JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第39回 都市農業を支え、発展させる農産物直売所という拠点を作ろう ―柏市(千葉県)の農産物直売所「かしわで」の活動と実践に学ぶ―2017年12月17日
私の住んでいる柏市は千葉県の北西部にあり、近年、秋葉原~つくば市を結ぶつくばエクスプレスが開通したこともあり、東京の近郊都市として人口が急激に増えつつあるし、農地転用も厳しい規制の中でも増え、都市化が進んできている。そういうなかで「かしわで」の活動がいま注目を浴びている。
1.Challenge! at your own risk
いまからたしか18年まえになるが、JA田中(現在はJAいちかわに合併)の若い青年組合員たちが私宅を訪ねてきて「農協青年部の若い者たちで、先生がいま全国ですすめている農民塾を興し勉強をしたいのですが、塾長になってくれませんか」といってきた。もちろん、二つ返事で引き受けた。まず、塾の名称をどうするかけんけんがくがく議論をして"ゆうき塾"と命名することになった。「勇気」と「有機」(農業)を掛け合わせたものである。
さて、講義と討論は色々と行ったがいま想い出すのは3本の柱である。
その第1は"Challenge! At your own risk"でこれは「全力をあげて新しい課題に挑戦せよ!そして挑戦し実践した結果には自己責任の原則を徹底し、全うせよ!」ということであった。
第2は「食と農の距離を縮めるために農業の6次産業化に全力をあげて取り組め」ということであった。その6年前に大分大山町農協の"木の花ガルテン"の詳細な調査の中から私が発見し命名した「1次産業×2次産業×3次農業=6次産業」の理論を塾生の皆さんの実践活動を通してこの柏市で実現してほしいという提案であった。
第3は、新しい事業や活動を興すにあたっては、「決して安易に農水省の補助金に頼らずに自らの力で切り拓き自らの描いた自由な構想に充ちた路線を開花させて欲しい。補助金に頼ると規制や介入が多く独創性や個性を失ってしまうから補助金に頼らずに」と強調したことなどを記憶している。そのことをつい先日、塾生だった皆さんに聞いてみたら、この3つは今も胸にしまって実践していると言っていた。
2."かしわで"の発足
こうした"ゆうき塾"の塾生たちが『農産物直売所 かしわで』を平成16年5月9日に開設した。「かしわで」の名称の由来は「柏で生産された新鮮な農産物を選んで、食卓にのせてもらいたい」と願う生産者の気持ちと「柏で採れたての食材をリーズナブルな値段で揃えてもらいたい」と望む消費者の気持とを、両の手のひらになぞらえて命名したということである。もちろん、神社での拝礼の「拍手」の意も込められている。
その開設のための資本金は、塾生たちの中の14名が自ら出資し、それを基本としてJA田中(JA市川)の出資と政策金融公庫の低利融資などを加えて株式会社アグリプラスを平成15年6月6日に設立した。従業員は現状では6名、パート従業員は現在66名。
3.運営の理念
これは大きく4本の柱を掲げている。
(1)物の売り買いの場としてだけでなく、農業に関する情報の受発信基地として、広く市民に利用され、生産者と消費者が農業を通して互いに交流を深めることをめざす。
(2)消費者の利益(安全、安心、安価、豊富、楽しい)を第1に考え、消費者に満足してもらうことを目標とする。
(3)地元で生産した農産物を地元で消費する「地産地消」の事業展開を図り、消費者に農業に対する理解を深めてもらうとともに、都市化の中で共生できる農業をめざす。
(4)生産地であるとともに消費地でもあるメリットを活かし、都市型農業を展開することにより、農家所得の向上を図り地域農業の活性化をめざす。
4.事業の内容
要点のみ記しておけば次の通りである。
(1)農業者が生産した農産物及び農産加工品を直接店舗に搬入して自ら価格を設定し、店舗側が農業者から委託を受けてこれらの農産物を消費者に販売する。販売手数料は15%、加工品は20%、取扱品目は現在約120品目。生産者数は現在230名。
(2)価格設定にあたっては、店側が市場価格等をもとに価格帯(上限及び下限)を設定し、その範囲内で生産者自身が自らの判断と責任で価格を設定する。
(3)季節的に地元で揃えられない農産物等は、全国の生産者、直売所などと連携を深めてきており、産地・生産者限定で直接仕入れる等の工夫、実践を重ね品揃えの充実を図っている。なお、現在も私が代表をつとめている「全国農産物直売ネットワーク」を通じて、多くの信頼できる友人ができているとのことである。
5.発展経過の概要
平成12年12月 ゆうき塾生中心に農家特に次代を担う青年たちが集まり事業を発起
平成15年6月 有限会社アグリプラス("かしわで"の母体)設立
平成16年2月 株式会社に組織変更
同 5月 「かしわで」オープン
平成19年4月 来客数 延べ100万人達成
平成21年6月 来客数 延べ200万人達成
平成23年3月 東日本大震災の発生とその後の原発事故、放射能にかかわる風評被害拡大などで一時的に事業縮小
平成23年9月 来客数 延べ300万人達成―放射能被害を乗り越えて
平成24年3月 「かしわで」安全・安心委員会立ち上げ、風評被害等の克服へ
平成28年6月 農家レストラン「さんち家」を直売所に隣接してオープン
6.農家レストラン「さんち家」
直売所だけでは物足りないので、「地産地消」をねらいとしたレストランを作りたいという相談を、かしわでのリーダーの染谷茂さんから私は受けて次のように答えた。
(1)「地産地食」を徹底すること
(2)木と瓦のぬくもりある建物で平屋造りで老人にも楽に入れるバリアフリーの建物にする
(3)全国各地のすぐれた農家レストラン、ならびに直売所併設のレストランを綿密に調査してそのすぐれた長所を活かすこと。私は「全国農産物直売ネットワーク」の会長もしているのですぐれたレストランを紹介しよう。
こうして、全国各地の調査なども踏まえて構想を練り上げ農家レストラン「さんち家」が直売所かしわでに隣接して、昨年6月に開業した。
そこで「さんち家」(さんちや)の「こだわり」を紹介しておこう。
〈1〉毎朝、生産者自らが届けてくれるこだわりの採れたて新鮮野菜を調理すなわち「地産馳走」
〈2〉野菜を知りつくした地元農家の"主婦がシェフに、そして語り部に"
〈3〉野菜本来の美味しさを引き出し活かすこだわりの出汁を使った料理
〈4〉敢えて肉や魚を使わず、100種類以上の穀物と野菜のみを使った50品目以上の料理が並ぶビュッフェスタイル
〈5〉地元の古民家をイメージした空間で家族を迎えるような温もりと賑わいのあるもてなし
〈6〉かしわでの"伝えたい"こと、消費者の"知りたい"ことをつなぐ楽しい交流の場
この「さんち家」の名称は、地元柏市民から募った200点を越える候補の中から選定したという。地元産の「産地(さんち)」と生産者の顔がみえる「○○さん家(さんち)」を表現し個性豊かな新鮮野菜が楽しめるレストランを目指しており、私もたびたび孫たちを連れていっているが、いつもお客で一杯、とりわけ女性と老人、子供が多いような感想を持っている。
7.多彩な農業体験の場を作る
このほかに、"かしわで"の活動の注目すべきことは多彩な農業体験の場を設けて市民とりわけ次代を担う小・中学生をはじめとする青少年たちに教育の場を設けていることである。
春は、田植え、さつまいもやじゃがいもの植付け、夏は、じゃがいも堀りや夏祭り「夕涼み」の場、秋は稲刈り、米の収穫作業、さつまいも掘り、そして収穫祭、冬は「かしわでの日」というイベント、というように1年を通して学びかつ楽しめる場を設けている。
こういう多彩な活動を通して、柏市民との交流と合せて、生産者・農民の激励も行っている。柏の特産品は全国にその名の知られた「かしわの小カブ」であるが、以上のような多彩な活動を通して生産者と消費者をつなぎ、都市農業再生の原動力になっている。
【後記】
参考のために「かしわで」ならびに「さんち家」の所在地、連絡先などを略記しておこう。
○住所:〒277-0861 千葉県柏市高田100
○TEL:04-7141-6755
○FAX:04-7141-6711
○(株)アグリプラス 代表(社長)染谷 茂、(総支配人)海老原康夫
○定休日:水曜日(祝日は通常営業)
○営業時間:
直売所「かしわで」9:00~18:00
農家レストラン「さんち家」ビュッフェスタイル(60分)11:00~15:00
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