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JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと

第53回 第16回全国農林水産物直売サミット 第5分科会における私の講演の核心部分の紹介-おわり‐2018年4月21日

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今村奈良臣・東京大学名誉教授

 この分科会における私の講演のむすびとして次に紹介する「地域興しへの私の8つの提言」でしめくくった。

【むすび 地域興しへの8つの提言】

1. Challenge ! at your own risk! (チャレンジ・アット・ユア・オウン・リスク)

 この言葉を、私は「全力をあげて挑戦せよ。そして、自己責任の原則を全うせよ」と訳している。約30年前から指導してきた全国各地の農民塾生たちに「何が胸に残っているか」と聞いたら、いずれもこの言葉だと答えた。この言葉を最初に聞いたのは32年前にアメリカ・ウィスコンシン大学に客員教授として行っていた時である。アメリカ中西部農村で農場の継承についての実態調査を行っていた時に、ある農民から聞き胸にグッと来た。アメリカでは農場主の父が引退する時、子ども(長男ではなくても次男でも三男でも、次女でも良い)が、「私が農場を買って経営主になります」と言った子どもに継承させる。
その時。父親から発せられた言葉であり、重い。

 

2.Boys be aggressive !(ボーイズ・ビー・アグレッシブ)

 これは、「自らの新路線を自らの手で切り拓き、積極果敢に実践せよ!」と訳している。明らかに明治の初め札幌農学校を辞し帰国するにあたり発したクラーク先生の"Boys be ambitious!"(青年よ、大志を抱け)をもじったものである。(なお、Boysは一般名詞であり女性も指し、男女差別語ではない。)
 今から53年前、私は東京大学大学院を修了し、(財)農政調査委員会という研究所に研究職員で入った折、理事長の故・東畑四郎氏(農林事務次官・日銀政策委員等を歴任。わが師、文化勲章を受章された故・東畑精一東大名誉教授の実弟)から言われた言葉。この言葉を胸に農政改革の基本課題とりわけ中央集権的画一型農政の核心にあった補助金制度改革などを私は積極果敢に解明、その改革方向など提言してきた。皆さんもこの上の二つの言葉を持つ路線を胸に抱き実践していただきたい。

 

3.農業ほど男女差のない産業はない

 この言葉は、青森県のJA田子町の専務理事をされていた(その後はJA八戸監事)佐野房(さの・ふさ)さんから聞き、胸にずしんときた。「農業ほど人材を必要とする産業はない」「JAほど人材を必要とする組織はない」と私はこれまで言ってきたが、この佐野さんの言葉は核心をついている。これまで日本農業の6割は女性が支えており、他のどの産業分野を見ても、女性が半ば以上を占める産業はほとんどない。JAも女性の正組合員化を進め、理事等役員も女性比率を高めていかないと弱体化していく。

 

4.「多様性の中にこそ、真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に生かすのが、ネットワークである」

 この考え方は私の信念とするところである。多様性に富む地城農業があり、多様性に富み個性を持つ生産者、組合員がいて、強力なJAになれる。とりわけJAの役職員、そしてJA女性部・青年部は多様な個性に富み、多方面にわたりJA改革に取り組み、また女性部・青年部は多様な形で農業や農産物加工や直売活動に携わり、地域コミュニティの活動を推進していると思う。
 その多様な個性をいかに活かすか、そのネットトワークづくりが重要になってくる。個性を殺す面一化路線はだめだ。JA女性部や青年部は多彩なネットワークの拠点である。

 

5 .ChangeをChanceに!逆風が吹かなければ凧は揚がらない

 農業・農村そして、社会経済の激変(Change)をただ嘆くのではなく、Chanceがきた(好機到来)と受け止め、新たな飛躍の路線を考え、実践に移す、「g」を「c」に変えるという発想で、常に前向きに考え、新しい方向を切り拓こう(英単語のどの辞書でもChangeは右頁にChanceは左頁に必ずある。右から左へ発想を変えよう!という精神で)。そして、逆風が吹くからこそ凧は揚がるという精神で、常に困難の中で新しい道を切り拓いて進もう。

 

6.ピンピンコロリ路線の推進を

 今、農村では農村人口の高齢化が進んでいる。しかし、私は農村の高齢者を「高齢者」と決して呼ばず、「高齢技能者」と呼んできた。農村の高齢者は単に年齢を重ねてきたのではなく、智恵と技能・技術などを頭から足の先まで五体に摺り込ませて生きた人達である。その持てる知恵と技能を、地域興しに、とりわけ農業生産活動に活かしてもらいたい。
 高齢技能者は作ったり加工したりするのは上手だが売るのは下手だ。そのためには、とりわけ若い女性・中堅の女性達の多面的なリーダーシップが高齢技能者には必要不可欠である。高齢技能者を老人ホームなどに送り込むのではなく、直売活動、コミュニティ活動など、消費者や地域住民との接点を求める活動に、その持てる知恵と技能を活かしてもらいたい。
 それが元気回復の源泉になる。そういう活動を行うなかで、ある日、地域の皆にたたえられて大往生を遂げることができるような農村が望ましい。

 

7.「計画責任」「実行責任」「結果責任」

 どういう仕事や事業、経営などを行っても、この3つが基本原則である。「絵に描いた餅は食えない」と昔から言われてきたが、JA関係の分野では一般的に絵に描いた餅、つまり計画ばかり作り、計画倒れが多すぎたと思う。          
 今こそこの3つの原則、つまり「計画責任」「実行責任」「結果責任」をきちんと実現するような体制と活動スタイルを実現しなくてはならない。特に、JAの役員はこの3つのテーマをいつも胸に抱きつつ、JA活性化、地域活性化の活動をしてもらいたい。

 

8.皆さん、全員が名刺を持とう

 日本の農家で名刺を持っている人はかつてほとんどいなかった。他の産業分野と決定的に異なる日本農村の特徽だった。名刺を作り、持つ必要がなかったからだが、直売所を推進している皆さんは生産者も含めて全員名刺を持とう。名刺は情報発信の基本であり、原点である。自ら行っている仕事や活動に誇りを持ち、世の中のすべての人々に語りかけるには、パソコンによる手作りで良い。地域の特産品や自らの誇る農産物などの絵や写真を入れた、美しく魅力あふれた名刺を持とうではないか。
 しかし、名刺を作るには自らの経営や活動の内容が判る肩書きがいる。自らの活動を広く社会に向かって示す内容豊富な肩書きを書いた、人目をひきつける美しい、そして楽しい名刺を作ろう。

 

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】

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