JAの活動:いま伝えておきたい-私の農協運動-
「人のために何ができるか」-協同の原点(1)【畠山勝一・JA秋田しんせい代表理事組合長】2018年11月8日
農業協同組合が各地に誕生して70年を超える今、改めて農協とはどんな組織で何をなすべきかを考え、その実践を次世代につなげていくことが大切になっている。「いま伝えておきたい私の農協運動」では各地の農協運動のトップ層の思いを伝えていく。今回は秋田県のJA秋田しんせい・畠山勝一代表理事組合長に語ってもらった。
◆助け合いは財産
--長く農協運動をリードしてきた今、どんな思いがありますか。
今年はライファイゼン生誕200年です。彼はエンジニアでしたが、地域の農家を見ていると当時は高利貸から金を借りており、秋になると牛も羊も全部借金のかたに取られてしまうような状態だったといいます。金利は100%。それを見てライファイゼンはこんなことでは農家は育たないと、村長をやり、その村長も辞めてパン工場をつくって、そこから、一人は万人のために万人は一人のために、という協同組合をつくった。
そういう歴史を今の日本の政治家は振り返っているでしょうか。ドイツではワイツゼッカー大統領が過去を振り返らない者は未来に対して盲目であると言った。まさにそれです。
農協改革でも国の農政の失敗を棚に上げて、農協に対して農業所得の増大、農業生産の拡大を求めてきているのではないか。私にすれば国に言われる前から農協はその先頭に立ってやってきたと自負しています。
日本で農業がどういう歴史のなかにあったのか、たとえば、食料難の時代に農協がどういう役割を果たしてきたかということを振り返ることも大事です。
秋田県でも人がどんどん減っていますが、地方で生活できるような政策が必要ですよ。都会と同じように太陽の光が当たるような政策が求められている。
農業は同じ集落で助け合うところに良さがある。今、私の集落は60haで50戸170人ほど住んでいますが、担い手は3人です。3人では水路と道路の管理はできない。町内の人が共同で管理してきたわけです。農政は競争で大規模にすればいいというが、こういう集落の実態を国は分かっているのかということです。お互いの助け合い、共助がなければ成り立たない。
やはり経済競争だけでなく農業はそれと分けて考えていかないといけません。政治は国民に等しく光が当たるようにすることではないかと思います。
(写真)「人のために何ができるか」-協同の原点
--ご自身のこれまでの歩みを聞かせてください。
私は親の代から水田と繁殖和牛を引き継ぎましたが、明和元年から300年続く家です。しかし、これまでに3回ぐらい破綻しています。集落のなかでトップクラスの農家になろうと先祖の何人かは考え、それこそさっきのライファイゼンの話じゃないですが、高利貸しからお金を借りて田んぼを買った。ところが豊作であればいいが、今年みたいに平年より2俵も落ちるなんてことになれば金を返せずに破綻するわけです。
就農したのは高校卒業した後で、1.3haぐらいからスタートしました。ただそれでは食べられないので測量会社にアルバイトに行っていました。高校は土木ではなく農業科でしたが、親戚に測量会社の人がいたんです。40歳近くまで仕事をしていました。
--農協運動との関わりはどんなことからだったんですか。
朝早くから会社に通う生活を送っていたとき、同じ集落の人で農協の理事をやっている人から、そんな仕事をいつまでもやっていないで農協の理事になって協同組合運動を習えと言われたんです。最初は興味なかったんですが、農家の長男らしくやれ、というようなことを言われて、私もカチンときて、それならやってみせる、と理事に立候補しました。40歳過ぎのころです。
それで旧JA大内町の理事を6年間やって、平成9年のJA秋田しんせいの合併でも理事に選任されました。そのときの合併JAの初代組合長は佐藤秀一組合長で全共連の会長も務めた人です。
佐藤さんは本当にロマンがあって曲がったことが嫌いで。シベリア抑留体験もあり大変な苦労人でした。われわれには「農魂躍動」という言葉を残しました。合併15年のときにその言葉を碑にしてJAの中庭に設置しました。
私はあの人に見込まれた。平成13年に佐藤さんは退任すると決めて、私に3役に残れと言われた。私はそんな器量はないからと断ったんですが、人の話はきちんと聞くものだ、と言われて3晩も説得されたんです。それで専務に選任され、平成23年からは組合長を続けてきました。
佐藤さんが強調していたのはまず人の話を聞くこと、そして人のために何をしなければならないかを考える、ということでした。自分のためではなく人のために何ができるか考えろ、と言われたものでした。
(写真)初代組合長の座右の銘が刻まれた顕彰碑(JA秋田しんせいの本店敷地内)
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