JAの活動:この人と語るJA新時代
権田晃範JAひまわり(愛知県)代表理事組合長 「3つの元気」を軸に 組合員の意見はJAの〝宝物〟2019年5月31日
JAひまわりは、園芸の盛んな愛知県で第3位の農業生産額を誇る園芸産地である。同JAは「農業と食を通じた〝元気〟づくり」をスローガンに、農業・くらし・人の「3つの元気づくり」に取り組んでいる。「組合員の厳しい意見はJAの“宝物”」と言う、権田晃範代表理事組合長に聞いた。
権田組合長
◆組合員に鍛えられて
―JAで働くことになった契機は。またJAでどのような仕事をされてきましたか。
昭和47(1972)年4月に愛知県の三河一宮農協に入組しました。入組当初は畜産担当で、早朝から畜産物の集出荷販売業務と営農指導を担当していました。しばらくすると畜産団地の新規造成などによって組合員は積極的に畜舎の増築と規模拡大に取り組みました。急速に生産基盤が拡大し、取扱量は増加しました。出荷量の増加に合わせて家畜の運搬車両も毎年、大型のものに更新し、産地が拡大する喜びと組合員からの負託に応えることで、充実した仕事をさせていただきました。
組合員から中心的な役割を任せられるようになると、それに応えるため新たな販売方策・情報・知識の修得が必要となり、ある意味、組合員に鍛えられました。その後、営農関連以外の業務も務めた後に、JAの役員に就任しました。
この令和元年度は、JAひまわり設立30周年の節目の年でもあります。昨年度に策定した「第3次長期基本構想(2018年~26年)」の基本目標に「農業と食を通じた〝元気〟づくり」を掲げ、「元気な農業づくり」「元気なくらしづくり」「元気な人づくり」の3つの「元気づくり」に取り組んでいます。また、同年度にスタートした「第9次中期総合計画」(3か年計画)にも盛り込みました。
今年は国の「食料・農業・農村基本計画」の見直しの年です。特に昨年度はTPP11、日欧EPAの発効、そして今年度は新たな日米貿易協定(TAG)の動きも想定されています。このような状況のもとで国内農畜産物価格はどのように変化するのか。そしてまた食料安保が、この見直し計画にどのように担保されるのか、しっかりと注視していきたいと思っています。
◆設備投資に独自支援
このように内外の情勢変化はありますが、当JA管内は担い手の世代交代期に入ります。これまでも先人の皆さんによるさまざまな農業振興策を実施してきましたが、特に平成27年度は、県信連による2か年の「農機具購入応援事業」を推進し、その後の平成29年度からは当農協独自の「農業生産強化機械・設備購入支援事業」を創設し、生産者への農業振興支援策を実践してきました。
この間の4年間で、この支援事業利用者431人、総事業費は約6億6000万円となりました。この事業利用者の設備投資は今後の管内の農畜産物の生産拡大に連動するものと思っています。
―JAはどのような地域農業を目指していますか。
管内農業は園芸(花き・野菜)、畜産、水稲、果樹と多分野に渡り、長期基本構想の中では品目ごとの取り組み方策(地域営農ビジョン)を設定しています。この地域営農ビジョンは25の生産部会の役員とJAの部会担当職員で話し合い、「3つの元気づくり」を念頭に作成したものです。
各チームが将来の担い手がどのように考え、JAに何を期待しているか、そのニーズをつかみ、精査してまとめたものです。具体的には、現状の課題と5年後(2022年)の目標に向けた取り組み方策として、栽培面積、出荷数量、販売金額を具体的に示してあります。
もう一つは「くらし」に関してですが、このところ自然災害が多く、金融共済事業の役割はますます重要となっています。昨年の台風24号では大きな被害が発生しました。自分の生命・財産は自分で守る事も大切です。組合員の生命共済、住宅・農業用施設の建物共済等は全戸加入をお願いしています。
また、「人づくり」では、女性部(2768人)、青年部(80人)、生産部会(1055人)、産直出荷会員(1307人)、年金友の会(1万5800人)の活動を活発にすることを目指しています。そして、各組織の負託に対応する職員の一層のレベルアップを図る必要があります。
―組合員の期待に応えるためには、これからどのような職員が求められるのでしょうか。
農業の環境が大きく変化するなかで、先進的かつ専門的な技術や知識を持つ職員が必要です。特に若手の営農指導員の養成に力を入れています。JAの関係組織だけでなく、民間企業や大学と交流を図り、人材育成と情報収集に努めています。
現在の経営者は高い技術を持っており、JA職員はそれに応えられる能力が求められます。金融共済部門でも同じで、この超低金利のなかで組合員にどのように資金運用を提案できるかです。現場においては常に、競合相手との競争に耐えられる能力、知識が必要となります。
―准組合員についてですが、JAの事業のなかでどのように位置付けていますか。
JAひまわりの組合員数は約3万5000人、うち准組合員が2万7200人と多数を占めます。准組合員は地域農業の応援団と位置づけています。産直所を利用してもらうことで、地域の農業を盛り上げてもらいたいと考えます。また、毎年、准組合員を対象に「組合員講座」を開いています。主にグリーンセンター利用者35歳~40歳の人を対象に、4回の講座で農業に関することを学習していただいています。
また、今年で11回目となる親子参加の「わい!わい!農園」では、生産者ボランティアと営農指導員が先生役となり4月のトウモロコシの播種に続きサツマイモ・大根・ジャガイモの農作業・収穫作業を行い、卒園式では恒例のカレーライスパーティーが好評となっています。こうした活動を通して、食の大切さ・食べ物のありがたみを学ぶことができます。これは卒園時の子どもたちによる農作業体験の絵日記からよく分かります。
また、年金友の会の会員には、お誕生日を記念して1万5800人の会員に、地域のモチ米を使った赤飯を贈り、農業を身近に感じてもらう取り組みをしています。
◆地域ブランド確立へ
大田市場でトップセールス
―地域農業の担い手は確保できていますか。
主に施設園芸(花き・野菜)などで若い農業者が育っています。畜産分野においても、若い酪農家が搾乳ロボットなど先端技術を導入する経営者もいます。先端技術は若い生産者にとって大きなモチベーションになっています。
管内とする豊川市の農業生産額は県内で第3位ですが、組合員の高齢化対策や担い手の労力軽減のため、昨年11月に東三河5JAとJAあいち経済連とで東三河地域青果物パッキングセンターを開設しました。担い手のニーズの一助になればと期待されている施設でもあります。今後は、生産者の手取りアップに向け、ブランドの統一を目指すものでありたいと思っています。
―JAの経営の今後についてどのように考えていますか。
これまで以上に向かい風が予想されます。それを想定して、農業の振興策を初めJAの経営の一層の安全性を模索することとなります。どのように安定経営を確保するか。経営面では、抑えるところは抑え、伸ばすところは伸ばさなくてはならず、その物差しが必要です。
さらに、信用事業の収益縮小がJAの経営に及ぼす影響は大きなものとなります。今のうちにしっかりと新しい種を播いて、事業展開の方向を定めておくことが求められます。種を播くことを惜しんではならないと思います。
◆できることから実行
―JAの自己改革では、組合員との対話運動を掲げていますが、どのように取り組んでいますか。
当JAの組合員向けの広報誌「わい!わい!ひまわり」のアンケートハガキには毎月130通ほどの意見や要望が寄せられています。これらには、お褒めの内容や厳しいお叱りの内容もありますが、新しい事業展開のヒントにもなり、JAにとっては宝物だと考えています。
また、組合員集会や生産者組織集会、青年部・女性部との意見交換などと、積極的に意見を聴収しています。農業者からの声の多くは、販売の強化、営農指導の充実、資材価格の引き下げが重点となります。今まで以上に組合員の要望により、各生産資材の取りまとめ方法の見直し、競合店との価格競争、荷姿変更、出荷資材の見直しなど、できることから実行しなくてはなりません。
愛知県内には都市型のJAや農村型のJAなど地域環境には大きな違いがあります。正組合員の資格要件一つとっても、昨今の変化を感じています。今後の先読みをいつ、どのように事業に取り込むかは各JAの判断となりますが、JAはあくまで「食と農」の協同組合です。農協法第1条の本業を忘れたらJAの体(てい)をなしません。
政府は農協改革や、種子法の廃止、さらに水道事業といった〝命の種〟〝命の水〟まで民間企業に委ねようとしています。そのような状況で国民の食の安全保障がどのように担保されるのか、今年の「食料・農業・農村基本計画」の動向が今後10年間の指針であると思っております。若者が夢の持てる農業を築くためにも。
執務中の権田組合長
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