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JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと

第13回 中山間地域等直接支払制度にかかわる助成は全力をあげて維持・存続すべきである2017年5月2日

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今村奈良臣 東京大学名誉教授 最近、私なりに集めた情報によると、農林水産省は中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会を開き、2015年度から始まった第4期対策の実施状況や中間年評価に向けその改廃も視野に入れて議論を始めたという。
 中山間地域等直接支払制度は私が初代食料・農業・農村政策審議会の会長時代に創設したものであり、また、本欄第5回「仮説を樹て、思考し実践しよう」で紹介したように、拙著『補助金と農業・農村』(1978年12月)の第6章で提起した"Rural Development Fund"の創設という農業補助金制度大改革の提案が20年後に初めて陽の目をみて実現した革新的な制度であり、かつ広く農村から歓迎され多大な成果をあげてきた制度であった。
 この中山間地域等直接支払制度は上述のように2000年に導入され、5年ごとに見直され、15年度からは「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」にもとづく制度として、第4期対策(2019年度まで)が始まった。その実態の考察と評価がいま進められているようである。

<課題はどこにあるか、問題点は何か>
 この制度は、集落の裁量で多用途に使える交付金として歓迎され評価され、農地の保全や集落機能の維持・強化に貢献してきたことは高く評価しなければならない。たしかに、農林水産省が2015年に実施した抽出調査をみると、「10年後も協定農用地が維持されている」と答えた割合は34%にとどまり、「66%が一部荒廃の不安を抱えている」と答えている。その理由は、「農業の担い手が不在または不足」というものや「高齢化・後継者不足によりリーダーなどの不在」が主な理由としてがあげられている。
 また、農水省の別の調査では、「制度の実施地区は未実施地区に比べ、10~15ha規模の経営体数や農家民宿に取り組む経営体数の増加率が大きく、55~64歳の農業従事者数や果樹の作付面積、加工・体験農園を営む経営体数などの減少率が低い」というような傾向が示されているとのことである。
 要するに、「農業の担い手の不在・不足」あるいは「高齢化・後継者不足」、「地域リーダーの不在」という、ひとり中山間地域に限らず日本の農業・農村をめぐる基本問題に直面しているということである。
 そこで、なにをなすべきか、なにから取り組むべきか、いかに推進すべきか、ということを考えるために、まずは先進事例の紹介から始めてみよう。

<三春農民塾生たちの活動を見習おう>
 「中山間貝山プロジェクト21」という奇抜な名称のグループが、福島県三春町貝山地区にある。このユニークな名称からある程度推測できると思うが、中山間地域の活性化をねらいとして2000年度から実施された中山間地域等直接支払制度を有効に活用することを目的として設立され、活動している組織である。
 まず注目すべきことは、この「貝山プロジェクト21」が掲げている活動方針にある。そのなかで、「農地は、単に先祖から受け継いだ財産ではなく、子孫から借り受けているものであるから、良好な状態に維持して返さなければならない」と高らかにうたっていることである。すばらしい思想である。「農地」という言葉のなかには、当然のことながら、水資源や水利施設、水源林などの山林等々、農業生産、食料生産を維持、発展させるための諸要素を包括的に含んでいると受け取るべきであろう。それらをまだ生まれてきていない「子孫から借りている」という思想、そして「良好な状態に維持して返さなければならない」という思想。この思想こそが、今の日本で、それは農村のみではなく都市を含めて日本国民全体に求められているのではなかろうか。

<多彩な構成メンバー>
 このグループの構成メンバーに際立った特徴がある。
 代表の大内昭喜、副代表の渡部宣夫、土地管理担当の大内宏、黒羽良市、会計担当の大内將の5人の諸君は、いずれも私が塾長を務めてきた三春農民塾(これについては次回以降、機会を見て述べる)の第1期から第5期に至る卒塾生である。このほかに、地区出身だが農業にいまでは関係のない企業に勤めている影山郁雄、橋本一二、中本清三、山崎寛一郎の4人が加わり9人で構成されている。三春農民塾の卒塾生たちは、いずれも町内はおろか県内きってのすぐれた農業経営者たちで多彩な農業を展開している。ちなみに大内昭喜君と大内宏君とは、かつて福島県農業大賞を受賞している。企業に勤めて参加している4人はそれぞれ、ブルドーザーなどの大型機械免許や測量士、建築士などの特技をもっているという。いずれも多彩な人材が、地域の農地を維持、管理し子孫に返していこうという思想で一致しているという。

<多彩な活動の展開>
 この貝山地区は77戸、294haと町内では大きい集落であるが、兼業化、高齢化が著しい。中山間地域等直接支払制度の発足当初の実態を紹介しておこう。
 中山間地域等直接支払制度の協定参加者は73人。交付金は年間422万8297円、畑が多く緩傾斜地が多いので交付金の単価は低い。交付金は協定参加者への個人配分は行わず、地域の共同的な取り組みにのみ使用することが、地区協定でうたわれている。
 そこで、これまでの多彩な活動の要点のみ紹介しておこう。
(1)耕作放棄された農地を全力をあげて解消してきている。協定締結時には8haの耕作放棄地が存在していたが、これまでにすべて解消し良好な農地に回復してきている。
(2)回復した農地に飼料作物、牧草などを植え畜産農家に売却、供給し、堆肥の還元を受け農地へ還元するなど有効な活用をはかっている。これまで組織的に進んでこなかった耕畜連携の新しい道筋をつけることになった。
(3)さらに近年、水田農業の維持が困難になってきた高齢農家も出てきたため、協定参加者の合意のもとで、コンバインや小型だが効率のよいライスセンターを導入、設置して高齢農家の支援と耕作放棄の解消に努めるなど、活動の分野も広がってきている。
(4)修復した一部の農地では学童農園を創設し、保育所児童を対象にサツマイモの栽培を指導するなど、農業の教育力に努めるなど、活動の分野も広がってきている。
(5)高齢者に就業の場を創り出している。地域特産のダイコンの栽培、管理、収穫など、働く意欲のある高齢者が健康維持も兼ねて無理なく働ける場を作り、収入も得られると喜ばれている。
(6)協定参加者のつくった農産物の直売所を開設するとか、地区全員参加の収穫祭を開くなどして、そこで出た収益を交通遺児育成基金に寄付するなど、多彩な社会貢献活動をこの「貝山プロジェクト21」は企画、立案、実行しているのである。

<新しい時代にふさわしい組織化の課題>
 以上「貝山プロジェクト21」の多彩な活動の一端を紹介してきたが、このボランティアの集まりである組織をさらに永続性のある確固たる組織にするためにはどのような組織形態が望ましいか鋭意検討中である。
 私が三春農民塾の塾長になって今年で早や足掛け31年にもなるが、その卒塾生たちと彼らの友人たちが、このような活動に胸を張って取り組んでいる姿をみると、私なりに進めてきた農民塾運動は、それなりの価値をもっていたと改めて痛感している。
 全国各地で、中山間地域の衰退を嘆いているのではなく、この「貝山プロジェクト21」に見られるような地域再生の多面的な活動に取り組んでもらいたいと切に願う次第である。"Challenge! at your ownrisk"(挑戦と自己責任の原則)の精神で頑張っていただきたい。三春農民塾生ならびに卒塾生たちはこの一語を胸に刻んで活動してきている。
 三春農民塾をなぜ始めたのか、どういう精神でどういう指導をしてきたのか、現状はどうかなどは次回以降で述べてみたい。

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