ等を少量多品目で周年供給する体制を作る。
 (2)管内は標高150mから840mに及び条件不利地域を含むが、これを逆手に周年供給体制へと活かす。
 (3)組合員には、販売農家、自給農家、単なる農地所有農家(兼業などで耕作放棄)がいるが、自給農家、農地所有農家に、販売する野菜を生産するよう全力をあげる。そのために全組合員の詳細な実態の判るリスト・アップを行なう。
 (4)40aのハタケと40万円の初期投資で4つの販売作物を作り300~400万円の売上げをねらうモデルを策定し、推進する。
 (5)技術指導には営農指導員を増やす(53名)とともに、その作目については管内一と誰もが認めている熟練農家を「営農アドバイザリースタッフ」として委嘱し、特に新規作物に取り組む組合員、高齢者や女性の指導に当たってもらう。25名が委嘱された。見事な成果をあげている。
 (6)集出荷、配送システムを全面的に改革し、消費者ニーズにそったパッケージとバーコードシステムを導入し、流通コストの削減を行なう。
 (7)従来からの農協の平等原則を廃し、公平原則を徹底して推進する。

<第三 卓越した販売戦略>

 この農協の成功の最大の秘訣は、その直売方式の販売戦略にあります。
 直売方式には「総合相対複合取引」、「Gルート市場販売」、ギフト商品の直売、「インショップ」での直売、地元直売所「食彩館」の売上げが7%と直売方式の売上げが合わせて92%となりました。通常の卸売市場への出荷は8%にすぎません。
 こうして、昨年度の農産物販売金額は97億円。養蚕・コンニャク危機を完全に脱出しただけでなく、野菜不況の中でも売上げを伸ばし続けています。農協が組合員の潜在的エネルギーに火をつけ、地域を燃え上がらせているのです。

◆JA甘楽富岡の活動の提起した課題ー農協改革の基本視点ー

 1 P-six理論の提示

 JA甘楽富岡の実践を、私なりに理論的に整理すると次のような6つのPで始まる英単語に集約できると考えています。すなわち、
 Production(プロダクション)
 Price(プライス)
 Place(プレイス)
 Promotion(プロモーション)
 Positioning(ポジショニング)
 Personality(パーソナリティ)
 の6つのPで始まる英単語です。
 こういうかたちで、JA甘楽富岡の活動をキーワードで整理することを通してその活動の本質を明快にすることができ、他の多くの農協の活動の改革の指針にできると考えたわけです。そこで簡潔に解説しておきましょう。

第2回 JAーIT研究会の実践に学ぶ

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