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【JA全中 奥野長衛会長】組合員とともに自己改革2017年4月10日

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協同の価値世界に広める

 組合員、地域住民が実感できる創造的自己改革の実践をそれぞれの地域で着実に加速していくことが求められている。世界に利己主義的な主張が声高になっている今、協同組合の自己改革によって、協同の価値を世の中に広めていくことも問われているとJA全中の奥野会長は強調する。農業新時代を「総合農協」としてどう切り拓くかも明確に見据えたい。新年度にあたって改めて基本的な考えを聞いた。

◆高まる社会の矛盾

--組織一丸となって創造的自己改革を加速させる必要がありますが、一方、JAグループに対する批判は継続しており、それに対峙する基本姿勢を改めてしっかり打ち立てるべきとの声もあります。新年度にあたって改めて基本認識をお聞かせください。

JA全中 奥野長衛会長 農協に対するいろいろな攻撃はこれからも起きてくると思います。そもそも農協が発足した時から始まっているのではないか。
 それは資本主義と協同組合は相容れないという勘違いがあるからで、私は協同組合が生まれてきた歴史をしっかり勉強すべきだと思っています。いわゆるイギリスの第一次産業革命以来、社会の矛盾がいろいろ出てきて、それを解決するには協同の力が大事なんだということが認識されてきたという歴史です。
 そのなかでロッチデールやライファイゼンが協同組合を立ち上げ、それを目の当たりにした品川弥次郎、平田東助が日本にもこうした協同組合が必要だと産業組合を立ち上げた。つまり、社会が発展するなかでいろいろと出てきた矛盾点を解決する力として協同組合は存在してきた。だから、矛盾があろうとこの世をわがものにしたいと考えている勢力にはどうしても敵対勢力に映る。
 ある方によると、人間を性悪説か性善説かで考えようとすると、やはり性悪説でものを考えたほうが物事は分かりやすく、どうせ悪いことをするのだと対策も打ちやすいと指摘しています。ところが協同組合は、成り立ちそのものからして性善説です。
 そういう意味でも協同組合や農協に対する批判は今に始まったことではない。性悪説の人たちからみれば性善説で成り立っている組織はおかしいわけです。そこまで考えておかなければならないかもしれません。
 だから、ずっと闘いの歴史であったし、これからもそれは続くと私は思っています。その意味でも、自分たちは何者であるのかということについて繰り返し教育が必要だということだと思います。

--協同組合にとっての「教育」の重要性ですね。

 教育といってもいろいろな本を読むなど、いわゆる座学も大事ですが、実際にその事業を利用することによって、組合員が体感し体得していくことがいちばん大事なことだと思います。組合員が組合員として納得できる事業を実践していなければならないということです。
 それと同時に考えたいのは、今、世界は3つめの峠に来ているのではないかということです。
 歴史を振り返ると資本主義が台頭し、片方で社会主義や共産主義が出てきましたが、資本主義は競争のためにどんどん生産手段を作り続けますから、その競争が行き着いたとき、結局、戦争を起こして今までのものを破壊した。それでまた一から始めるというかたちで何とか矛盾を解決してきたということです。それが第一次大戦であり第二次大戦でした。
 今、その前夜によく似ているといわれますが、それは保護主義の台頭です。いちばん見事に言い表しているのがブリテン・ファーストでありアメリカ・ファーストです。
 ファーストとはどういうことかといえば、自分が一番、ということでしょう。他人などどうでもいい、まさしく利己主義のかたまりです。今はそういう世の中の流れになっていて、第二次大戦の前にもそれによってブロック経済化し戦争への引き金を引いたということですが、そのような動きになりつつある。新自由主義などといっても、資本主義のいろいろな矛盾を高めているに過ぎず、けれど、それを解決するのに戦争はできない。今は戦争すれば人類がいなくなってもなお核兵器が残るという話ですから。 ではどうなるかと考えると、利己主義が行き詰まってしまえば、結局、世界は大恐慌になりかねない。そこまで行ってから再び作り直すのですか、ということになるわけですから、そこで待ったをかけ、そんな利己主義ではなくお互いに助け合って生きていこうとわれわれは言わなければならない。今はわれわれの協同組合の論理を世の中の原理に入れていこうという運動も大事になっているということも考えたいです。

◆組合員は「仲間」

--協同組合としてのJAの役職員にはどんな姿勢が求められますか。

 昔も今も「組合員のために」という言葉はJAのなかで強いと思いますが、私は「ために」というのはおかしいと言ってきました。それは組合員と役職員とを分けて考えてしまうことになってしまい、組合員のために何かをしてあげる、組合員のために何かをさせていただく、そういう思想になる。そうなると組織は守りに入る。守りに入った組織は何をするかといえば組合員をお客さま扱いする。ここに決定的な違いがある。
 組合員はお客ではない。仲間です。精神的にも経済的にもより豊かな生活を実現するための同じ仲間どうしですから。本来であれば組合員が運営すべきですが、組合員が農協の仕事をやっているわけにはいかないから専従職員ということで雇用が生まれた。だから、組合員の「ために」ではなく、組合員と「ともに」だと思います。
 これが正常な姿なので組合員も役職員もともに精神的にも経済的にも、ある意味で文化的にも豊かな生活をつくっていくということが目的です。

--それでも現場では、組合員のために満足度を向上させることがどうしても強調されていると思います。

 顧客満足度、CSを重視し過ぎてきたということでしょうが、Cをカスタマーではなく組合員に置き換えればいいと思います。組合員にどれだけ満足してもらっている組織なのか、ということを計っていくことが極めて大事なことです。協同組合の組合員としての満足度を計るべきなのであって、顧客としての満足度ではないということです。
 大阪で長年生協を運営している友人がいますが、その生協は物品を扱っておらず福祉施設の運営だけやっています。大阪南部のかつて人口が膨れあがった地域で、今は介護サービスなどを求めており、そうしたニーズに応えていくということですね。地域の課題解決のために協同組合をつくったということだと思います。

◆現場で議論が最重要

--今回の自己改革では協同組合の原理はもちろん、「総合農協」としての意義、価値について役職員が組合員、地域住民に語っていきながら改革を実践することが大事だと思います。現場へのメッセージをお願いします。

 農業者の所得を拡大していく、農業生産を拡大していくということは非常に大事なことですが、地域の住民にとって本当に大事なことは自分たちの暮らしをどれだけ支えてくれるのかという話になります。
 総合農協というのは暮らし全体をカバーできるから総合農協というのであって、信用事業、共済事業は組合員にとってはセーフティネットとして非常に機能しています。
 日本の協同組合、助け合いの元といわれている二宮尊徳はとにかくみんなでお金を貯めよう、と。そして、みんなで貯めた資金で新しい事業を興していきましょうという考えでした。ライファイゼンもそうです。とにかくみんなでお金を貯めようということでした。それが信用事業の大元です。
 ただ、自己改革といっても、全国が共通してこれに取り組めということではないと思います。それぞれのJAでしっかりとした話し合いのなかで形づくっていくべきことだろうと思います。
 地元のJAの例ではありますが、総代との懇談会を相当細かく実施するよう工夫しています。たとえば100人が出席するような場ではなかなか意見も言えないということから、20人規模の会にするなどの実践です。そこでは地域それぞれの主張、不満などいろいろな問題が出てくると思います。たとえばあの地域には立派なSSがあるのに、われわれの地区にはないではないか、など具体的な要求も出てきます。それに対してなぜこの地域ではできないか理由をしっかり説明して、課題を解消するような話をする。それで初めて具体的な議論になるということです。
 女性総代を増やさなければいけないということから、地区で最低1人は女性総代を、とお願いした。ところがなかなか女性が手を挙げてくれないというので、最低1人なのであって2人でもいいという話なんですよ、ときちんと説明したら、あっという間に埋まった。仲間がいれば私もやってみようということになる。それぞれの現場で工夫をしながら改革を進めていくということに尽きると思います。

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