JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第74回 JAーIT研究会第50回記念公開研究会の紹介と講話ならびに討議2019年1月19日
記念講演 1
「農山村からの地方創生」
明治大学農学部食料環境政策学科 小田切徳美教授
農山村では、様々な空洞化が進行している。しかし、それに抗するように、再生に向けた取り組みも見られ、さらに「田園回帰」という都市の若者からの追い風も発生している。本報告では、農山村で進んでいる「地域づくり」の動きを定式化し、その延長線上に「地方創生」を考えてみたい。それは必らずしも農山村のみではない日本社会の未来像にもつながるものであり、そこにおけるJAの役割も浮かび上がってくると思われる。
以上のような、明快な問題提起を述べたあと、次に紹介するような内容の課題についてスクリーンに写した映像を駆使しながら緊張に充ちた講演を行っていただいた。
1.地方消滅か、地方創生か?
まずはじめに、「3つの空洞化」の段階的進行について問題提起をおこなう。
「3つの空洞化」とは、「人」「土地」「ムラ」の空洞化についてのことであり、1970~80年代は人口の社会減少が進むが1990年代半ば以降現在にかけては人口の自然減少が激しく進む。さらに、90年代後半以降「人」「土地」「ムラ」の3つの空洞化が激しくなり、合わせて「誇りの空洞化」も進んできていると警鐘を鳴らす。こういうなかで「地方消滅」ということが言われるようになったが、では先進諸国ではどうなっているのか?という問題提起を次に行う。
2.先進諸国はどうなっているか
そこで、主要先進諸国の「首都圏人口」の国際比較を試みる。
1960年から2010年にかけての首都圏人口の国際比較を試みている。
東京(日本)+11.2%(増)
ロンドン(英国)-1.2%(減)
ローマ(イタリア)+0.5%(増)
パリ(フランス)+0.5%(増)
ベルリン(ドイツ)-0.3%(減)
ニューヨーク(アメリカ)-1.1%(減)
というように、「日本の常識」は「世界の非常識」ではないか、とまず問題提起を行う。
(もっとも、アジアについては小田切氏はふれる余裕はなかったようだが、アジアの中国―北京、韓国―ソウル、などは人口集中が激しくみられ、欧米とアジア諸国は異なる。)
3.農山村から見えてきた戦略
こういう実情と変動の中で、「農山村から見えてきた戦略」を次に展開する。その核心を紹介する。
(上の図をクリックすると大きな図が表示されます)
「『山村とは、非常に少ない人間が広大な空間の面倒をみている地域社会である』という発想を出発点に置き、少ない数の人間が山村空間をどのように使えば、そこに次の世代にも支持される暮らしが生み出し得るのかを、追求するしかない。これは、多数の論理の上に成り立っている都市社会とは別の仕組みを持つ。いわば先進的な少数社会を、あらゆる機動力を駆使してつくり上げることに他ならない」(宮口?廸『地域を活かす』1998年)という論説を紹介しつつ、これを踏まえつつ小田切氏の「地域づくり戦略」を次に展開していく。そのためにまず地域づくりの枠組みを示す(図、参照)。
そのために、まず重要なことは、「地域づくりの枠組み」を考えなくてはならない。
地域づくりにあたって基本的なことは、(1)内発性、(2)統合性、(3)多様性、(4)革新性の4つが基本であり、これに基づいて図に示したように「場づくり」、「主体づくり」、「条件づくり」に基づく、(1)暮らしのものさし、(2)暮らしの仕組づくり、(3)カネとその循環づくり、を的確に組み合わせつつ、「新しい価値」の上乗せを多彩な「交流」などを通じて確立していくかということを進めなければならないと展開する。
4.農山村再生の3要素
前掲図でみたように、農山村再生の3要素は
(1)暮らしのモノサシづくり(主体づくり―主役)
(2)暮らしの仕組みづくり(場づくり―舞台)
(3)カネとその循環づくり(条件づくり―シナリオ)
の3つの要素を一体として作りあげることである。
ちなみに、政府の「地方創生法」(平成14年11月)においても、地方創生とは「まち」「ひと」「しごと」の三者を一体的に推進することとされている。
ところで、
★ひと(人材)とは地域社会を担う個性豊かで多様な人材を確保すること
★まち(地域社会)とは、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成を行うことであり
★しごと(就業機会)とは、地域における魅力ある多様な就業の機会の創出である。
この三つをいかに一体として作りあげるかが基本課題である。(図参照)
(以下、次回へ続きます)
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今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
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