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【覚 醒】山口巌の改革に学ぶ2017年4月5日

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K・F

成分無調整牛乳

資材価格で意見交換した第6回セミナー 元JA全中専務の山口巌氏(1919~2014)はJA運動に多くの業績を残しました。彼は政治感覚の鋭い人でしたが、一方で優れた事業家としての面を持ち合わせていました。事業家としての一番の業績は、「自然はおいしい」というキャッチフレーズの農協牛乳の販売でした。今から45年も前になる昭和47年のことです。この年には今のJA全農が誕生しています。
 今でこそ、成分無調整の牛乳は牛乳販売の常識になっていますが、それまでは原乳不足という事情もあって、大手乳業会社などが店頭で販売する牛乳にはヤシ油などの増量剤が入れられていました。この成分無調整の牛乳は消費者の圧倒的支持を受け、以降、牛乳販売の常識となって今日まで続いており、JAの社会的評価を高めるのに十分な成果をもたらしました。
 この販売構想は、(1)成分無調整、(2)牛乳小売店から大手量販店への流通経路の変革、(3)ビンから紙パック容器への変更という三つの革命を同時に進めるものでした。今では想像もつきませんが、それまでの牛乳販売はビン詰めで専門小売店が自転車で戸別販売していました。ちなみに、この農協牛乳は全農ではなく、山口氏の手による全農子会社の「全国農協牛乳直販株式会社」が販売しました。
 「自然はおいしい」の農協牛乳は、日本の高度経済成長期における農産物に対する消費者の安全・安心の期待に応えるもので、まさに社会運動としての戦後農協運動の金字塔、協同組合イノベーションといってもいいものでした。山口氏は同時に、草創期のセブンイレブンのやり方をJAに持ち込む「農村型セブンイレブン」の展開構想を持っていましたが、実現はかないませんでした。原因は、購買店舗機能を全国集約されることを嫌ったJAの力でした。かりに、この構想が実現していたら、今のJA生活購買事業の姿はよほど変わったものとなり、JAの社会的影響力は格段に高まっていたことは確実です。
 山口氏は政治感覚にも優れ、農地の宅地並み課税反対に論陣を張り、中曽根総理が行った衆参同日選挙で衆参の国会議員全員に対し、JAの主張を支持するかどうかのアンケートを取る、踏み絵作戦を決行しました。これが中曽根総理の怒りを買い、国家権力による総務庁の「農協の行政監察」が行われ、JAは激しい攻撃の的とされました。この反省から、山口氏は農協運動と政治活動は一線を画すべしとして、全国農政協議会組織を発足させました。同時に、JA運動における政・官・団体のトライアングルには節度を持て、を口癖にしました。農協運動と政治活動の関係は難しい問題ですが、こうした教訓は忘れられるべきではありません。
 いま農協改革が叫ばれ、当面の課題は全農改革に焦点が当てられています。こうした状況のもと、全農では、英国食品卸会社の買収、スシローへの出資など精力的な取り組みが進められており、JA批判を逆手に取った取り組みは高く評価されます。だが、こうした取り組みは、農協改革への対応というよりは他企業との競争に勝ち抜く企業活動として当然とされるものです。
 ところで先日、「JAしまね協同のつばさ」に参加させてもらった際に見た、台北の日本産農産物を扱う大型スーパーマーケット「裕毛屋」のオーガニック産品を「売り」にする店舗経営には大きな衝撃を受けました。日本でも有機農業の研究やその実践については長い歴史があります。これまでのオーガニック産品の取り扱いの多くはネット通販や相対販売によるもので、「裕毛屋」のような店舗における徹底した取り組みは、おそらく例を見ないでしょう。(1)残留農薬ゼロの検査が毎日行われ、その経費として売り上げの3%があてられること、(2)加工品について食品添加物は一切含まれないものを扱うこと、(3)水産物について、養殖ものは扱わないことなど、その徹底ぶりは見事なものでした。
 わが国は成熟社会を迎えて久しく、人口減少や米消費の減退などで農産物消費が全体として伸びる状況にはありません。一方で、農協改革によって農産物生産・農業所得の拡大が求められています。このため、政府によって輸出の拡大などの取り組みが進められています。
 しかし現実的な方策としては、農産物販売に付加価値をつけることが有力な手段となります。成熟社会においては、「安くて良質な農産物の販売」から「価格が少々高くても超良質な販売」が求められています。付加価値をつけるには、(1)加工を行うこと(「裕毛屋」では、売れ残り産品の加工販売にも取り組んでいる)、(2)有形・無形のサービスを付加することなどが考えられますが、「裕毛屋」のオーガニック農水産物販売の取り組みは、そのことを実践しており、高く評価されるものです(すでに、神川県海老名市に1000坪の敷地を確保しており、近く日本へ進出する予定)。
 わが国では、消費者の立場から見て、戦後第3、4世代の食品アレルギー対策は急を要する事態になっており、純粋オーガニック農産物提供の店舗展開は消費者に大きな共感をもって迎え入れられるのではないでしょうか。JA事業は社会改革運動でなければならず、困った人々のニーズに応えるものでなければなりません。もちろん、この取り組みは従来の生産・集荷・加工・流通・販売のやり方を変えるものであり、リスクを伴います。このためJA・全農一体となった検討が必要になりますが、こうした取り組みにも果敢に挑戦して行くことが求められています。
(写真)資材価格で意見交換した第6回セミナー

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