JAの活動:緊急連載-守られるのか? 農業と地域‐1県1JA構想
ガバナンスと地区本部間連携の課題-JAしまね(2)2017年12月29日
◆ガバナンスの確立が課題
新農協は、総務・人事・管理系統、信用・共済の共通事務といったバックヤード機能は本店集約とし、事業推進は地区本部が担う。この体制では本店と地区本部の関係調整というガバナンスが要諦になる。
まず新JAは理事会制をとった。経営管理委員会方式についても検討したが、メリットがよく分からない、採用して止めた事例もある、理事会方式の方が分かりやすいということで、合併後も検討はしていない。2001年法改正時と異なり行政側の指導もなかったのだろう。
理事会は定数65で、内訳は組合長・副組合長、本店常勤6名、正副地区本部長25名、非常勤32名である。本店常勤の出自は中央会1、全農県本部2、共済連1、JAいずも1、地銀出身1である。また非常勤は隠岐の2本部を除く各地区本部から2~9名、本店に女性・青年枠3名である。なお本店部長職16名の出自は連合会等と単協が半々である。
現状では県連・業界出身の本店常勤6名を59名の組織代表が取り巻く布陣である。とくに地区の正副本部長は旧農協エリア代表という性格をもつ。その意味では統合は「単協内連合会化」ともいえる。統合メリットを発揮するために本店のガバナンス機能をどう確立するのかが実践上の課題になる。
◆県連はどうなったか
信連は合併から半年後に包括承継した。余裕金の一本化効果が大きい。信連職員の多くは本店に移ったが、一部は地区本部や総務・管理部門に移っている。統合JAにあっては前述のように一定額以下の貸付は地区本部が行うが、2億円以上の貸付審査、有価証券を含む運用は本店で行う。
全農については、県本部は廃し、営農・販売・生産資材購買の一部など県域機能は単協に移し、肥料農薬規格、広域物流、Aコープ、組織購買等の全国・中四国規模で広域展開しているものは全農に残している。全農から統合JAに70名程度が出向しており、今後、意向確認の上で移籍が進められる。販売手数料は2%とし、その内数として全農の取り分を物流費に上乗せしている。
全共連については準備金積立義務や全国統一の事業方式を踏まえ県本部は存置し、普及や損害調査について調整中である
厚生連は医療機関としての法人税の特例を受けることから存置した。
中央会は、監査と代表調整機能は残し、営農、地域振興、教育の機能、農政・広報の一部機能はJAに移した。10名程度にスリム化し、今後のあり方については他の3つの1県1JAとも話し合っている。
◆支店や職員の扱い
合併契約書で「新組合の設立による支店・事業所等の統廃合は予定しない」としている。統合前に支店統廃合はほぼ目標を達成しており、当面の必要はないことを「組合員にも明確に伝えてきた」が、低・マイナス金利など環境変化が著しいなかで、将来的にはそれへの対応を求められることになろう。
職員については、「在職する職員は原則として新JAに引き継ぎます」としており、実際にも合併に伴う減はなかったとしている。給与については旧JA、県連間に差があるが、4~5年かけて統一することとし、一般職員についてはA、B、Cのランクをつけ、Aに近づけるようにする。管理職については役割給を新たに設ける。管理職の地区本部間異動は今のところないが、将来的にはありうる。労働時間については土曜日の出勤日数に差があるが、地域住民に浸透しているので一挙には統一せず、1,835時間から1,943時間の差がある。
職員の採用方法は変った。2016年までは地区本部ごとに行っていたが、2018年度採用については新たに県域枠を設け、60名採用のうち20名は県域、40名を地区本部で採用している。新規採用研修については既に合併前から3カ月の合宿形式の連合研修会方式で行っている。通常は2週間程度であり、地区本部からは長すぎるとの不満もでているが、大切なことだろう。
◆地区本部主体の営農指導体制
JAしまねの販売額は383億円(2016年度)、畜産物45%、米25%、野菜10%、果実7%、産直8%(2015年度)などバラエティに富む。地区本部別にも、畜産主体が隠岐どうぜん・石見銀山・西いわみ、米主体が斐川・島根おおち、畜産と米がいわみ中央・雲南・やすぎ、隠岐、出雲は後述のように畜産・果実・米、くにびきは米と産直と分かれる。
このようななかで、地区本部が営農・販売の主体に位置づけられる。
例えば、営農指導員は全部で160名、営農渉外員(TAC)は25名だが、後者については本店の県域担当は4名、また本店には営農指導員3名も張り付くが、両者とも統括や研修が主で、その他は全て旧JA時代のTACや営農指導員がそのまま地区本部に配置されている。
出雲地区本部を例にとると、その販売額は82億円、農産(コメなど)19%、果樹野菜などの特産46%、生乳・肉牛などの畜産35%の構成である。水稲については集落営農組織等への集積が加速しており、ブドウは単品で18%を占め、ブロッコリー、青ネギ、アスパラ、菌床しいたけ、直販野菜も盛んである。
機構的には、営農部の下に6課1室が置かれ、総合指導課に営農指導員とTACが各5名、畜産課に営農指導員5名が張り付く。また2008年につくられた5ブロックごとの営農センターが集荷所・選果場・ライスセンター等を管理しているが、そこに各3~7名計20名の、幅広く相談に乗る営農相談員を配置している。営農指導員が地区本部に張り付くか営農センターに張り付くかは地区本部によりけりで、機構までは一緒にならないという。
JA主導型農業法人推進室には農家経営指導員1名が置かれ、関連して耕作放棄地対策から始まった子会社・JAいずもアグリ開発が農産部の生産・出荷を行っている。また出雲市農業支援センターに営農企画課から2名、市から6名が出向し、集落営農の立上げや新規就農対策を担っている。市の農業再生協議会の下の水田農業振興部会ではJAが米生産調整の原案作りを担当している。このように行政対応も地区本部の責任になる。
農産物販売の分荷権は、メロンとブドウについては本店の園芸課がもつが、その他は地区本部がもち、出雲では販売開発課が担当する。箱には「出雲」の産地名と生産者名が入る。
また2016年産米から全量買取制を開始したが、これは本店米穀課が行う。米については1.90㎜ふるい目使用に統一し品質アップを図っている。今のところプラス500~1000円で販売できているが、農家の反応もいろいろであり、リスクにはなお不透明感があるようである。全県一本化は米がもっとも進み、次いで果実野菜、畜産は地域色が強い。
◆地区本部間の連携
このように地区本部の力が強いと統合はどんな意味をもつのだろうか。
まず合併効果として、初年度に、どの地区本部からも応募できる農業振興支援事業4億円、しまね農業生き生きプラン1.5億円を措置した。前者では、園芸推進5品目(加工用キャベツ・たまねぎ、ミニトマト、白ネギ、アスパラガス)の支援拡大、しまね和牛増頭支援、島根デラウェア(ぶとう)改植をメニュー化し、新規就農者の基盤整備、担い手農家の複合化、機械の更新、園芸リースハウス、畜産モデル事業の実施等を行った。後者では組合員も交えた各地区本部からの提案制度とした(例えばやすぎ地区本部で産直のための加工施設建設)。
全県的な位置づけとしては、キャトルセンターの第一号である雲南畜産総合センターの建設に取り組み、リスクをJAしまね7、地区本部3で負担することにした。全県のモデル事業と言う位置づけである。
地区本部間連携としては、a.出雲と斐川...飼料用米とつや姫の乾燥調製施設の相互利用、「出雲だんだん青ネギ」の統一ブランドでの共同出荷体制と販売代金共計、b.「あんぽ柿」の製造ラインを出雲といわみ中央に設置し、東西それぞれの地区本部が共同利用し、県統一規格で販売、c.石見銀山と島根おおち...国県事業を活用し母牛・子牛の預かり牛舎を整備して共同利用(さらに県央畜産センターの設置へ)、d.飼料用米倉庫の共同利用などがあげられる。
地域間連携は、独立したJA間のそれとしてもできないわけではないが、1県1JA化による地区本部間の連携として現実化したといえる。
◆これからの課題ー公認会計士監査対応
旧JAの地区本部化とそこへの業績還元が島根県における合併の鍵だった。JAしまねの総代会資料は280頁と分厚い。事業報告でも事業計画でも県域共通とともに地区本部のそれが記載されるからである。それほど地区本部は重要であり、組合員重視でもある。
しかし、このような事業面を含む地区本部制は、このシリーズで先に紹介した香川県でも沖縄県でも早い時期に解消された。島根県の場合、救済合併等でなく、あくまで「足元の明るいうち合併」であり、地区本部制はその代償ともいえるので、そう簡単にはいかない。
他方で公認会計士監査への移行が近づくなかで、このように自立性の高い事業上の地区本部がどのように扱われるのか、地区本部別監査ということで徒に費用を嵩ませることにならないか、懸念も残る。ガバナンスは1県1JAにとって依然としてアポリアであり、それが時間との戦いになっている。
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