JAの活動:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画
【シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画】新たな基本計画下での農協による食料自給率の向上事業 JA十和田おいらせ理事 小林光浩2020年4月24日
前回(4月14日掲載)小林氏は、食料・農業・農村基本計画は国の農政指針であり、その実現を図るのは国の責任であると指摘。同時にその実践は地域の組合員農業者と消費者を地産地消で結びつけて食料自給率の向上を実現するなど、農協もまた基本計画の実践に協同組合社会づくりをめざして取り組むべきだと提言。今回はそのなかでも最重要事項である食料自給率向上について改めて提言する。
1. 国民的・世界的な農協の存在価値
私は前回、「新たな食料・農業・農村基本計画」の下で、農協が取り組む事項について、(1)農協による組合員である農業者と消費者の結び付きの地産地消による食料自給率向上の農協事業、(2)農村地域の産業・生活インフラを支える農協事業、(3)農協による条件にかかわらず農業経営の底上げに繋がる生産基盤強化、(4)SDGsの持続可能な農業を実現する農協による協同組合事業、などであることを提言した。
今回は引き続き、一番の重要課題であるとした「農協による食料自給率の向上事業」についての具体的な取り組み内容を述べる。この取り組みは、国民的な農協の存在価値として評価される農協事業であり、かつ地球人口爆発と環境破壊によって食料不足問題が指摘される中での世界的な農協の存在価値として評価されるものであると考える。
この農協による食料自給率向上事業における私の課題認識は、(1)食料自給率が先進国最低である、(2)国民の命の基である食料が自給できていない国は先進国とは言えない、(3)日本が経済力を武器に貧しい国の人々の食料を奪っていることは許されない、(4)地域農業者と地域消費者を組合員とする協同組合である農協は組合員の食料・農業・地域(農村)を守る責務がある、(5)協同組合社会づくりを進める農協は国民に対して安全・安心な農産物を供給する責務がある、という問題意識から生まれるものである。
そんな中で、具体的な取り組みを考える時には、「では当農協においてどうするのか」という現実的・実践的な問いかけが重要であろう。そこで、我がJA十和田おいらせでの食料自給率向上事業を見ることにする。当農協は、農業者である正組合員が約6000人、地域消費者である准組合員が約5000人の農業・農村地帯における広域合併農協である。農協販売額は約180憶円であるが、その大半は市場流通における販売である。
当農協は、そんな市場向けの農業生産を核とする農協ではあるが、今年度に新たなチャレンジとして約6億円以上を投資して、売り場面積800平方メートル(店舗面積1500平方メートル)、駐車場300台(土地取得面積2ha)、最終販売目標10億円の大型産直施設(ファーマーズマーケット)を10月にオープンさせ、地産地消の販売事業に本格的に取り組むことにした。
2. 農協による総合産地づくり
我がJA十和田おいらせの現状における販売事業は、作物別・品目別の農業者の生産部会組織を核として市場流通の産地化に取り組むことで有利販売に努めてきた。
それは、(1)生産部会組織化による生産者育成と産地化、(2)土づくりをベースとしたミネラル野菜ブランド化、(3)安全・安心・おいしい・高品質の農産物生産指導と生産履歴管理、(4)作物別・品目別生産部会による厳しい出荷基準の厳守、(5)市場流通を基本とした多様な販売戦略の展開、(6)農協による継続した多種多様の営農支援などによって産地を確立してきたものである。こうした農家組合員の協同組合活動によって長い期間をかけて確立した当JAにおける180億円の市場流通の産地は、我が国の食料自給率の向上を支えているものと自負する。
このような取り組みは全国の農協で行われていて、その全国における農協による農産物の生産販売額が我が国の食料自給率の向上に貢献している役割は、国民に正しく評価されなければならない。何故ならば、こうした国民に対する安定した食料供給に係る経費の多くは農業生産者と農協が負担しているものであって、その負担に対する国民の評価が購入価格に反映されなければ、今後の農協による市場流通生産販売システムは継続発展できないからである。農業者が再生産できて適正な手取り農業所得が確保される農産物価格、さらには農協の生産販売システムを維持するコストが賄われる農産物価格を、国民の理解の上で負担される世界が求められる。
こうした農協による市場流通生産販売システムを支えている生産部会のメンバーは、専業農業者や第一種兼業農業者、いわゆる国の認定農業者である家族農業者や集落営農組織・農業法人などのある程度の大規模農業者である。
しかし、我々が常に意識しなければならないのは、「地域農業や地域経済・地域社会が、こうした国が進める認定農業者・大規模農業者だけで成り立つものではない」という現実である。むしろ地方を、地域農業・農村を支えている多くは、高齢農業者であり、女性農業者であり、サラリーマンの第二種兼業農業者であり、農業を愛するホビー農業者などの小規模農業者である。こうした中山間地帯の多い日本農業を支え、高齢化の進む地域社会を支え、集落崩壊目前の農村を支えている小規模農業者を無視することはできない。特に、経済的弱者の相互扶助組織である農協においては、こうした小規模農業者を守り支援することで、地域農業・地域社会・農村を守っていく責務がある。そこで求められるのが、こうした小規模農業者による農協による地産地消の産地づくりである。
こうして、農協は、これまでの市場流通の産地化とともに、新たに地産地消の産地化の両方を進めることで、(1)地域における多様な農業の担い手(大規模農業者も小規模農業者も)の多くが活躍できる、(2)地域農業の営農の役割分担と農地の住み分け活用が進む、(3)地域全体の農業生産力が高まる、(4)地域全体の農業所得が高まる、(5)地域農業・地域社会・農村が守られるという「農協による総合産地化」に取り組むことで、地域の資源(人・農地・農業施設等)を最大限に有効活用しての食料自給率の向上に繋がるのである。
この総合産地化の多様な担い手は、人の組織を基本とする農協において、(1)市場流通の産地化を専業・大規模農業者を中心とした品目毎の生産部会で、(2)地産地消の産地化を高齢者や女性等の小規模農業者を中心とした直売部会・加工部会で、地域の多くの多様な担い手が共に組織活動・協同活動することで活躍することができるものである。
3. 全国的な組合員の農業者と消費者の結び付きによる地産地消事業
国民の食料を考えるとき、重要なことは「食料は国民が選ぶ」ものであるという基本理解である。国・行政が食料を配給・管理した不幸な時代にさかのぼってはならない。国民の自主・自発的な意識で食料購入が自由に行われる世界を目指すことが求められる。
しかし、国民の無知な食料購入の行動が、世界の食料不足や、地球環境の破壊、貧しい国の食料を奪う、日本の食料生産基盤の崩壊、農村社会の崩壊、国土保全の崩壊などの誤った方向になることは許されない。食料に対する正しい国民の理解は、国の責任で進め、国民の責任であることを忘れない教育・制度・政策・社会システムを求める。
国民一人ひとりが日常で食料を購入する時、あるいは食する時に、「私の食は、どうのように作られ、流通され、世界的・地球的に意味があるのか」を認識して、正しい行動をすることができるレベルまで達した国民を、世界では先進国として認めるであろう。
そこで私は、そんな食料に対する正しい認識の表れとして、「農協組合員である農業者と消費者との結び付きによる地産地消で食料自給率を向上する事業」を提案する。
その農協事業の具体的な内容は、(1)地産地消農産物を生産する高齢・女性農業者等の組織(直売部会・加工部会)の育成・強化、(2)農協による地産地消農産物の生産指導と生産支援、(3)農協による地産地消農産物の産地づくり、(4)農協による地産地消農産物の消費者サイズのパッケージセンター設置、(5)農協による地産地消農産物の加工施設設置と商品開発、(6)農協による地産地消農産物の販売所(ファーマーズマーケット)設置、(7)農協による地産地消農産物を支援・購入する消費者組織の育成・強化、(8)全国統一の「組合員である農業者と消費者を結びつける地産地消JA事業システム」を開発・システム構築運営(全国宅配、インターネット販売、ファーマーズマーケット間の物流、消費者の地産地消参加制度、地産地消の利用ポイント制度、地産地消生産者応援ポイント制度等)、(9)農協の組合員である消費者に優先して地産地消農産物を提供するなどである。
我がJA十和田おいらせでは、新たな地産地消の目標を生産者組織1000人による販売額10億円とした。一人の地産地消の生産者は、40アール程度の農地で100万円程度の「少量多品目栽培」によって、1000人で200品目程度の「こだわりの安全・安心な地産地消の農産物生産」で10憶円の販売を目指す新たな取り組み・チャレンジである。
この取り組みを全国600の農協で取り組めば、生産者組織60万人による販売額6000億円の新たな地産地消の販売目標となる。この数字が、農協事業として大きいのか小さいのか、食料自給率の向上を何ポイント高めるのかは計算すらしていないが、我が国の食料自給率を高める国民意識改革運動の一石となることだけは確信している。
そして、その販売額の1%(全国連手数料程度)である年間60憶円を継続投資した全国JAシステム「組合員である農業者と消費者を結びつける地産地消農産物事業システム」を開発・構築・運用して、全国の農協間での地産地消の農産物の物流確立や、全国の消費者が利用できる全国の地産地消の農産物提供システムの確立を夢見る。その先には、食料自給率向上に貢献する世界的評価を得た農協の姿が見えるだろう。
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