JAの活動:JAづくりは人づくり
農協運動を検証し次の世代へつなぐ JA菊池 上村会長インタビュー2017年2月21日
青年部は人づくりの場
海外で学び広い視野を
上村幸男・熊本県JA菊池会長理事
JAの青年部はJAの役員の養成機関として機能を果たしてきた。かつて米価闘争、貿易自由化反対などの抗議行動や政府との交渉など、JAの農政運動で大きな役割を果たしてきた当時の青年部の中心世代が、次々とJAの役員を辞めている。「農協改革」が唱えられ、大きな転換期にあるなか、JAの次世代に何を伝えるか。今年度で退任予定の熊本県JA菊池の上村幸男会長理事に聞いた。
――これまで長年にわたり、JAの青年部、組合長、県経済連の会長を歴任されました。今の思いを話していただけますか。
一つは、私がこれまで歩いてきた農協運動は何だったのかについて、あらためて検証し、後の世代に伝える必要があると思っています。特に、これまで時代が激しく変化してきましたが、農協の組織、事業は、それに合せて改革してきたのだろうかということです。農業経営についても、作目を絞った選択的規模拡大でよかったのか、それとも複数作目による多角経営がよかったのか。当時、青壮年部でも盛んに議論してきましたが、その是非も、農業・農協改革が唱えられるなかで、いまそれが必要だと感じています。そしてもう一つ、重要なのは、将来の農協を担う人材の育成ができたのかどうかです。
時代の変化感じて
私が30歳過ぎに関わりを持つようになった1970年代まで、農協青壮年部の活動は10歳くらい上の人が中心になっていましたが、そのころはちょうど時代の変わり目で、機械化が進む一方で、米価の抑制、牛肉・オレンジの輸入増加など、農業をめぐる環境が厳しくなり、いわば新旧交代の時代でした。
私の地元の菊陽町では、そうした時代の変化を敏感に感じた若い仲間が集まり、変化に対応するには「まず、学習活動から」と、それまでのレクリエーションと視察中心だった活動を一新し、トラクターの免許取得や米の消費拡大、春ニンジンの栽培など、新しい活動にどんどん挑戦しました。農業経営は、その9割が自分の責任ですが、誰も一人ではできないことがあります。大事なとき、困難に直面したときに、相談でき、力を貸してくれる仲間がいる活動をしたいというのが、当時の私の思いでした。
そのころ山口県の下関市に本部のあった劇団「はぐるま座」を招き、幕末に藩政改革のため挙兵した高杉晋作の功山寺決起を公演しました。経費は100万円以上かかりましたが、町の商工会青年部などと提携して何とかチケットをさばき、成功させました。自分のためではなく、国のため、民衆のために決起した奇兵隊の劇は非常に感動的でした。「新しい時代は若者から」という青壮年部の思いをかき立て、大きな心の支えになり、その後も九州地区では、3年くらい各地で公演が続き、ブームになりました。
また菊池地域農協の理事になったころ、JA熊本教育センターの所長を、退任とともにJAの常勤講師として招き、組合員や職員、役員教育に本腰を入れました。どうしたらリーダーシップをとれる人を育てることができるかについて多くのことを教えられました。さらに組合長になってからも、職員には各種の資格取得を勧め、大学からマーケティングの先生を招いたり、経済連会長になってからも自己研鑽セミナー、CACゼミ、「アタック21」などを取り入れたりして職員教育に努めました。
――海外研修餅にも力を入れてこられましたか。またその成果はどうでしたか。
青壮年部のころアメリカに招かれ、また全青協の研修などでアメリカに行きましたが、アメリカ農業のすごさ、賢さ、暮らしの質素なこと、大規模な企業的経営など非常に多くのことを学び、その後、青年部の役員や組合長になってからも、大変参考になったと思っています。こうした研修は組織や団体の代表でなく、本当に「農業で生きたい」、「海外とも競争したい」と思って農業をしている若い人が行くべきだと、自分の経験でそう思います。
その後、青壮年部などの働きかけで、JAの県段階に海外セミナー制度ができ、それが契機となって若手農業者やJA職員が数多く海外研修に行くようになりました。県経済連会長になってからも県内の営農指導員を対象に、経費の半分を負担し送り出しました。このように、みんなが努力しながら人材育成に努めてきました。いまもそのメンバー50人ほどが「アタック21」のグループをつくり、連絡をとりあっています。
その成果はさまざまな形で出ています。かつての多くの仲間がJAの組合長や市町村の議員などで活躍しています。これは青壮年部で海外研修も含め、教育に力をいれてきた成果で、及第点がいただけるのではないかと思います。一方で、JAの合併や金融問題など、大きな環境変化の流れについていけたのかと問われると、厳しい採点をしなければならないかなとも思っています。早くから海外に出て勉強していれば、もっとうまく対応できたのかも知れません。
――具体的にはどのような問題がありますか。それを解決していくポイントは。
JAの経済改革で生産コスト低減の取り組みが行なわれていますが、国内の産地化が進んだところでは畜産とか野菜とかの単一作目による専業化が進んでいますが、そのなかでどのようにコスト低減するのか。肥料の種類を減らし価格を引き下げるだけでいいのか。そして農協運動の面では、畜産や野菜などに単一作目化した専業農家は、一緒に活動するのが難しくなっています。協同活動といっても組合員の営農・くらしが大きく異なる一方で高齢化が進み、みんなの力を一つにしてやっていくことが難しい状況にあります。
その意味で、農協の将来には危機感をもっています。農協改革で政府は総合農協を批判していますが、総合農協は地域の農業・農家にとって、また地域社会に必要な組織であることは事実です。しかし重要なことは地域社会とどう関わっているかにあります。規模のメリット追求に走り、地域の環境保全やくらしの支援などの社会的貢献が十分でなかったのかも知れません。組合員や地域の人に評価され、なくてはならないといわれるJAにならなければなりません。
草の根の声大事に
その点で、協同組合組織である農協の運動は下からの声を大事にし、事業はそれに基づいて行なわなければならないと考えています。JA菊池でも支店やSSの統廃合などの改革はほとんど達成しました。青年部や女性部など組合員の意見を事業化するのですから、意見を言った本人が一生懸命になります。農協運動は草の根の運動です。現場の視点がないと成り立ちません。
特に組織は、その規模が大きくなるとミスマッチが生じやすいものです。それは農協の企画力、それを担う人材の不足ということでもあります。平成4年にアメリカへ招待されて行ったとき、米国通商代表部で、「日本のJAにはWTO(国際貿易機関)の専門家がいないのではないか。運動が弱い」と言われました。大型化する農協では専門知識を持った人材を育てなければなりません。それには積極的に異業種交流して、職員に他の世界を見せることが重要です。
――熊本県は園芸・畜産の比重が高く、農協にとって販売事業が重要です。どのような取り組みをしてきましたか。
農協の経済事業は、その軸足を購買から販売へ移してきました。一定のリスクを覚悟して、いかにマーケットインの販売を実践するかが重要です。自分で挑戦する生産者もいますが、うまくいかず農協へ戻るケースが多くあります。生産者の販売リスクをゼロにするのが農協の役目です。それを協同活動である共販でどう実現するかということです。
熊本県は菊池、阿蘇、人吉地区など、それぞれ違った文化があり、農業の形態も違います。なかなかしっくり一枚岩にならないのも事実です。その中でJA菊池では「きくちのまんま」のブランドをつくりました。農業の違いはあっても、最後の1%は一緒にやらなければならないという面があってもいいのではないか。それを大事にしたいと思っています。
ここが踏ん張りどころです。これからも市場原理が進むでしょうが、どの農産物も、販売には物語が必要です。そして環境にやさしい農業への取り組み、農産物の料理法・機能性を伝える商品づくり、さらには産地のイメージ・信頼を高め、食べる人に感動を与える。そんな販売戦略が求められています。「作る」から「売る」戦略の具体化・高度化を確立することがポイントだと思います。
――日ごろ、仕事や生活の上で心がけていることは。
論語に「己を修めて、以て敬す」というのがあります。自分を磨いて周りを大切にするということですが、自分が学習し、人の意見を聞いて、その上で人のことを論じることができるのではないでしょうか。
熊本県JA菊池会長理事・上村 幸男氏
【略歴】平成17年JA菊池代表理事組合長、同20年熊本県経済連会長、JA菊池会長理事就任
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