JAの活動:農業協同組合に生きて―私の農協運動史―
【野口嘉徳・茨城県JAしおさい前組合長】生産者部会とJAが一体で ピーマンで85億円2017年9月27日
営農経済軸に経営安定
茨城県のJAしおさいはピーマンの販売高85憶円という、全国でも珍しい経済事業の比重の大きいJAである。昨年6月まで常務・組合長として12年、産地づくりとJA経営にまい進してきた野口嘉徳・前代表理事組合長に聞いた。
◆監事で不良債権処理
――農協との関わりについて教えてください。
平成10年に監事に就任し、これを3年努めた後、常務を3年務めました。このなかで特によかったと思うのは監事の経験で、経営の内容を詳しく知ることができました。それまで米を中心とした兼業農家として勤めていた建設会社の部長として経営のノウハウを身につけてきましたが、その経験から農協の一員として参画することになりました。
当時、農協は重要書類等の押印もれも多く、またずさんな貸し付けで不良債権が累積し、農協経営を圧迫する状態でした。監事の役目としてこの問題を解決すべく、役員と話し合い、債権回収センター職員の増強を図りました。
監事を2期努めて任期が終わるころ、次は常務をやるようにとすすめられました。監事として不良債権を追及したので、投げっぱなしは無責任だと思い引き受けました。それも常務としては、あまり例のない代表権付きでした。
常務になって不良債権の回収に努めましたが、ちょうどリーマンショックで金融機関の経営が悪化し、債権回収管理機構ができたころで、不良債権を買ってもらいました。一時は理事会で管理機構に売却している土地が値上がりしたらどうするのかとの批判もありましたが、いまだに土地の値上がりはありません。運がよかったと思いますが、それから農協の経営は急速によくなりました。それを契機に、農協とは何かについて考えました。
農協にとって、信用・共済事業に力を入れることは大切です。しかし、農協の本来の役割は営農・経済事業を中心に健全に経営できるようにすることではないでしょうか。農水省の役人から、金融情勢が厳しくなる中で「金融は素人の農協がやることではない」といわれ、びっくりしたことがありますが、いつかはそういうことを指摘されるときが来るのではないかと、農協の経営に関わるようになってから常に思っていました。やはり農業生産を中心とした本来の姿に戻るべきだと考えていたとき出てきたのがピーマンの産地づくりです。
(写真)野口嘉徳・JAしおさい前組合長(茨城県)
◆ピーマン販売85億円
――なぜピーマンだったのですか。
もともとピーマンは栽培されていましたが、利根川河口にあり。太平洋に面する管内は、関東地方のなかでは温暖で冬季の生産に適しています。農地は連作障害を受けにくい砂地で、卸売市場からの提案もあって農協の柱にすることにしました。平成28年度のJAの販売実績は約85億円になりました。野菜の単一品目でこの販売額は全国のJAでも例がないと思います。
ただ、東京電力の福島第1原発事故による風評被害は大変でした。その影響の残る平成24年度の販売高は22年度を20憶円近く下回り、約66憶円でした。ピーマンはビニールハウスで施設栽培なので放射性物質の影響は受けないことや、検査して安全なものしか出荷しないことなどを訴え、また市場関係者ほ場まで案内し、安全を現地確認してもらいました。
農協では行政の協力も得て、徹底してトップセールスを行い、また女性部・青年部等の協力のもと積極的に消費宣伝しました。また安全・安心・安定供給によって、市場・仲卸・量販店等の実需者との結びつきを深めてきましたが、特に長年つき合いのある全農の協力は大きかったと思っています。
しかし、何といってもこれだけのピーマン産地になった原動力は生産者の力です。特に指導力のあるピーマン部会長がおり、全員の単収のアップを実現し、最新の自動選別機を備えた出荷場の建設などを農協に働きかけました。特に選別作業が省力化できたことで、浮いた労働力をほ場管理に回すことができ、収量アップにつなげることができました。
集荷場を建設したのは組合長になって3年目のことですが、そうした経験から、産地づくりに必要なことは、第1に生産者の意欲、第2に指導力のあるリーダーの存在、第3に農協の販売力ではないかと思います。特に農協は必要以上に出しゃばらず、生産者が自主的に取り組む雰囲気をつくることが大事だと思います。
◆販売実績が結集力に
――最近、JAの生産者組織である部会が共販を強制し、独占禁止法に抵触するとして問題になっていますが。
消費地に近いということもあって、量販店などに販売する生産者もいますが、そのほとんどが、また農協に戻っています。なによりも小さなスーパーなどでは、代金決算のサイトが長く、場合によっては代金のとりはぐれも珍しくありません。その点、農協の共販はすぐ現金が入るので利用されているのです。まして共販を強制するというようなことは絶対にありません。
茨城県全体の共販率は、ほかの県に比べて決して高くはありません。独禁法のいう「排除」とは金も貸さない、出荷もさせないということであって、現実にはそのようなことはありません。栽培指導を受けて収量をあげることで収入がふえるから、使ってくれといわなくても、組合員は農協を利用しているのです。
かつて10万袋米の取り扱いが2万袋にまで落ち込んだことがあります。これではいかんということで、学校給食に狙いをつけました。地元の鹿島市に申し入れ、使用する肥料や農薬、栽培飼養方法、さらには生産者も分かる地元の米を使うよう働きかけ、学校給食に使う全量をおさめるようになりました。これを神栖市にも申し入れ、現在、合わせて約6000袋の特別栽培米を供給しています。米生産部会員の協力があるからできるわけです。こうした取り組みが生産者の農協に対する信頼につながり、強制などでなく、自然に部会や農協への結集力につながっているのだと思っています。
――JAしおさいは農業生産を軸とするJAですが、准組合員の役割はどう考えますか。
この数年、准組合員は増えていません。確かに信用・共済事業の利用者が多く、農協は助けられている面もあります。農協運動としては、当然のことですが、生活とくらしを守る信用・共済も大事です。これは同じ地域に住む正組合員も准組合員も同じです。そもそも現場では政府がいうような正・准の区別があるとは思っていません。
それに営農経済事業に力をいれていないと、政府は農協を批判していますが、どこの農協も、安全で安心できる農産物を供給し、消費者の信頼を得るための企業努力をしています。
◆単作のリスク回避を
――地域の農業の将来をどう考えますか。
地域の農業の将来ということでは、あまりにもピーマンに偏っていることが心配です。連作障害、また病害に遭ったり、気象異変に襲われたりしてピーマンがこけると、地域の農業や経済が大きな影響を受けます。一つの産地、それを支える農協の営農経済事業は1日でできるものではありません。この成功体験があって、意識の切り替えは、なかなか難しいのですが、ピーマン以外の作物も導入し、野菜全体で100億円以上販売できる体制をつくる必要があるのではいかと考えています。
また農地維持の問題もあります。いま、土地改良区の理事長の仕事をしていますが、平地という条件に恵まれているにもかかわらず、生産者が高齢化し、後継者不足などで、その半分近くが休耕地になっています。改良区はすべて調整区域になっているので県単事業でしか土地改良ができず、ほとんどが20a区画です。
これを農振区域に変更して、50~60aに区画整備すれば、大型機械による経営が可能で、担い手も確保できるのではないでしょうか。そして最後は農協が責任をもって、自ら担い手となり、農地の受け皿になることができないかと期待しているところです。
農地は国民の食料確保だけでなく、その貯水機能で洪水を防ぎ、国土の維持に大きな役割を果たしています。農協は農地を守るのも国防だと考え、農業と農地の重要性を国民に広く訴えていく必要があります。最近は、そのことを政府もJAグループも言わなくなったのはどうしたことでしょうか。
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