JAの活動:農業協同組合に生きて―私の農協運動史―
株式会社に負けない努力を【萬代 宣雄氏 島根県・JAしまね相談役】2017年4月12日
「我らの農協」づくりへ邁進
戦後、創世期の農協に関わった人の多くが70~80代になり、第一線を退いている。若くして最も苦しい時代に農協運動に関わった人たちは、農業・農協改革がとなえられる今日、農協について何を思い、何を伝えるべきだと思っているかを聞き出し、これから農協の進むべき方向の道しるべとしたい。(随時掲載)
◆共同養豚からスタート
昭和17年に農家の4人兄弟の長男に生まれ、中学卒業と同時に就農しました。1.1haほどの田んぼを引き継いで専業農家となり、米と地域の仲間2人と共同養豚を始めました。当時の農業は米と養蚕が中心で、農地に豚舎を建てることには抵抗があり、土地を提供してくれた仲間の父親と、養豚をやめるときは、豚舎のかけらも残さず元通りにする約束で300頭の肉豚経営を始めました。
経営は順調でした。その稼ぎで、さらに経営規模を拡大するため共同経営を発展的に解消し、自宅の近くに豚舎を設け、繁殖豚30頭を入れて一貫経営に取り組みました。地元の農協を全面利用する一方で、県経済連等の販売、飼料には不満があり、自分たちの希望に沿った業者を開拓し、単協経由で利用しました。そのとき農協と一緒にやったことで、地域の農業に農協が必要だということを実感しました。
一方、養豚以外でも、なかなかわれわれの望むようにならないことも多くありました。1農家、1事業体でやれることには限界があると気づき、農協青年部に加入しました。地元、県、ブロック、全国組織の活動を通じて、若い者が夢を持って働き、安定した農業経営を目指すためには、こうした組織活動にも限界を感じ、われわれの思いが伝わる役員を出して、農協の経営に関わることの必要性を痛感しました。結果、昭和45年に同志から組合長を選出することができました。
◆青年部から県議・市議
一方、農家の長男であり後継者として、若者が喜んで残るような地域にするには、行政への発言力が不可欠であることに気付き、これまた行政への発言力向上に向けた努力をすることにしました。そうした発言力となれば、地域で県議会議員を出せるほどの組織を作るべきと考え、努力の結果、昭和50年にはわれわれの仲間から県議会議員を誕生させることができました。出雲市の市議会議員も私を含めて2人を送り出し、以後、改選ごとに同志の議席を伸ばし、今では市議会議員保守系の2分の1以上が私達の同志となり、グループの発言力が随分強大になったところです。
このように出雲という封建的な田舎町で、無名の若者達があらゆることに挑戦してきました。その中で多くの人生経験をさせていただきました。発言力が随分増したとはいえ、思ったように事が進んだわけではありません。市町村合併を積極的に進めましたが、合併賛成の方向でいた議員が、いざ蓋を開けてみると、3分の2の議員は逃げました。
全国の農協の常勤役員に呼びかけ、自己研鑽と情報交換を目的に、仲間とともに新世紀JA研究会を立ち上げましたが、全中があるのになぜ、農協にそのような研究会が必要なのかと批判されました。
しかし、地道な活動が今日認められ、全中会長より感謝状をいただくほどに、今では理解と協力をいただいていますが、随分、抵抗勢力があったという事です。
◆農協・農家いじめ打破を
国会議員に失望させられることも数多くあります。例えば、規制改革推進会議に関わる委員と国会議員の先生を比べたとき、国会議員が軽く見られているように思えてなりません。政府や規制改革推進会議の農協いじめ、農家いじめの状況をなんとか打破しなければなりません。
このように、われわれは農協青年部で頑張り、当時、青年部組織の委員長を買って出る者が随分おり、活気があったものですが、今では青年部の活気はいかがなものかと残念な思いです。農業を、農協を、地域を活性化させようとする若者らしさが感じられない状況が残念であります。農協青年部の奮起を願っております。
◆危機感欠如の役職員
農協では、昭和64年に出雲市農協の理事、平成15年JAいずもの組合長になり、苦情を言う立場から言われる立場になりました。そこで感じたことは、第一に組合員に「われらが農協」という意識が希薄なことです。組合員であることの魅力が乏しくなったのかも知れませんが、組合員には、農協法の原点に立ち返り、われらが農協という意識をもっていただきたい。
第二は、役職員の危機感、緊張感の欠如です。10社ほどの会社を運営し、市会議員を28年やってきましたが、民間会社と比較すると、まだまだ農協役職員は甘いと思います。組合長は経営者ですが、これまで農協が倒産した例はほとんどありません。それは互助制度の美徳ではあるのですが、民間の会社ではそうはいきません。私財を担保にするなど債務保証はもとより、命がけです。ところが、農協は、赤字をいくら出しても組合長の個人財産の没収ということはほとんどありません。
◆組合員の意識改革を
組合員の意識改革が必要です。農家を農協が支援することは当然ですが、それが当たり前になり、生産費他、原価意識なるものの重要性が置き去りになっています。JAいずもの時代に、生産品目毎に収支分析したところ、多くの品目で赤字であることが分かり、賦課金・手数料金のアップを提案しました。これは金額の問題ではなく、「実はJAがこれだけ経費負担をしているという現実」を理解いただくための意識改革のお願いでした。これについては、時間は少し掛かりましたが、分かってもらうことができ感謝したところです。
また労働組合には労働時間の延長を提案し、今少し、組合員サービス向上、職員教育の充実をしようと、年間変形労働時間制の導入と年間2000時間労働で労使合意しました。全国のJAの中では一番長い労働時間であったと思います。
次に、職員の経営参画という意味で提案も大切であると思い、提案制度に取り組みました。優秀な職員が数多くいる中で、みんなで更なるレベルアップをするため、数多くの意見、要望を出してくれました。しかし、管理職の中で提案しない者がおりましたので、少しペナルティを課したり全員が参加するように指導したりして、数多くの意見が出るようになりました。
コンビニとの提携はこうした職員の提案から出たものです。年齢を問わず多くの人が利用するコンビニは農協を知ってもらうための拠点です。提携店は当初の10店舗から15店舗に増やしました。発信力はまだ十分とは言えませんが、農協がコンビニを始めたということは、おじいさん、おばあさんの農協というイメージを変える効果があったと思っています。
生活店舗の「ラピタ」は8店舗ありますが、一部催事場がある店舗の内装を変える時、絨毯の色を黄色・赤系統にするか、紺色系統にするか組合長に決めて欲しいと言ってきました。私が決めるより、若い職員の意見を取り入れようと、20人の若い職員に投票させたところ、私と専務が黄色・赤系統で、若い職員は全員紺色系統を選びました。その時、広く、若い職員の意見も聞かないといけないものだとつくづく感じました。
新世紀JA研究会の立ち上げのきっかけですが、出雲弁でいう「ござなめ」がスタートです。酒を飲み過ぎて、ござに酒をこぼしてまで、酒を飲みながら延々と続く議論の場のことです。たまたま、会議の最後まで残った3人が、それぞれ夢があり、実現させようと努力していましたが、中々その願いが叶わないことに気付いている中、みんなで勉強しようと立ち上げることにしたのが、この研究会です。
◆管理職は部下の範に
求められる管理職については、探究心、積極性、新機軸、さらには目標意識、地域貢献への参画、部下の範になるよう努力しているかがポイントだと思います。同僚・部下に範を示さないと人はついてきません。管理職を選ぶときは地域での人気、ボランティア活動参加の有無を参考にしています。地域で活動している人は管理職としてもまとめる力があります。私のモットーは「情熱・信頼・奉仕」です。情熱を持って努力すれば、信頼を得ることができ、仕事が上手く進みます。そうすれば利益も出て、所得も向上し、地域のために奉仕できる環境ができると思います。そして「夢はでっかく、望みは高く、暮らしは少し控えめに」です。厳しい環境の中、後ろ向きな発想になりがちな時世ですが、夢は大きく持ち、望みを高く持って頑張ってもらいたいと思います。
最後に、言って置きたいことを三つ。第1に、全中が一般社団法人になります。これからの農協は農家の総力を結集できるか。今以上に強固な政治力を持つ組織にできるかが問われます。第2に、役職員は株式会社に負けないための努力を更にしなければ農協は滅びます。第3に、農業・農協改革で食糧自給率のことがほとんど論じられていません。一番大事な食糧問題を置き去りにしているのではないでしょうか。日本の食糧自給率は39%です。
ばんだい・のぶお
昭和17年出雲市生まれ。昭和46年出雲市農協青年連盟委員長、50年出雲市議会議員、63年出雲市農協理事、平成15年JAいずも代表理事組合長、18年新世紀JA研究会代表、22年島根県農協中央会会長、23年全農経営管理委員会副会長、27年JAしまね代表理事組合長、28年同JA相談役。
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