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JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―

豊かな暮らしの実現めざす【久慈 宗悦JAいわて中央 代表理事組合長】2017年6月12日

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組合員の思いをカタチに
人と組織が一体となって

 岩手県のJAいわて中央は「次世代につなげる〝食農立国〟」をキャッチフレーズに「農・人・自然を大切にし、豊かな暮らしの実現と地域社会の発展に寄与する」ことをめざした運営を行なっている。特に、組合員の思いを実現することを第1に掲げ、組合員目線で、人と組織が一体となって事業を展開している。その考えと取り組みを同JA代表理事組合長の久慈宗悦氏に聞いた。

◆農村リーダーを支援

 ――JAいわて中央は、これまで組合員のアンケート調査を重視し、それをもとに事業計画を立てておられます。その意義はどこにありますか。

久慈 宗悦JAいわて中央 代表理事組合長 個人的な話になりますが、地元の農協に就職が決まり、入組前の約1か月間、農業と農協の実態を知りたいと考え、学生時代のつてを頼って九州・沖縄の農協を回りました。組合長や、あぜ道で農家の人とも話し、そのなかで感じたことですが、組合員農家の思いがなかなか農協につながらず、農協の思いが県・全国の連合会につながっていないのではないかということでした。
 また、人と人、家と家のつながりや、それをまとめる名士の役割など、農村社会のあり方にも関心を持っていました。当時、農村では過疎化が問題になっていました。九州もそうでしたが、岩手県でも過疎化が進み、岩手大学の調査などにも加わって、県内の農村を歩きました。そのなかで、しっかりしたリーダーがいるところは元気で、農家以外の人も含めて、〝地域〟をなんとかしようという意欲があることなど、いろいろ感じるところがありました。
 こうした若いときの経験から、農協の役割は組合員農家の思いを実現するために存在し、また農村で頑張っているリーダーに支援の手を差しのべ、農村を元気にすることにあるのだという思いを強くしました。これは私だけのことではなく、役職員みんながそうした気持ちを持ったことが、「一人ひとりの思いをカタチに」という、JAいわて中央の経営の基本理念につながったのだと思います。

◆まず農家の意向調査

 ――過去には全組合員を対象にアンケート調査されていますが、今回第六次中期計画ではどのように。

 第五次中期計画を平成27年度で総括し、課題を整理して10年後の農協の姿をどう描くかを検討しました。それには農家をひとくくりにするのではなく、個人の家族経営と集落営農組織などの法人を抽出してアンケートを行いました。その結果、法人経営は販売力の強化、個人経営は営農生活指導の充実に力を入れて欲しいという意見に大別されました。
 こうした要望に合わせて、販売に特化した販売対策課、技術・経営指導の指導統括課、それに労働力不足に対応した労力支援センターを新設しました。また営農指導部門に生産資材部門を加え、営農指導と資材の利用が一体的にできるようにするなど、アンケート調査に基づき、できる限り組合員の要望の実現に努めました。
 JAの指導事業には、営農のほかに生活指導があります。10年後のJAの姿について、JAマスターコース修了生を中心としたメンバーで議論を重ね、そのなかで出たのが組合員の暮らしの向上です。JAの新しい経営理念として採用した「農・人・自然を大切にし、豊かな暮らしの実現と、地域社会の発展に貢献します」は、それを反映したものです。営農も大切ですが、組合員一人ひとりがうるおいのある生活を実現することこそが、JAのこれからの大きな任務になるのではないでしょうか。
 JAの事業は部門別に縦割りであっても、組合員からみるとJAはひとつです。営農も信用事業も、また税務も組合員にとっては「生活」の一部です。昨年から8支所すべてに、そうした相談に応じることのできる生活指導員を配置しました。くらしの活動を担う女性部も、その活動は地域によって差があります。これを解消するためにも積極的な提案活動が必要です。指導員には地域の人からの信頼度が高いベテランの生活指導員を配置しました。まだ十分とはいえませんが、今後、充実させていくつもりです。

◆提案活動で意識改革

 ――部門別の縦割りの弊害は分かりますが、改めるには役職員の意識改革が必要です。それにはなにがポイントでしょうか。

 例えばアンケート調査を実施して、JAに求めるものは、個人経営と法人で異なることが分かりましたが、そこで留めておいては駄目です。この結果をどうするか、改革のためになにを提案するか、それを考える職場の環境づくりが必要です。
 常勤監事を加えた常勤役員会議は、ほぼ毎日開いていますが、現場から出た多くの要望や提案をまとめて、提案のあったものには、すぐに回答するようにしています。こうしたスピード感をもった対応が、職場の風土を変えることにつながるのではないでしょうか。ものごとは「10の眼(まなこ)」で見たほうが確かです。一つひとつの課題を常勤役員間で議論を深めることによって、問題意識を共有できると思います。

 ――今のJAでどこに問題があると考えますか。

 第1に職員についてですが、自分自身を磨いて欲しいと日頃から感じています。そのためには、JAとして、いまのうちに人づくりをきちんとしておく必要があります。職員が眠ってしまっては、新しいことに挑戦できません。第2には、JAは自立した組織です。われわれはこのことにもっと自信を持たなければなりません。JAに欠けていることがあれば、世論から大いに助言していただきたいです。しかし、政府が進める農協改革のように、自立した組織であるJAに対し周りがあれこれ口出しするのは疑問です。ただし、JAの組織自体が井の中の蛙であってはいけないと思っています。

◆仕事には問題意識を

 ――具体的に、職員はどのようであってほしいと考えていますか。

 同じことをやっていても、そこに職員自身の当事者の意識があるのと、ないのとでは大きく違います。例えば、業者と販売価格の交渉を行う場合など、単にどれだけ扱ったら、いくらの手数料が入ると計算するのではなく、JAや生産者が生産のためにいくらコストを掛けているか、生産資材の仕入れ値はどうかを常に頭に入れていると、自ずと販売交渉に力が入ります。
 JAの営農指導は単に経営に必要な要素を組み合わせて提案するコーディネーターとは違います。真の営農指導は、作物の生理を理解し、生育のための環境、つまり最適の土壌や肥料について提案したり、状況に合って応用したりする能力が必要です。〝形式基準〟で処置していてはいけません。
法人も小規模経営も

 ――JAいわて中央には、1000haに近い生産組織があるなど、法人や集落営農など生産の組織化で全国に先駆けています。地域の農業の将来はどのようにあるべきだと考えますか。

 高齢化が進み、やがては個人経営の専業農家が少なくなることを背景として、生産の組織化、法人化が進んできました。JAでは、これらの組織との結びつき強化を目指し、「法人協議会」をつくり、組織からの多様なニーズ把握に努めており、必要に応じて出資による支援にも取り組んでいます。
 一方で、都市近郊の農業なので、個人の家族経営も必要です。JAでは野菜の20%をスーパーなどに相対販売しています。例えばズッキーニですが、スーパーからの提案があって、法人の構成員の高齢者のほかに、個人経営でも栽培し、この3、4年で1億円近い売り上げの作目になりました。相対販売には一定の量も必要ですが、作目の多様性も欠かせません。
 また、供給形態に応じた対応も必要です。例えば生産資材の扱いでは、〝1物3価〟で、農家直送、店舗販売、予約の3ケースによって価格を変えています。こうした価格は「生産資材運営検討委員会」で決定し、その内容はすべてオープンにしています。

◇    ◆

 農業を取り巻く状況が刻々と変化する時代において、いまの時代に即した地域の農業を形成していかなければなりません。組合員一人ひとりが時代の潮流を的確に捉えていくことが求められており、そのためには、JAがリーダーシップを発揮して、あらゆる変化に対応していく必要があると感じています。また、子どもたちに農村の原風景を伝えていくこともJAの責務であると思います。グローバル化や都市部への一極集中が進むなかにおいて、ふるさとや地域を大切に思う"心の豊かさ"を次世代につないでいくことこそが我々の使命ではないでしょうか。

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