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JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと

第16回 農村青年の皆さんへの私の10の提言ーー酒田、女流地域づくり塾開催によせてーー2017年5月27日

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 さて、来る6月1日~2日にわたって、酒田市で酒田女流塾(スーパー農業経営塾の後身で今回からは女性を中心に運営することになった)が開催されることとなり、そのための私の講義要旨(レジュメ)を作ったのでそれを次に紹介しておきたいと思う。

【酒田、女流塾生への提言  塾長 今村奈良臣】
私の10の提言

第16回 農村青年の皆さんへの私の10の提言ーー酒田、女流地域づくり塾開催によせてーー

1.Challenge! at your own risk!

 この言葉を私は「全力をあげて何ごとにも挑戦せよ。そして自己責任の原則を全うせよ」と訳し説いてきた。今から33年前(1984年)にアメリカ・ウィスコンシン大学の客員教授(文部省派遣)として行っていた時、アメリカ中西部の農村調査も詳しくおこなった。特に農民の親から子への農場継承について詳細な実態調査を行ったが、その中で中西部のある農民からこの言葉を聞き胸にグッときた。アメリカでは農場主の父が引退を決意するとき、「私が農場を買って経営主になります」といった子ども(長男でなくても、次男でも、次女でもよい)に継承させる。その時発せられた言葉で、重い言葉だ。これまで各地の農民塾生に説いてきた。

2.Boys,be aggressive!

 これは「自ら新路線を切り拓き積極果敢に実践せよ!」と訳している。明らかに、明治10年に札幌農学校を辞するにあたり見送りにきた学生たちに発したクラーク先生の"Boys,be ambitious!"(青年よ、大志を抱け)をもじったものである(なお、Boysは一般名詞であり女性も指し男女差別語ではない)。今から54年前(1963年)、私は東京大学大学院を修了し(財)農政調査委員会という研究所に研究員として入った折、理事長の故東畑四郎氏(かつて名農林事務次官といわれ、私の先生の故東畑精一教授の実弟)が、面接を終わり合格と告げたあと言われた言葉。この言葉を各地の農民塾生にも話し、この精神で頑張れと言ってきた。

3.農業ほど男女差のない職業はない

 この言葉は、青森県JA田子町の専務理事(その後JA八戸の監事)の佐野房(さのふさ)さんから聞き、胸にずしんときたものである。私はこれまで「農業ほど人材を必要とする産業はない」、「JAほど人材を必要とする組織はない」と説いてきたが、この佐野房さんの言葉もまさに核心をついている。
 これまで日本農業の6割は女性が支えており、他のどの産業分野を見ても女性が半ば以上を占める産業分野はきわめて少ない。JAも、農業委員会も女性の参加、役員への登用と女性比率を高めないと弱体化していく恐れが高い。

4.「多様性のなかにこそ、真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない」「多様性を真に活かすのが、ネットワークである」

 この考え方は私の信念とするところである。多様性に富む個性を持つ組合員がいてはじめて強力なJAになれるし、いろいろな農村組織も同様である。農民塾も多様な個性がいてはじめて活力をもつものとなる。
 その多様な個性をいかに活かすか? そのネットワーク作りが重要になってくる。個性を殺す画一化路線は必ず失敗に終わる。個性を発揮しネットワーク作りに努力しよう。

5.changeをchanceに/逆風が吹かなければ凧は揚がらない

 農業・農村そして社会経済・地域社会の激変(change)をただ嘆くのではなく、chanceがきたと受け止め、新たな飛躍の路線をつねに考え実践に移すことが重要だ。
 "g"を"c"に変えるという発想で。辞書を開いてみると必ず右頁に"change"があり、左頁に"chance"がある。「右から左へ」という発想で。また、逆風が吹くからこそ凧はよく揚がるのだ。つねに困難のなかで新しい道を切り拓いて進もう。

6.ピンピンコロリ路線の推進を

 いま、農村では人口の高齢化が急速に進んでいる。しかし私は農村の高齢者を「高齢者」とは決して呼ばずに「高齢技能者」と呼んできた。農村の高齢者は単に年齢を重ねてきたのではなく、知恵と技能・技術を頭から足の先までの五体に摺り込ませて生きてきた人たちである。その持てる知恵と技能などを地域おこしに、とりわけ農業生産活動や農産物加工の活動などに活かしてもらいたい。
 高齢技能者は作ったり、加工したりするのは得意で上手だが、売るのは苦手だ。そこでは、とりわけ若い女性、中堅の女性たちの多面的なリーダーシップが高齢技能者の活力を発揮させるためには不可欠である。高齢技能者を老人ホームなどに送り込むのではなく、直売活動、コミュニティ活動など消費者や地域住民との接点を求める活動に参加してもらい、その持てる技能を活かしてもらいたい。それが元気回復の源泉になる。そういう活動を行うなかで、ある日、みんなにたたえられて大往生を遂げていただくようにしてもらいたい。

7.計画責任、実行責任、結果責任

 どういう仕事や事業、経営などを行っても、この三つが基本原則である。「絵に描いた餅は食えない」と昔から言われてきたが、JA関係はじめ農業・農村計画を樹てる分野では、一般的に絵に描いた餅、つまり計画ばかり作り、計画倒れが多すぎたと思う。
 今こそ、この三つの原則、つまり、計画責任、実行責任、結果責任をきちんと実現するような活動スタイルを実現しなくてはならない。とくにJAの役員はこの三つのテーマをいつも胸に抱きつつ、JAの活性化、地域活性化の活動をしてもらいたいと思う。

8.皆さん、全員、名刺を持とう

 日本の農家の方々で名刺を持っている人はほとんどいなかった。他の産業分野と決定的に異なった日本農村の特徴であった。名刺をつくり、持つ必要がなかったからだが、これからは違う。名刺は情報発信の基本であり、原点である。自ら行っている仕事、作物、加工品や活動に誇りをもち、世の中すべてに働きかけるためには、パソコンによる手作りでよい、自らの誇れる生産物、自らの地域の誇れる景観なども取り入れながら、美しい楽しい名刺を作ろうではありませんか。しかし、名刺を作るには、自らの経営や活動の内容が一見して判る肩書きが要る。自らの活動を広く社会に向かって示す内容豊富な、人目を引きつける、そして美しい、楽しい名刺を作ろう。

9.農業の6次産業ネットワークを推進しよう

 1992年に私は全国で初めて「農業の6次産業化の推進」という理論と実践路線を提起した。いまでは、どこの農村へ行っても、どこのJAでもこの路線を多彩な形で実践し、根づいている。例えば私が代表をつとめる「全国農産物直売サミット」は毎年各地で開催し、すでに15回を数え、毎回参加者は北は北海道、南は沖縄から500~700人の多数の参加があり、年々拡がっている。
 この「農業6次産業化」については、もはやここでふれないことにしよう。私の色々の著書、論文でその実情、発展路線について書いてきたのでそれらを参考にしてもらいたい。
 ここでつけ加えておきたいことを2つ述べたい。
 (1)農村には立派な農家住宅が多いが、修学旅行の受け入れや大学生の農村研修受け入れ、食農教育の拠点づくりなどに活かし、新時代にふさわしい多彩なグリーン・ツーリズムの展開を実践してほしい。そのためには、トイレの改修(水洗便所)、洗濯機の改良、シャワーの設置が3点セットで必要となる。
 (2)耕作放棄地が中山間地域で増加するなかで、里山へソーラーシステム・太陽光発電機の導入と合わせて電牧を設置し、放牧牛の「舌刈り」(人手による「下刈り」ではない)による肉用牛生産の維持・拡大、放牧による「景観動物」による豊かな農村景観の創造。放牧先進地に学んでほしい。

10.「所有は有効利用の義務を伴う」「農地は子孫からの預かりものである」

 「所有は有効利用の義務を伴う」この原則は農地改革の基本原則であり、私の信念でもある。戦後72年、それがいま風化しようという時代になってきた。耕作放棄地が激増し農地の有効利用への関心が低下するなかで、改めて、農政指導者ならびに指導機関は「所有は有効利用の義務を伴う」、「農地は子孫からの預かりものである」という基本理念に立ち返り、その旗を高く掲げ、地域農業の活力を取りもどすべく多彩な活動を行う義務がある。農民塾生はその先頭に立とう。

むすび
 「時間軸」と「空間軸」という二つの基本視点をしっかり踏まえて、近未来(5~10年)を正確に射程に捉えつつ一層の活力ある多彩なネットワーク活動を通して、地域農業、農村社会の活性化に全力をあげよう。

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