JAの活動:いま伝えておきたい-私の農協運動-
【萬歳章・JA全中元会長】「食と農を基軸」の協同組合へ2019年2月26日
今回の第28回JA全国大会は後世、農協組織の命運をかけた歴史的な転換期だったと記されるだろう。その始まりは政府・規制改革会議が打ち出した平成26年6月の「規制改革実施計画」(閣議決定)による「農協改革」にある。そのとき、矢面に立ったJA全中の会長だった萬歳章氏に協同組合への思いを聞いた。聞き手は白石正彦・東京農業大学名誉教授。
白石 第28回JA全国大会が3月7日に開かれますが、この大会の意義や期待についてお聞かせいただけますか。
萬歳 第26回、27回と、「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合の実現を目指す」というスローガンのもとでJA大会が開かれてきましたが、協同組合としてのJAは総合事業が基本であると、現役当時も今も、そういう方向であるべきだと思っています。農家所得の増大、農業生産の拡大、地域社会の活性化のため3つの基本目標を掲げ、みなさんの理解のもと、少しでも前進し、自己改革が成就できるような方向で、今回の大会が開かれるものと期待しています。
白石 10月にはJA全中が一般社団法人に、JA県中が連合会組織に移行し、従来のJA全国監査機構の監査も会計監査人監査制度に移行します。今後、どのような点に留意して取り組むべきでしょうか。
◆理念・原則の教育を
萬歳 農業協同組合法から全中の条項が削除されるのは、系統性が分断されるというか、全中を守る立場にいた私からすると情けない思いでした。しかし、いかんせん、残念ながら4年も経つとその流れが定着しつつあるように思えます。
JA全国監査機構は、業務監査と会計監査ができるのですが、国としては会社法と公認会計士法に則った監査を受けるべきであるということでしょうが、我々は業務監査の中で経営の破たん未然防止ということで、JA全国監査機構としての役割、仕事があったのですが、今回はそれを外に出して「みのり監査法人」をつくりました。これも交渉の中で方向付けが示されてきたと思っています。ただ農協や組合員が不安を感じている状況ですので、今後は協同組合の理念・原則の原点に立ち戻った中で、教育活動に力を入れていくべきだと考えています。
(写真)萬歳章・JA全中元会長
白石 ドイツの協同組合法では、すべての協同組合は監査中央会に加盟し、組合員参画を強化するため会計監査と業務監査の両方を受けています。ICA(国際協同組合同盟)の協同組合原則では、組合員制、組合員による民主的管理、組合員の経済的参加、自治と自立、教育、研修および広報等が明示され、特に組合員と役職員の教育活動が中軸です。
ところで、政府の「農協改革集中推進期間」は今年5月までの5年間で、また政府は改正農協法の施行後5年、2021年3月をめどに准組合員の事業利用の規制のあり方について調査を進めて結論を得るということになっていますが、これはまさに萬歳さんがJA全中会長の時に枠組みができたようですが、これについてJAグループはどのように取り組むべきだとお考えですか。
◆准組と共に地方創生
萬歳 この問題では大変な逆境に遭いました。現状は正組合員よりも准組合員の方が多くなっていますが、5年間の中で状況を見て結論を出すということで落ちついたのですが、当時准組合員は地域再生、地方創生のパートナーであり、私は同志だと言っていました。農協の理念の中で共に頑張っていきましょうという流れでした。
与党の決議などをみると、准組合員の利用規制については組合員の判断によるという話が出つつあります。従って少し安堵はしていますが、自己改革がどの程度進んでいるかによって違った流れになる可能性もあるので、(与党と)連携をとって農協の立場を示していく必要があるでしょう。
白石 JAぎふの例ですが、2015年度末から3年間で正組合員を5000人(うち女性が3200人)増やし、准組合員は3200人減少しています。このように男女共同参画型の組合員基盤拡充の一環で正組合員を増やす努力も必要だと思います。
萬歳 JAぎふでは、正組合員資格の面積要件はどうなっていますか。
(写真)白石東京農大名誉教授
白石 JA定款で正組合員個人を年間で30日以上農業に従事する個人等と規定しています。都市農業振興基本法の意義を重視して、家庭菜園や市民農園、学童農園などを農協と正・准の組合員が連携して、都市農業の輝くまちづくりをリードしていくべきです。
萬歳 新潟県の小千谷市には、クラインガルテンというドイツの農地賃借方式を取り入れたところが20区画ほどあります。そのシステムを農協が取り入れることを考えてもいいのではないでしょうか。
白石 そうですね。JA全中は、地域農業振興の主人公は正組合員、准組合員は農業の応援団と位置づけており、このような正組合員、准組合員の顔の見える連携の広がりの中でこそ食料・農業の地域循環、多様な農業の担い手の所得確保ができ、農に親しむ心豊かな地域社会が展望できると思います。
◆自由化への対策急げ
萬歳 体験農園というのは都市農業を支える重要なものですね。学童農園もそうですが、かつては協同組合のことが学習指導要領の中にあったのですが、なくなってしまって残念です。小さいときからの食農教育というのは大事ですから。全中あたりが教育要領を作ってもいいかもしれません。
白石 ところで、TPP11、日欧のEPA、日米TAG交渉といった問題に、JAグループはどのように取り組む必要があると思いますか。
萬歳 JAグループが展開している「みんなのよい食プロジェクト」を皆さんに理解していただくのが一番大事だと思います。国産農産物を食べてもらって、農業の価値も伝えていく。トランプさんじゃないですが、「ジャパンファースト」を推し進めていきたいですね。
白石 JAグループは、農業者所得増大と農業振興、地域活性化のための本格的な自己改革と同時に政府に対して農産物貿易ルールの変更等に伴う不公正な損失分は具体的な品目ごとに、タイムリーに政策要求を行うべきだと思います。
萬歳 農業の担い手がいなくなっては困りますからね。早急に手を打つべきだと思います。
白石 その要(かなめ)は総合農協と連合組織の強化だと思います。新生総合農協グループの核心についてお話いただけますか。
萬歳 総合農協を崩してはいけません。信共分離の圧力がありましたが、いま一番狙われているのは全農ですね。それで、懸命に改革の"見える化"をやっています。農林中金も厳しいですけれど組合員との関係を考えれば現状維持すべきです。全共連は災害に備えるための組織ですから健全に運用していく必要があり、一番改革が進んでいる組織だと思います。
白石 食料自給率が38%という危機的状況を国民に理解してもらい、農業を起点とした循環型農業の再生と食料の安定・安心システムづくりへ向けたJAグループの戦略的取り組みのビジョンについて、どう考えますか。
◆青年・女性の活躍を
萬歳 東日本大震災のとき、原発があのような状況になって7年が過ぎましたが、将来を見据えた「脱原発」をJA大会の決議に入れたのです。自然にいちばん強く係わっている農家が主張すると説得力があります。そして地方の小水力やバイオなどの再生可能エネルギー利用に結集し、住民とのつながりをつくる。そうしたことでアピールできたらと思いました。そもそも原発のような後始末もできないものはなくすべきです。再生可能エネルギーを農協の事業として取り組むことを提案したらどうでしょうか。
白石 いま若い世代や女性が頑張っています。どのようなことを期待しますか。
萬歳 JA青年部は農業の担い手の先頭に立っています。そこで考えて欲しいのは、日本の農業にとって、家族農業を基本にした青年の力が大事だということです。生産性の問題はありますが、日本の環境に合った農業は家族農業です。その中で若い人が力を合わせて、自給率を高める方策を考えていただきたい。
もう一つ女性の力が大事です。日本農業の半分は女性が支えています。ファーマーズマーケットや福祉の分野でも、また役員として出てもらって、地域を支える協同組合の力を発揮して欲しいですね。
白石 最後にまとめとして、単位JAの組合員・役職員、JA連合組織の役職員などみなさんにメッセージをお願いします。
萬歳 協同組合というのは協同組合原則の中で、弱い者が力を合わせる組織体で、"協同"を中心に置きながら日本農業、特に多様な農業が共存できるようにすることは農協の役割だと思います。今回の全国大会では、持続可能な農業の実現、豊かで暮らしやすい地域社会の実現、協同組合としての役割の発揮といったJAのめざす姿がありますが、それに向って最大限努力をして欲しいし、JA綱領に基づき、組合員のために役割を果たしてほしいですね。また、国民から評価される食と農を基軸とした協同組合の姿をつくって行けば、准組合員の問題も解消されるのではと思います。
インタビューを終えて
萬歳さんは、全中会長当時、政府から"全中解体"か"准組合員規制"のどちらかを受け入れるように一方的に不公正な圧力を受け続け、これに抗しきれず全中の理事会承認で農協法改正条項から全中削除等を容認せざるを得なかった。この教訓を踏まえ、協同組合であるJAグループと営利企業との本質的差異を明確に自覚し、協同組合原則志向のJA改革の重要性を提言された。今回のJA全国大会を契機に、組合員の共感・参画力と、役職員の協同組合人としての使命発揮力で、新時代を先取りする総合農協グループへの構造改革を願っている。(白石正彦)
本シリーズその他の記事は「いま伝えておきたい-私の農協運動-」をご覧ください。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日