JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第43回 「JA人づくり研究会」第28回研究会の報告に学ぶ2018年1月27日
前回に引き続いて「JA人づくり研究会」第28回研究会の第2報告、JAぎふ常務理事、岩佐哲司氏の「都市近郊農業地帯のJAからの報告」ならびに第3報告、JA梨北常務理事、中澤秀美氏の「中山間農業地帯のJAからの報告」の2つの報告の核心部分を集約して報告したい。以下、核心部分の要点を紹介したい。
組合員があくまで主人公 明確な活動路線の周知へ
(岩佐報告より)
(1)もうからない時代になった今、いかに食べていくのかということを考える必要がある。「JAは誰のものだ」という議論はもちろんだが、それだけでは経営は維持できない。どうやって組合員や職員の暮らしを良くするかと考え実践していく必要がある。
(2)「農協法」が改正され、目指す方向は判ってきたため、これまでの「中期経営計画」や短期的な「農協法改革」に対応するロードマップを作成して対応している。
(3)まず、昨年7月から304人いる認定農業者や青年指導農業士330人ほどを5人の常勤役員で全戸訪問。さらに自己改革では、サブテーマとして
「販売高100億円、新規就農者100名、貯金残高1兆円」を設定し努力を始めた。
(4)新規就農者は現在30名まできており、今年中に40名程度集まる見通し。農業者の所得増大として、生産資材、特に肥料、農薬を安く、経営サポート資金で農業支援、生産組合の出荷奨励金を出すなど、さらにインショップや移動販売車事業を展開など、多面的活動を展開している。
(5)中計の策定にあたっては、初めのグランドデザインを描くところから部長会で議論。それぞれの部で何ができるかを深め横串が入りやすくなり、この方法が良いと実感している。
(6)組合員へのアプローチについては、住宅ローンについて、2つのセンターで年間700件ほど取り扱い、利用にあたっては准組合員になってもらっている。この状況を受けて、金融部が准組合員を農の応援団にするにはどうすべきかを考えて実践したのが、住宅ローン先への農産物収穫体験だ。夏はエダマメ、秋は大根の収穫など、多くの効果がでている。不動産部も農園付き住宅を提唱、成果は大きく空き家率ゼロという状況である。
(7)また、最近活動を開始したのが「みらいJAプロジェクト」の取り組みで、「組合員とJAの距離が遠い、どうしたらよいか」という意見の中で、まず役員、それから部課長から行こうということで重層訪問を先月から開始した。組合員は役職員の言葉で書いた資料には興味がない。組合員目線で見えるようにすることが重要だ。
(8)組合員の求めているような情報発信をどれだけするかということが平成31年5月までの1年半のポイントだ。とにかくJAの実像と新たな明確な活動路線を改めて組合員に知ってもらうことが今求められている最大の課題だ。
1県1JAまでに大きくなってしまった今日の状況の中で、いまだに1村1JA時代のガバナンスを超えるものを私たちは作り出せていないのではないか。JAが広域化する中で、ガバナンス、つまり、組合員が運営参画するような仕組みをしっかり確立していないままでいるのは大きな問題だ。
その解決のための基本ルートを再検討しなければならない。理事・役員選出の方法も含めてJAのガバナンスの基本ルートについての再検討を急がなくてはならない。そして、組合員の声を聞くことができる組織ができるか。今こそ議論を深めなくてはならない。
さらに、組合員が主人公になるために、いろいろな人が参画する場を、組合員教育を含めてどのように作っていくかが重要だ。協同組合の運営の方法を組合員目線で組み立てることが、自己改革の目標ではないだろうか。
IoTを駆使した栽培技術やオンリーワン戦略で改革推進
(中澤報告より)
(1)地域の組合員がJAが何かをやってくれることを待っているとしたら、それは間違いだ。何をしたいかは組合員が決めることだ。JAはアクティブ・メンバーの願いをかなえる道具だ。そういうJAでありたい。
(2)JA梨北は平成5年に合併した。当時、1市6町3村で9JAあったが、「合併」ではなく「合体」といった感じで、しばらくは業務を回すだけで必死だった。20年経過して、やっと経営理念を策定することができた。
JA梨北は合体だったという強い反省のもと、平成26年に作成した「中期経営計画」の「経営方針」では、組合員の営農を守る持続型農業の実現に向けて、当時すでに「パートナーシップ」という言葉を使っている。 また、組合員の生活を守る総合事業体としての役割の発揮に向けて「JAの総合機能」や「食と農を基軸にした地域づくり」にも言及し、さらに「組合員の財産を守る健全経営の確立」として、「協同組合の原点及び協同活動の意義の継承」なども明記している。
この中期経営計画も終わりに近づき、これから更に何を目指すべきなのか、その策定に向けた準備をいましているところだ。
(3)いま自己改革が騒がれているが、むしろ私たちは「方向性は間違えていなかったのだ」という手応えを感じている。「改革というのは計画してできるものではない。多くの改善を積み重ね、その結果、改革ができるのではないだろうか。改革というものに始めも終わりもない、と考えている」。
(4)JA梨北の自己改革の工程表の根幹には営農指導事業がある。主流となるのは、生産部会やベテラン農家などの多様な担い手である。中山間地域だが担い手経営体が出てきているので、二本柱で育成している。特に中山間地域の営農組織は大規模農家や法人、集落営農組織などと連携する路線をとっている。それぞれが相乗効果を発揮して土地と地域農業を守る取り組みを始めている。
(5)JA梨北は、気象に打ち克つ農業を課題として平成20年度からウェザーニューズ社から購入する中長期予報をもとに営農指導を展開。
さらに生産者の頭の中に栽培技術がテキスト化されていない問題を解決するために、IoTを駆使して生産者の栽培技術を可視化する取り組みも始めている。簡単に言えば、現状にふさわしい農業のテキストを作成することだ。例えばブドウの揃定作業の望ましい設計図を作るといったイメージだ。農林水産業みらい基金の助成も受けることができた。
(6)高齢者のことを高齢者と呼ばず「高齢技術者」と言っている。高齢技術者はつくる技術はあるが、労働力が伴わない。
そこで「農福連携」や「産学連携」を進めている。知的障がい者の方々の単純作業を繰りかえす高い能力を活かすこと、もう一つはJA梨北の地域には体育会系の大学生が多いため、彼らの労働能力を活かしており、将来は農業参入の方向も考えている。
(7)JA梨北の生産者は「もったいない精神」が旺盛で「つくったものはすべて売りたい」と考えている。一流になるため捨てるということができない。そのため段階的なブランド化で廃棄ゼロをめざし、段階的にブランド化して底上げすることが生産者所得の増大につながり、多彩な直売所も活躍している。
販売事業の今後の課題は「JA梨北のロゴが付いているものは、安全だから、安心だし、おいしい」と消費者に言われるために「ストーリーのある差別化戦略」、つまり「オンリーワン戦略」を展開している。
(8)高齢者対応も多様な方法で展開している。「JAはビジネスとしては成りたちがたい地域の最後の砦とならなければならない」。そのためJA梨北では、買い物困難者のための食材事業や配置購買を行い、さらに移動販売車も走らせている。「一声運動の展開も非常に重要だ」「JAがなければ生活ができない」という人がいればJAは経営していかなければならない。
(9)JA梨北が目指しているのは「選ばれるために組合員メリットを創出する」にある。そのため「組合員になりたい」、そう思われる事業、そう思われる組織になる必要があるのではないか。
そのためには職員の意識改革が基本だ。組合員の意識を変える前に、まず、JAが意識を変える必要がある。今年下期の事業推進大会で全職員を前に、30分かけて、6つの改善の整理整頓の話をした。(1)「農業改革」(2)「農協改革」(3)「JA改革」(4)「全農改革」(5)「自己改革」(6)「農政改革」の6項目。
どんな小さなチャンスも逃さず、ありとあらゆる場面で「自己改革に取り組んでいます」とアッピールすること、できることが必要だと強調した。
(10)いまさまざまな課題はあるが、「私たちは、政府が求める改革ではなく、組合員が求める改革をしなければならない」、これが基本である。これを実現、遂行するため、役員、職員、そして組合員、さらにニューパートナーやニューファミリーまで高い敷居を越えて入ってもらい、常に新しい活力に充ちたJAにしなければならないと思う。
[後記]来る2月1日(木)~2日(金)に、愛媛県松山市で第16回全国農林水産物直売サミットが開催される。その主催団体の(一社)都市農山漁村交流活性化機構(略称、まちむら交流きこう)の理事長を私が務めており、主催責任者であるため、その前後、不在となるので、本欄は1週間休ませていただく。御了承願いたい。
なお、農産物直売サミットは初日(2月1日)は、松山全日空ホテル本館4階「ダイヤモンドボールルーム」において大会を、午後は5会場に分かれて分科会で報告・討議を行う。
2日目(2月2日)は、愛媛県内の代表的直売所を5コースに分けて、視察、懇談、交流を行う。
【全日空ホテル】
○住所:〒790-8520 愛媛県松山市一番町3-2-1
○電話:089-933-5511(代表)
【本サミットについて】
○問い合わせ先:まちむら交流きこう
○担当:森岡まで
○電話:03-4335-1984
○FAX:03-5256-5211。
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