JAの活動:この人と語るJA新時代
薄葉 功JA東西しらかわ(福島県)代表理事組合長 営農経済事業で次々と新基軸2019年7月10日
「みりょく満点」の農産物ブランド戦略、人工光利用の完全閉鎖型の植物工場、レストラン併設の直売所、JA出資の肉用牛繁殖モデル農場と、JAの経済事業で次々と新基軸を打ち出し、注目されている福島県のJA東西しらかわ。合併以来19年目を迎え、薄葉功代表理事組合長にJAの現状・将来の展望を話してもらった。
薄葉組合長
◆広域合併を見送って
――JA東西しらかわは、福島県が進めてきた県内4JAへの合併構想に入リませんでしたが、どのような見通しを持っていますか。
合併構想ではJA東西しらかわは県南のJA夢みなみと合併する計画でしたが、それに加わらなかったのは、合併後の新しい農協の姿が描けなかったからです。合併した後でどうこう言っても後の祭りです。とにかく合併ありきで進められ、合併後の経営計画があいまいで物足りなさを感じました。しっかりした計画をつくるべきだと考え、その意志をきちんと伝え、合併の調印はしませんでした。私どもは、合併が農協生き残りの手段とは考えていませんが、最終的には4JAにするということで福島県のJAグループで合意しており、合併推進協議会は残っています。
4プラス1JAとなって3年経過しました。この成果を踏まえ、これから3年後どうするか、中央会等とも協議していますが、合併のための条件整備を進め、それまでの成果をもとにどんな農協をつくるかについての結論が出ます。それをみて、これならできるとなったら合併を検討する考えです。
合併は見送りましたが、この3年間、他の合併農協に比べ経営や事業で遅れをとったとは思っていません。ただ、金融や共済事業はこのままでいいのか、正・准組合員の変化、若い農業者の考えなど、情勢の変化はきちんとキャッチしなければならないと考えています。金融環境の変化は、規模の大きい農協ほど大変だと思いますが、小さい農協にもかかわらずよく対応していると言われるような農協を目指しています。
――そのためにはどのような取り組みが必要でしょうか。
組合員との関係を密にすることです。今までの農協、これからの農協を組合員や地域の隅々まで知ってもらい、理解を得ることは非常に重要だと思っています。農協と組合員の関係が、永遠にいまのままでいけるとは思っていません。職員には、地域の声・風・臭いを敏感に感じ取って欲しいと思い、1か月1回、第2土曜日に農家訪問を行っています。
今後は、訪問日を限定するのでなく、農協マークの車がいつも走っているねと言われるように、積極的に出向いて組合員や地域のニーズをキャッチし、事業に反映させるようにしていかなければならないと考えています。
組合員の声を聞くという意味では、役員改選時に認定農業者でもあり、地域農家の作業受託もしている方に、専務をお願いしました。机の上でなく、現に農業をやっている立場から農協をみてもらおうという思いです。学識経験の役員とは違った意味で、組合員の生の声が聞けるのではないかと期待しています。
◆小さな会議積み重ね
――農協への思いを聞かせてください。
JA東西しらかわは経済事業で知られていますが、入組した時は経理で、その後、長く信用・共済部門を経験してきました。経済部門は本店で部長だった5年間です。私自身は農家の出身で、いまも農業をやっています。休みのときは朝早く起きて田んぼの作業で、土日は大忙しです。自分で農作業をすると、農業を直に感じることができるのではないでしょうか。
今年、管内は記録に残るほどの水不足でした。ぎりぎり間に合いましたが、田植えを2週間ずらして切り抜けました。集落の共同作業や行事の維持が、高齢化や後継者の減少で、容易ならざる状況にあることなど、実際に関わっていてこそわかることが多くあります。それを農協の経営に生かしていきたいと考えています。
協同運動は口で言うだけではなく、まず第1に農家の声に耳を傾けることから始めるべきだと思います。それには、大小の会議をうまく活用することが大事です。同じ結論にもっていくにも、まず環境づくりが必要です。作物に例えるなら、肥料と水をきちんとやり、土をしっかり耕すことが必要なように、農協運営も、組合員の理解と協力を得られるように小さな会議を重ね、意識の統一をはかることが大事だと思っています。
その役割は地区の非常勤の理事さんです。ここまで細かく聞くのか、というくらい小さな会議を重ね、その声を拾って、次の大きな会議に上げていく。2年前からこのやり方をとっています。地区担当理事が表に出ることで、経営者としての意識を持ってもらうことができます。
その思いを込めて組合長室の応接用のテーブルをつくりました。JA東西しらかわは7つの農協が合併したものですが、今の場所に本店を移したとき、管内の7つの地区から集めたヒノキ材を組み合わせてつくりました。材の目を合わせてあるので、一目みただけでは一枚板のように見えます。都合よく、真ん中が本店のある棚倉町になりました。温故知新ではありませんが、合併の時の思いを忘れず、「気持を同じくして、〝目〟をひとつに」してあらたな展望を切り開こうということです。
7JA合併時の初心を忘れず「目をひとつ」にのテーブル(本店組合長室)
――ボトムアップを重視した運営ですね。組合長として、これからどのようなことをやりたいと考えていますか。
マーケットインの販売戦略のなかで、これまでは作ったものを買って下さいという販売でしたが、そうではなく、取引先から「売って下さい」と言われるような農業を目指し、契約による生産に力を入れたいと考えています。企画・提案も行い、取引先の信頼を得て安定的な取引のできる農協、産地にしたいと考えています。
管内の農業は大規模化、集団化も進みつつあります。しかし個人、小・中規模の農家がまだ多く、小量多品目で、それぞれこだわりの農作物があります。農協は大型化への対応とともに、小規模でも成り立つ仕組みをつくる役割があると思います。
――JA東西しらかわは、経済事業で多くの新しい取り組みに挑戦してきました。その評価を聞かせてください。まず植物工場から。
植物工場「みりょく満点やさいの家」は、震災原発事故からの復興で、汚染された可能性のある土を使わない農業を目指したものです。農協でうまくいくと、普及させることができると考えました。電気料、コストは、依然として大きなものがありますが、6年目を迎え、なんとか採算ベースにのるところまで近づけることができました。
この野菜は農協直営のレストランでも使っていますが、1年中、同じ品質の新鮮レタス等を供給できる強味があります。契約で販売が安定しているので、同一規格・品質の野菜供給への努力を続けていきたいと思っています。
◆契約栽培で安定取引
GAP認証取得の組合員を祝う薄葉組合長(左端)
直売所「みりょく満点物語」はフル活用しており、地域の産物をいつでも供給できます。出荷者には本業や片手間、あるいは生きがい農業の高齢者の方もたくさんいます。その方にも、しっかりとした生産管理で頑張ってもらいたい。直売所は3か所ありますが、販売高は順調に伸びています。市場出荷もありますが、こうした地産地消の取り組みで、管内で消費するものは外から仕入れるのではなく、地元でまかなうようにしたい。
次に、管内で産出するミネラルを含んだ貝化石を使った農産物の「みりょく満点」ブランドですが、スタートから15年経過し、おいしいJA東西しらかわ産の米、野菜として取引先が安定し、徹底した栽培管理のもと、安全で安心な農産物を作るのだという意識が定着してきました。今後も、土壌診断をきちんとやって適正施用・栽培管理を徹底し、ブランドを大事に守っていきたいと考えています。
JAと畜産農家など組合員が出資したグリーンファーム「肉用牛繁殖モデル農場」は、地域の肉用牛繁殖のモデル農場として建設したもので、開設から3年経過し、技術的にも安定し、一定の収益が見込めるようになりました。収益を上げるだけでなく、最新の機器や技術を駆使し、また後継者の研修の場にもなっており、これから地域の肉用牛繁殖経営にとって大きな励ましになるものと期待しています。
後継者の確保では、期限付きの農協職員として採用することも考えています。一定期間、農協で働き、研修するという仕組みです。必要であれば県レベル、あるいは農協間で連携してやってもよいのではないでしょうか。農協のPRにもなり、職員として支援することで農家の人手不足への対応にもなります。
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