JAの活動:農業協同組合に生きて―私の農協運動史―
【萬歳 章・前JA全中会長】農が基軸の国 協同組合の力で(下)2017年7月10日
農協は人づくり現場実践大切に
◆「官邸が、官邸が」...
――当時の林農相にはそうした考えを伝えたのですか。
機会があれば要請に行きました。ただその段階で明確な回答はありませんでした。われわれはやはり議院内閣制なのだから国会議員を通じて何とかしてくれという思いを伝える要請をするわけです。農協が分断、解体される状況にあるということは全中理事会でも共有していました。
――一方、全中でも自己改革に向けた審議会を立ち上げて11月には自己改革についての方針を示しました。そのころは農相が西川農相になっていましたね。
いろいろ要請に行きましたが、官邸が、官邸がと言われる。農林大臣がなぜ官邸、官邸というのかと思いました。農林大臣というのはわれわれの立場を考えてくれるのではないかと。官邸が、官邸がと何回言ったかな、と思ったことを記憶しています。
――結局、平成26年(2014)の11月下旬に規制改革会議が方向をまとめますが、最初に提示した内容からほとんど変わっていません。結論ありきで議論が進んでいったということでしょう。
剛速球を投げて、その後、少し緩めるけれども結局は、ということは感じとっていました。そもそも規制改革会議からヒアリングも受けましたが、われわれの意見が議論にほとんど反映されませんでした。
――そして平成27年(2015)の2月9日だったと思いますが、政府からさらに圧力があって最終的に決断されるということだったでしょうが、どのような状況だったのでしょうか。
准組合員の問題については何とか5年間、実態調査をしてそのあり方を考えましょうという、そんな話が政治家からも出てきました。ただ、全中のあり方に関しては農協法に基づく組織でなければだめだというのが私の考えでした。指導や監査はそもそも全国監査機構をつくり、破綻未然防止のための会計監査や業務監査をしているわけでその機能は当然あるべきで、公認会計士監査ではそれはできないということです。
しかし、最終的にはそれも外出しして別法人化するということにせざるを得ないということになりました。つまり、全中を農協法から削除するということです。
われわれは系統性が重要だということです。それが分断されることによって、全国段階と県段階、単協段階がぶつかるようではいけないということです。それからわれわれは総合性の発揮です。金融事業を離すわけにはいかない、日本の農協の基本はこの系統性と総合性が必要なんだということを口酸っぱく主張してきましたが、全中が農協法から削除されることになりました。
農水省も与党国会議員も規制改革会議の意見を尊重するかたちになってくるようでした。やはりそのバックには官邸があるということなのでしょう。
◆何のために農協改革?
――全中廃止は規定路線だということだったわけですね。
そういう流れでしたね。選挙で選ばれた国会議員ではなく民間人の委員から出された意見を尊重するのはいかがなものかと思いました。
しかし、2月12日が国会開会日で、安倍首相の所信表明に入れ込むため、それまでに農協改革を決めたいということだったと思います。施政方針演説の原稿を作り初めているというような話でした。准組合員利用規制についてはやるならやってみろ、という気持ちまであったんです。それはできないはずですから。しかし、期限を切られて早く検討しろということになって重大な判断をせざるを得ない、となって、全中理事会で話し自民党本部に行って、こうなればそうせざるを得ないということを話した。2月9日のことです。
そこでは准組合員の利用制限問題がまたむっくりと起きあがってきては大変で、やっぱり全中の問題にバックせざるを得ないという感じも持ちました。
農協改革をめぐっては農家所得の倍増のためということも政府はいい始めました。しかし、改革が所得倍増にどうつながるのか、関連するのか、納得のいく説明はありませんでした。
――その後、国会が始まり4月に全中会長辞意を表明されました。
3月末に農協法改正案が閣議決定され、これはもう決まったな、と。全中は農協法からはずされ一般社団法人となるというのはとんでもない話だが、私の力の及ばないことだと思いました。
――辞意はどなたかと相談してということでしたか。
誰にも相談していません。重大な決断をしたということになる、という思いでした。全中が協同組合の立場からはずれるということですが、なぜ一社にならなければならないのか、自分自身情けなさも感じましたが、自分の立場はここでひとつ区切りをつけるべきだというのが私の思いでした。
農協人としては農協は大切だ、協同組合は今の社会で評価されるべきだと思いましたし、今まで結構、政治とはうまくやってきたのが、突然、足がすくわれたような感じもしないわけでもなかったです。
◆協同組合人は"国益"
――今振り返ってみてどう思われますか。
私も反省しますが協同組合に対して理解してもらう努力が足りなかったのかと思います。株式会社と協同組合との違いということだけではなくして、現場の実践の段階も含めて職員がまずその協同組合の理念を知らないといけないし、当然、組合員もきちんと解ってほしい。しかし、いかんせん政府の成長戦略のなかで農業所得倍増などどんどん流れが作られてしまい、協同組合は成長しないのかと言われるようなこともありました。
――これからの農協運動についてどう思われますか。
協同組合は人づくりが大切だという思いはします。協同組合の理念なり考え方をみなさんに理解いただくよう最大限の努力をすべきだと思います。新しい全中もきちんと系統性を持った会員組織として出発してくれればと思います。
協同組合は人の連帯ですから、准組合員問題も私がよく言ってきたのは、准組合員は協同組合をよく知った同志だ、ということです。同じ志を持っている、理念を共有する同志だという思いです。 地方が疲弊し、地方創生が必要だといっています。しかし、市場経済のなかで勝者と敗者の格差が拡大しています。そういう状況のなかであるべき姿として、助け合いというものがある。人間的なつながりある組織としてあるべきだと思います
これもよく言ってきたことですが、農は国の基だということです。農業があって食料があって、それで命が守られて初めて国づくりができるんだということです。食料自給率も100%とは言いませんが、日本の資源を最大に使って自給率を上げるべきだし、それが貿易交渉でも交渉力になると思います。
多面的機能を発揮した農を基軸にした国づくりを協同組合のなかで考えていくべきで、そのことが理解されるには現場の実践活動が大事で、それが人づくりなんです。これが日本の国益に値すると私は思います。そこはぶれないようにして取り組んでいくべきだと思います。
【インタビューを終えて】
萬歳章氏は、全中会長時の4年間の中でも2014年5月以降から農協法改正案が国会に上程された翌年の3月までの大転換期に、政府が官邸主導で"民間組織の農協グループ"に、「准組合員の利用規制」と「中央会の監査権限の廃止等」のいずれか1つの受け入れを迫るなど不公正な分断と介入圧力の実態を語られた。
現在も続く介入圧力の危機を"チャンス"に切り替えるためには、萬歳前会長の座右の銘である"農は国の基"を前面に正准組合員と役職員が同志であると深く自覚した顔の見える単位農協改革を主軸に、全国組織が効果的に支援し、結集した新農協運動を本格的に盛り上げる必要がある。(白石)
(写真)白石 正彦東京農大名誉教授
(この記事の前半は下記リンクより)
【萬歳 章・前JA全中会長】農が基軸の国 協同組合の力で(上)
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