JAの活動:いんたびゅー農業新時代
【JA全中 太田実常務理事】総合事業の展開は基本中の基本2017年5月12日
代理店化で所得と生産向上は実現するか?
直近のJAの経営環境は、マイナス金利の影響が大きく影を落とし、JAの健全経営の確保がJAグループ全体の課題となりつつある。そのようななか、JAの信用事業のあり方について一部で信連・農林中金への事業譲渡・代理店化をJAグループとして検討するかのような報道がなされた。代理店化とはJAがどのような組織になり、どのような課題を抱えることになるのか、正しく理解したうえで問題を検討する必要がある。JA全中の太田実常務は今後ともJAは総合事業の維持が「基本」であると強調する。改めて考え方を聞いた。
--JAの信用事業について4月の初めに一部報道でJAグループとして譲渡・代理店化の方向で検討をしていくかのような報道がされました。まずこの報道について見解をお聞かせください。
太田 4月初旬に、農林中央金庫が全国のJAに対して平成31年(2019年)5月までに金融事業について分離再編の方向性を示すよう求めたとの報道がありましたが、そもそもどこから出てきた話なのかが不明です。
農林中央金庫は、JAバンク基本方針の改正に向けた基本的な考え方として、今後もJAは総合事業体であることが基本であることを明確に示しています。そのうえで総合事業経営をしっかり継続するためには、確保すべき健全性や内部管理態勢についてより一層重要性を増してくるとの認識のもと、かりに自前で必要な内部管理態勢を構築することができないと判断されるようであれば、まずJAの合併を検討することになるとの選択肢を示しています。
その後に代理店化の選択肢について、総合事業経営があくまで前提であることと代理店スキームの内容を十分に理解したうえで、JAの独自の意思としてこれを選択するかどうかを決めるべきだという方針を示しています。したがって、この代理店スキームについてすべてのJAがしっかり理解する必要があるので、そこは農林中央金庫も十分な説明を行うということです。
こうした説明と県・JAでの検討をふまえたうえで、農協改革の推進集中期間が平成31年5月までとされていることから、その時点までにこういう理由でJAとして代理店を選択するのか、しないのかということについてそれぞれ組織としてきちんと決めてほしいということを3月に整理して示したということです。
ですから、JAグループとして信用事業の再編分離を促したかのような報道は誤解を招きます。
--では、改めてJA全中として「総合農協」の維持発展と信用事業等のあり方について基本的な考え方をお聞かせください。
太田 総合農協がなぜ必要なのかということについては既に整理がなされていると思っています。というのも、第27回JA全国大会で、JAグループがめざす姿は、持続可能な農業の実現、豊かでくらしやすい地域社会の実現、そして協同組合としての役割発揮、であり、それは総合事業を通じて実現をめざすということを決議しています。そのうえで先のJA全国大会では具体的な重点事項として農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化を自己改革の目標として掲げました。これは何ら変わることはありません。(図参照)
これを前提に代理店という制度をみた場合に、JAグループがめざす姿を実現する施策なのかといえば、大きな疑問を感じざるをえません。
信用事業を分離してしまうとJAは手元資金を保有しない状況になります。一方、正組合員であれ准組合員であれ、組合員としっかり対話してニーズに応えていくのがJAだということは農水省の監督指針にも書いてあるわけですが、では、手元資金のない状況でそのニーズに応えていけるのかといえば、たとえば農業倉庫を作ろう、選果場を新たに建て直そうというときには、代理店を選択した場合には、信連や農林中金に借り入れを申し込むことになるわけです。
またJAは、その地域の農業や組合員の実態について、総合事業を通じてさまざまなかたちで接しているから融資の判断もできるし、地域への投資もできる。JAが代理店の道を選択した場合に、農業のため、地域のための事業、活動ができるのかということが大きな課題だと考えています。
このような信用事業の代理店化のほか、今後のJA経営を取り巻く環境について、今年の年初以降、全中役員は各県で意見交換をしてきました。とくに、マイナス金利について、これが続けばJAに限らずどの金融機関も収支の悪化が避けられないわけですが、この点については十分ご理解いただいたと考えています。
政府の規制改革推進会議の「意見」では代理店等の手数料水準をJAからみて「十分魅力ある水準に設定すべきである」などとしていますが、農林中央金庫にとっても信連にとってもマイナス金利が続けば収益確保に影響がでます。JAにとって代理店化は収支悪化の解決策にはならないということです。代理店化をすることは決して目的ではありません。組合員の立場にたって、事業運営のあり方、収支への影響を冷静に分析してみれば、代理店化は一つの選択肢としてはあるが、ほとんどのJAにとって望ましい事業方式とならないことが分かるはずです。
ただ、その際、代理店の手数料はどのくらいなのかということはJAにとって冷静な判断をしてもらう材料として必要ですから、そこは農林中央金庫や信連が、きちんと提示していこうということになっています。代理店制度を活用する、しないということをJAが冷静に判断をするためにも、実際の手数料水準はどの程度なのか示していかなければならないということです。
--一方では、JAの信用事業をめぐってはそもそも農協は農業関連事業に特化すべきではないかという指摘があると思います。この点についてはどう考えればいいでしょうか。
太田 JAが信用事業を兼営してきたのは、営農するためには資金が必要だからであり、金融事業の兼営が認められてきました。しかし、最近では、農業資金以外の貸出が増えており、それに対し一部から批判をいただいています。
しかし、農業者は事業者であると同時に地域の生活者です。JAは、持続的な農業のためにも、総合事業体として地域に住む組合員の生活を守ることも使命であり、いわば地域協同組合として事業を展開しています。JAの事業は、組合員が多様化するなかで組合員の営農と地域住民の生活に密接に結びついている実態があり、それを切り分けることは、組合員、農業、地域にとって得策ではありません。そんな議論があるとすれば、JAや地域の実態を知らない方の議論ではないでしょうか。
--今後、県段階、JA段階に求められる取り組みは何でしょうか。
太田 われわれが今回、全国に投げかけているのは、現在の環境下でJAの収支がどうなっていくのか各県でシミュレーションを行い、そのうえで事業をどう展開していくのか、場合によっては組織再編ということもあるかもしれませんが、まずは各県で議論してくださいということです。
一方では次期JA全国大会もありますからJAの事業改革に資するような全国連をも巻き込んだ事業の見直しについてはしっかり議論していかなければならないと思っています。まだまだ議論はこれからですが、JAだけの問題ではありませんから、各県、全国段階でも事業改革について考える必要があると思っています。
同時にわれわれがJAに提起しているのは、われわれは担い手農家だけではなく、高齢農家、中小農家もあれば、あるいは農業をしていないけれどもリタイアして准組合員になった方など、様々な経営形態の農業者や地域住民を対象にして事業を展開しており、こうしたすべての組合員から評価されて自己改革を進めなければならないということです。
そのためには自分たちがやっていることをきちんと伝えるとともに、組合員の声も聞いてJAも変わっていかなければならない。役職員あげて正准組合員にきちんと伝え評価してもらうことを一歩一歩進めなければならないということをまず認識してもらうことが必要です。
その認識に立って話し合いを実践し、正准組合員からの評価をもって不断の自己改革を行い、JAに対する理解を高めていくことが重要だと考えています。
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