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【覚醒】「規制会議」の過剰介入2017年5月19日

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M・A

◆競争力強化法が成立

 安倍晋三首相は環太平洋連携協定(TPP)を先取りした急進的な農政改革を進めています。政府は193回通常国会に農政改革8法案を提出し、農業生産資材価格と農産物の流通コストの引き下げに向けて業界再編を促す農業競争力強化支援法(競争力強化法)が5月12日に成立しました。
 競争力強化法は、政府・与党が昨年の11月にTPPの国内対策として決めた農業競争力強化プログラム(以下「プログラム」)の実施法です。プログラムにある13項目の中でも、規制改革推進会議(議長=大田弘子政策研究大学院大学教授)が提起した(1)生産資材価格形成の仕組みの見直し、(2)流通・加工の業界構造の確立―の2項目に照準を当て、全農などの経済事業改革が柱です。
 安倍首相は、通常国会冒頭の施政方針演説で「農業版の『競争力強化法』を制定します。肥料や飼料を1円でも安く仕入れ、農産物を1円でも高く売ってもらう。そうした農家の皆さんの努力を後押しするため、生産資材や流通の分野で事業再編、新規参入を促します。委託販売から買い取り販売への転換など、農家のための全農改革を進めます。数値目標の達成状況を始め、その進捗(しんちょく)をしっかり管理して参ります」と表明しました。首相が施政方針演説で「全農」という個別事業体の名を挙げて農協改革の断行を強調するのは極めて異例で、官邸肝いりの法律が成立した意味は大きく今後の農協改革から目が離せません。

◆協同の取り組み壊す恐れ

 国会審議では、農業者等の努力義務規定が議論の的になりました。農業者等の努力義務規定は、5条1項に「農業者は農業資材の調達を行い、又は農産物の出荷若しくは販売を行うに際し、有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組むよう努めるものとする」とあり、さらに同条3項には「農業者の組織する団体にあって農業生産関連事業を行うもの(以下「農業団体」という)は、前条第1項の取り組みを行うに当たっては、農業者の農業所得の増大に最大限の配慮をするよう努めるものとする」と、農協に対しても努力義務規定を盛り込んでいます
 農業者の協同組織である農協と民間事業者(ホームセンターなど)を同列視し、あたかも農家に安易に農協を利用することなく、有利な事業者を選ぶように求める規定で、農村社会に全く似合わない市場競争原理を持ち込み、JAグループの生産資材の共同購入、農産物の共同販売などの協同の取り組みを壊しかねません。農業者は競争原理や効率化一辺倒の損得勘定だけで営農しているわけではなく、地域社会との関わりや自然環境への配慮などを含めて経営判断しています。
 農協に対しても「農業者の農業所得の増大に最大限の配慮」をするよう求めています。この条文は昨年4月に施行された改正農協法にある「組合は、その事業を行うに当たっては、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」(7条2項)や、「組合は、前条の事業を行うに当たっては、組合員にその利用を強制してはならない」(10条2項)との条文と通底しており、〝農業所得の増大〟を錦の御旗に全農・農協改革を強行する政府の姿勢が見て取れます。
 このため、参院農林水産委員会では「5条の適用に当たっては、農業者や農協による自主的な取り組みを基本とすること」など6項目の付帯決議が全会一致で採択されました。

◆虎の威を借りた進捗管理

 国会審議ではもう一つの論点として、関連事業者の生産資材価格の引き下げなど事業改革・再編の進捗状況をフォローアップする規定(16条)が、民間組織である全農やJAグループへの過剰介入の法的根拠になるのではないかと懸念する質疑が行われました。
 法16条1項で、政府はおおむね5年ごとに事業改革・再編の進捗状況を調査・公表し、同条2項で競争力強化の観点からおおむね5年ごとに追加措置を講じると規定しています。さらに付則2条1項では、最初の調査は法律施行日から1年以内に行い、同条2項で最初の追加対策は法律施行日から2年以内に行うことにしています。
 山本有二農相は、追加対策について「農業資材や農産物物流などに関する規制や支援措置の見直しを行うこととし、事業者に対する指導が含まれている」と答弁、同法を踏まえて法令違反がないか、制度周知のためJAなどに指導を行うことを認めていますが、「個別の事業者の経営判断に介入するような指導は考えていない」と、経営介入はしない考えです。
 ところが、首相の諮問機関である規制改革推進会議の農業ワーキンググループ(WG、座長=金丸恭文フューチャー社長)は、全農が3月末に発表した事業改革方針に対して「スピード感がない」などとさらなる改革の深掘りを求めています。
 農業WGの4月7日の会議の議事録によると、山本幸三規制改革担当相は冒頭のあいさつで「安倍総理は昨年11月の規制改革推進会議において『数値目標を掲げ、年次計画を立てて、生まれ変わるつもりで自己改革を進めていただきたい』と発言されました。規制改革担当大臣としてその趣旨に即した自己改革を実現する年次計画になっているか、しっかり見ていきたい」と、総理発言という〝虎の威〟を借りて説明者として出席した全農役員にプレッシャーをかける一場面もありました。
 また、当日は肥料の購買事業への競争入札の導入に議論が集中する中で「シミュレーションをしながら現実的な対応策を検討している」とした全農役員の説明に対して、金丸座長が「肥料メーカー300社のボスのように聞こえる」と揶揄(やゆ)する発言もあり、さらには全農トップの人事にまで言及するなど異常な介入が目立ちました。
 全農改革については、プログラムに「与党及び政府は、定期的なフォローアップを行う」と明記されており、農水省が行政指導を行うことは説明がついても、規制改革推進会議の進捗状況管理には目に余るものがあり、成立した競争力強化法案を根拠にした過剰介入は絶対に許されません。  

このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。

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