JAの活動:いんたびゅー農業新時代
【インタビュー・徳久剛史国立大学法人千葉大学学長】新たな「千葉農業」知と地の力で拓く2019年2月21日
JAグループ千葉は2月1日、国立大学法人千葉大学と「包括連携協力に関する協定」を締結した。産学連携により「健康・農・環境」を中心とする千葉県の農業振興と地域経済・社会の活性化を図るとともに国際社会・地域社会で活躍できる次世代型人材の育成をめざす。協定締結を機に千葉大学のめざすことと、大学を始めとする研究教育機関をめぐる現状、今回の協定の意義などについて徳久剛史学長に聞いた。聞き手は加藤 一郎千葉大学客員教授・JA全農元代表理事専務。
(写真)2月1日、JAグループ千葉と「包括連携協力に関する協定」を締結。
右はJA千葉中央会の林茂壽会長。
◆進む学問のボーダレス化
加藤 最初に千葉大学の特徴と徳久学長の思いをお聞かせください。
徳久 千葉大学は総合大学で他の首都圏にある国立大学とくらべると医学部があるのがいちばんの違いだと思います。
昭和24年の創立時は5学部でしたが現在は10学部になりました。学生数は学部生が1万人、大学院生が3500人。学部学生が1万人を超す国立大学は12~13校しかありません。人気は高まっており入学試験の応募者数では3年連続で国立大学で一位となっています。
千葉大は国立大学として本学にしかない特徴ある学部を3つ持っています。それは園芸学部、看護学部、国際教養学部です。国際教養学部は3年前につくりました。海外留学を必須とし、かなり評判がよく千葉大の新しい顔ができてきていると思います。
私たちは今、スマートラーニングというものをはじめようとしています。スマートラーニングとは分かりやすく言えば、海外留学中でもインターネットを介して千葉大の授業を受講して双方向で先生とやり取りして単位を認定していく教育システムです。そうなると松戸キャンパスにいる園芸専攻の学生でも西千葉キャンパスでの講義が受講できることになり、学部融合のなかで学べるということが実現できます。
国は3年前の第3期中期計画から国立大学を3つの群に分ける方針を打ち出しました。第1群は地域に根差して地域の活性化のためにがんばる大学で55校、第2群は芸術大学のような特殊な分野で世界展開する大学で15校、そして第3群は東大を筆頭に全部局で世界展開するよう求められる大学で16校あります。そして、千葉大は第3群に入りました。ですから千葉大は全学的に世界展開をしなければなりません。
(写真)徳久剛史学長
加藤 今は企業経営も1つの領域ではなかなか課題が解決しないということから各事業部にどう横串を刺すかが課題になっていると思います。大学も学長の言われるように縦割りから横串を通すような運営に変わってきていることが感じられました。改めて学部間連携についての考えをお聞かせください。
徳久 国立大学が法人化されたのち、本学では理学部、工学部の大学院を一本化し、理工系学生が理学系や工学系の授業を自由に選択受講できるようにしています。今では理学部や工学部の卒業生の8割が修士課程に進学し、それから社会に出ていますから、多様な学問をしっかりと学んで社会に貢献できる人材育成を目指しているわけです。それから医学部と薬学部、そして看護学部は、その卒業生が将来同じ医療という領域で働くわけですから、学生時代から積極的に共同教育、研究を行う体制をつくっています。
今は学問のボーダレス化が起こっており、学生はどの学部に入ろうが大学院教育は学問の壁を越えて一緒に学べるようにしようとしています。学問はどんどん進んでいます。40年、50年前にくらべると遺伝子が発見され、さまざまな研究に活用されるようになって研究内容が大きく変わりました。さらにiPS細胞といった未分化細胞を研究者が培養することができるようになっています。園芸学部も学部だけで栽培技術を高めるには限界があり、イノベーションをおこすためには工学部や理学部など他学部と連携する時代に入ってきております。学部単位で綿々と昔の方式で研究をしていたのでは完全に取り残されます。
大学のあるべき姿を考えると大学には教育、研究と社会貢献という目的があり、企業のように売上げを伸ばし、利益を上げていくということは目的ではありませんが、大学法人化のなかで教育や研究のレベルを高めるためには企業的経営を取り入れなければやっていけないことにも気づかされてきています。米国の大学のように外部資金を導入するような試みもしていかなければなりません。日本ではまだまだ寄付を集めるときの優遇税制の制度が整備されておらず、どのようにして寄付金や研究資金を調達したら良いのか、難しいところも多々あります。
加藤 確かに日本は大学に寄付をする文化はまだ確立されておりません。大学のOB会は卒業生の親睦の場であり、母校の研究費不足を解消するために寄付をしようとの意識はまだまだ醸成されておりません。そういうなかで企業との共同研究などはもっと強めなくてはなりません。共同研究についてお考えをお聞かせください。
徳久 企業との共同研究は確実に伸びてきています。企業からは寄付講座として教育上必要な講座を設置してもらい教授陣を置くものと、研究のために設置する研究講座があり、それは大学から教員を充てるだけでなく企業から人が来てもいいという教室です。最近では、重要な研究には企業もすぐに着目して支援してくれることが分かりました。
◆生育状況ICTで「見える化」も
(写真)松戸キャンパスの園芸学部。手前はフランス式庭園
加藤 その一環として2月1日にはJAグループ千葉と包括連携協定を締結しました。JAグループですから当然、農業分野でどんな取り組みをするかも課題ですが、千葉県は農村部も地域的には広く、そうした地域の方々がどう地域を守っていくか、人々の健康をどう維持していくかなどはJAグループにとっても課題であり、今回、千葉大との包括提携したことに期待されるところです。当面は全国有数の農業県である千葉の農業にどう提携が生かされるかですが、単なる農業にとどまらず医療や福祉との連携も重要だと思っていますがいかがでしょうか。
徳久 私は医学部の出身なので農業分野が抱えている問題はあまりよく知りませんが、 大学としては人工知能(AI)を用いた研究などさまざまな先端研究を行っています。そうした私たちの研究が農業分野でどういうことに役立つのかについては、まずJAグループの方々に見てもらい考えてもらう必要があると思います。ですから、今回の包括提携を機にどういうかたちで何をめざすのかを明確にしていくことから出発することが大事だと思っています。
1つの例を紹介しますと、一昨年、千葉大は千葉ヨウ素資源イノベーションセンターを設立しました。ヨウ素は日本が輸出している唯一の元素で80%が茂原市で取れ、世界の産出量の21%を占めますが安い原料として輸出しているだけです。日本はアメリカなどから高いヨウ素製剤を買っています。そこで千葉大はヨウ素学会を組織している拠点でもありますから、地域資源に高付加価値をつけようと企業と千葉大が一緒になって研究する施設として、そのセンターをつくったわけです。ですから逆にJAグループからもこういうことをやりたいという提案があればいいと思っています。
加藤 そうですね。一方で園芸学部の先生が研究していることが、現場の農家にどう評価されてどういう点が足りないのかということを考えるうえでは提携はいいことだと思っています。専門領域のなかで研究しているけれども、すぐそばに現場があるということにもっと着目することにもなると思います。
徳久 一方で研究の方向としては農場を使うというよりも、植物工場で機能性食品として野菜を作るといった方向になっている面もあるのではないでしょうか。
加藤 園芸学部の植物工場の栽培技術は世界の最先端に位置していますが、農業生産額としてはまだ大きなものと言えません。農業生産の基幹的位置を占める畑作の技術革新にどのよう取り組むか。たとえばサツマイモなど地下に育つ作物の生育状況を地上部の茎葉から判断し、効率よく収穫に繋げるといった"見える"農業へICTを利用した革新的技術が求められております。実業界が求めているニーズと大学の研究とどうマッチングさせていくかが今回の包括連携協定に問われていることだと考えます。
(写真)聞き手の加藤 一郎千葉大学客員教授・JA全農元代表理事専務。
徳久 スマート農業も国を挙げて推進しようとしているようですが、これまでは水田農業を中心に研究開発が進められてきました。それをJAグループ千葉と千葉大学では畑作で、しかも研究実証は園芸学部だけの取り組みにせず、工学部等との学部連携にすれば技術革新のスピードアップが図れると思います。また、千葉大は文部科学省の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)を行っていますが、この方面における連携の可能性についてはどうですか。
加藤 千葉大学が自治体と取り組みを進めているプロジェクトには「地域生産物の高付加価値化を通じた農産物活用促進」「里山振興」などがあり、JAグループ千葉が参画することにより加速化されると思います。
徳久 JAグループ千葉としてもどのような千葉の農業をつくっていくかを明確して取り組んでいただきたいと思います。われわれも連携協力のために最大限の努力をしていきたいと思っています。
【略歴】
(とくひさ・たけし)
昭和23年生まれ。
48年千葉大学医学部卒。55年同大大学院医学研究科博士課程修了、神戸大学医学部教授、千葉大学医学部教授などを経て平成17年千葉大学大学院医学研究院長、23年同大理事、26年同大学長。
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