JAの活動:農業協同組合に生きて―私の農協運動史―
【村上光雄・JA三次前組合長】JAの将来は「人づくり」に2017年7月18日
まず働きやすい職場づくり
組合員の声聞く仕組みを
信頼に基づいた人と人のつながりを基本とする協同組合は「人の組織」と言われる。社会の変化で、組織の事業や仕組みが変わってもこれは不変である。協同組合人をどう育てるか。JAの組合長、県中央会の会長、JA全中の副会長等を歴任し、農協運動に邁進された広島県のJA三次・前組合長の村上光雄氏に「人が育てる」JAのあり方について聞いた。
◆労組の意見大切に
――協同組合は人の組織といわれます。JAの「人づくり」をどう考えますか。
JAの人づくりが成功するかどうかはトップの考え次第です。農協の職員は組合員との接点です。人づくりは経営上の重要な課題だと位置づけ、ちゃんとやらなければいけません。このことは組合長になった時から意識し、職員が生き生きと仕事ができる農協・職場づくりに努めてきました。
平成3年、7農協が合併する前は、よい新卒が集まらず、途中で辞める職員も多く、ちゃんとした農協にしないと将来がないとの認識を持ち、7人の組合長で危機感を共有しました。それには、待遇をよくして将来とも安心して働けるように、経営基盤を確立しなければなりません。これは7人の組合長の暗黙の了解事項でした。
その後合併して経営を立て直し、職場環境の改善に努めた結果、新卒の応募者が増え、定着率もよくなりました。こうした人づくりのポイントは、第一に職員が何を考えているか、どういう思いで仕事をしているかをよく知ることです。
その意味では、労働組合の意見も積極的に聞きました。JA三次の労組は毎年、職員のアンケート調査を行なっていますが、その中で、これからも農協で働きたいか、職場は働きやすいか、時間外労働はちゃんと評価されているかなどについて聞いていますが、その結果はなかなか厳しいものでした。
時間外労賃を支払っていないなどというのは論外で、農協はブラック企業と言われかねません。農協の職員は運動者である前に労働者であると、私は考えています。職員がちゃんと仕事ができるように、近代的な雇用関係を確立することが重要です。得てして農協のトップは、協同組合は運動体で職員は運動者だからサービス精神が大事だと精神論をかざしますが、無償のサービスをしなさいということではないはずです。職員は一人ひとり家族を持ち、その生活が成り立つようにしなければいけません。
職員が喜んで、楽しく仕事ができるようにする。これはトップの責務です。それには職員が何を考え、何をしようとしているのかを知らなければならず、労組のアンケートには職員の本当のところが出てきます。労働組合との団体交渉もそうしたことを知るよい機会です。
また決算期には労組から数字の説明や新年度事業計画の説明を求められ、春闘でも要求されます。それは当然ながら受け入れ、随時、職員懇談会を開いています。
(写真)村上光雄・JA三次前組合長
――そうしたトップの姿勢が大事なのですね。労組の意見を入れて変わったことはありますか。
具体例を挙げますと、労組から、しんどいのでノルマ推進をやめてほしいという意見が出て、電気製品の推進をやめました。ただしその分、本来の事業で成果を上げるよう求めました。推進を止めて組合員から不満が出ることもなく、また販売しても、農協では修理などのアフターフォローができず組合員にも迷惑をかけるので労組の提案を受け入れました。労組と共に、職員や組合員のためにどうかという視点で考える。これがあるべき労使関係ではないでしょうか。
◆「人」が育つ職場を
――JAは協同組合です。協同の理念はどのように育てますか。
それは農協の教育文化活動であり、職員教育で行なうことです。農協の職員がミスしても「農協の職員ならしょうがない」と、公務員や会社の社員より一段下に見られることが、組合長としては一番つらいことです。
普段、勉強させていないからそう言われるのです。職員は力を持っているのですが、それを出し切れていないのです。だから、若いうちに必要な資格をとるよう促し、勉強するのだという職場風土をつくることが大事です。言うだけでなく、具体的にそうした機会をつくることです。
農協の職員として必要なことはサービス、スペシャリスト、スピードの「3S」だと、常に言ってきました。特に協同組合である農協は最高のサービスが求められます。しかし昔と違い、今の組合員はさまざまな知識を持っており、要求もハイレベルになっています。それに応えるには、自分の分野に関して特に専門的な知識を持っていなければいけません。それには勉強が必要です。それとスピード。同じことをやっても早くやらないと効果がありません。遅れることで苦情が出ることにもなります。
農協は、民間の企業に比べて、この3つが欠けていたように思いますが、やはり専門性とスピードに問題があると思います。特に新しい事業など、トップが「リーダーシップ」を発揮して決断し、速やかに実現することです。また実際に仕事をする職員は自分で考える能力が求められます。一から十まで指示待ちでは困ります。自分の権限を理解し、その責務を果たしてもらわなければなりません。
◆「聞き上手」であれ
――それには、職員はどのような心がけが必要でしょうか。
農協はサービス業です。職員にはコミュニケーション力が求められます。それにはよく聞くこと、「聞き上手」になるべきです。やかましくいう人も、始めからちゃんと話を聞いてあげると満足してくれるものです。
それには余裕が必要ですが、そこが農協ならではの対応ではないでしょうか。人はみんな尊厳を持っています。いい加減に扱われ、ばかにされたと思ったら、本当のコミュニケーションにはなりません。苦情を言う人でも、人間として認め話を聞くこと。それが組合員を大切にすることでもあるのです。組合員からの苦情は、ささいなことでも全部報告するようにしました。現場で対応できることと、組合長が出向かなければならないことを判断し、速やかに処理すること、それができる体制をつくることが重要です。
それに仕事をする上では、役職員が共通の認識を持つことが大切です。例えば、新年の互礼会。職員全員を集めて1時間半ほど私が話しました。全員が参加しないと意味がないので、午前と午後の2回、その年の農協の事業方針、組合長としての考えを話します。話を聞かないと仕事に差し障りがあるので、パートも臨時職員も参加します。
組合員にとってはパートも臨時職員も農協の職員です。部課長を通じたり、文書で伝えたりするのでなく、共通の認識を持つには、直接目の前で聞くことの意味が大きいと思います。また年1回、やはり全職員参加の教育文化セミナーを開いています。「職員は組合長と同じことを言う」という声も聞かれましたが、よしあしはともかく、それが組合員の農協に対する信頼につながっているのだと思います。
◆「当たり前」を疑う
――次の世代に言っておきたいことがありますか。
農協人は謙虚でなくてはいけません。職員の話をよく聞くことも大事ですが、農協は組合員がつくったものです。組合員に教えてもらうという姿勢が大切です。傲慢であってはいけないと思います。
農協改革で、政府の言うことは押しつけであり、企業ベースの改革方向です。やはり農協組織は自己改革が大前提で、外からとやかく言われることは恥ずべきことだと思います。自主的に改革に挑戦すべきです。その意味で改革は、これまで当たり前だと思っていたことを一度疑ってみるようにしたいですね。全農改革で問題になっている買取販売もそうですが、これまで続いているから、委託販売が当たり前だと考えがちですが、世間は必ずしもそうではありません。組合員は少しでも高く、それもすぐ現金がほしいと思っていることは、普段から組合員の声を聞いていれば分かるはずです。
共同購買も同じです。本当に組合員のための購買になっているのか、いま一度、組合員の声をしっかり聞いて考えるべきです。すべて全農任せでは、農協も職員も努力せず、成長しません。残念ながら、そうした組合員が何を求めているのか、そのニーズがよくつかめていないのが、農協の現実ではないでしょうか。組合員のニーズの変化をつかむ努力を疎かにしてきたのが今日の状況であり、JA改革で組合員の声をアンケート調査すると言っていますが、毎日、接していて分からないのかと言いたいところです。
組合長を退任して思うことは、農協はすばらしい組織だということです。組合長をやらせてもらって、実に楽しかったです。組合員に助けてもらって、夢を実現できるのが農協で、最高の組織です。
――ありがとうございます。これからも農協運動のご意見番として、われわれ後輩の指導をお願いします。
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