JAの活動:JA全農部長インタビュー「全力結集で挑戦 未来を創る-2021年度事業計画」
【JA全農 部長インタビュー 2021年度事業計画】神林幸宏 園芸部長 広域集出荷施設でJAと役割分担2021年6月8日
園芸事業は実需者のニーズをつかみ商品開発から産地開発まで力を入れる。神林部長は「現場に寄り添い事業を構築していく」と語る。
神林幸宏 園芸部長
--事業計画で掲げている重点実施項目について全農グループの園芸事業としては何が重点になりますか。
園芸事業では、生産基盤の確立や生産者を支援する一環として、複数のJAとともに広域の集出荷施設の整備に取り組んでいます。
このことにより、個々のJAが施設を設置し運営するよりも設置・運営コストも軽減できますし、物流面でもそれぞれのJAの集出荷施設から出荷するよりは集約して積載効率を上げ、県内市場や東京や大阪など大市場に輸送するほうがコストが下げられます。
具体的には既に稼働済みの福島県の「会津野菜館」や、鳥取県のブロッコリーやスイートコーンの選果施設である「野菜広域センター」、今後設置予定の栃木県でいちご、なす、トマトなどを扱う青果物広域集出荷センターなどがあります。現3カ年計画では6カ所で稼働済みで3カ所の設置が決定しています。
この取り組みにより生産者の選別、調整作業などの労力軽減に資するだけではなく、それぞれのJAの集出荷場にかかる労力を削減し、営農指導などの業務を強化することができます。販売は全農、営農指導はJAという役割分担も可能になります。
冷凍青果物 工場を新設
「食のトップブランドの確立」にむけた対応では、直販施設の整備による機能の強化の一環として、冷凍青果物工場の新設に本格着手します。
コロナ禍での外食産業の休業・営業時間の短縮により、加工・業務用青果物の販売は厳しい状況にあるものの、内食の増加で保存性の高い冷凍食品の需要は確実に伸びている状況にあります。しかし、国産冷凍野菜の冷凍食品市場に占める金額のシェアは全体の2%程度と外国産が主流となっている実態があります。
本会も以前から国産の青果物を原料とした冷凍青果物事業の検討を続けてきましたが、今般、埼玉県久喜市にある本会施設を再開発する一環として、国産青果物の冷凍工場を新設することを計画し、この4月に園芸部に「久喜準備室」を設け、事業の採算性、取引先への需要動向の調査、専用産地の開発、工場建設等についてリサーチから始め、検討していくこととしています。
消費地の販売についてはJA全農青果センター(株)を始めとする消費地販売施設の機能強化に取り組みます。コロナ禍においては非接触ニーズから、センターの強みである小分け包装事業が評価されました。本年度は、JA全農青果センター(株)大阪センターの改修に着手するなど、量販店や生協等取引先の事業動向に対応した施設の拡充をめざします。
卸売市場流通においては、これまでも実需者を明確にした予約相対取引を拡大していくことをすすめています。コロナ禍でも青果物を消費者にしっかり安定供給することができたのは、卸売市場流通がその役割と機能を果たした結果と思います。
今後も卸売市場との関係もしっかりと構築し安定した売り場確保を図っていきたいと考えています。
--農産物全般として物流合理化が課題となっています。園芸事業ではどう取り組みますか。
2024年のドライバーの働き方改革で遠方からの輸送ができなくなるかもしれないという危惧もありますから、県域におけるJA域を超えた共同配送と県域を超えた広域の共同配送というかたちで配送の合理化を図れないかと検討を始めています。合わせてパレット輸送を拡大するために、一貫パレチゼーションシステムの構築に向け検討を着手します。現状では産地がパレットの利用料などを負担していますが、パレットは市場到着以降の流通段階においても利用されています。
ひとつの事例として、現状では、パレットの利用料を産地側が負担しており、パレットの紛失が多い程、産地の負担が大きくなるという実態があります。このように、青果物物流に携わる各業界においては、パレット輸送を推進したくてもそれを阻害する何らかの理由があるのではないかと思っています。今後は、各業界の皆様と、パレット輸送の拡大に向けて、それぞれが何ができるのか、またどのような連携が可能なのかについて、ご協議させていただければと考えております。
果樹の省力生産実証事業へ
--産地振興ではどんな取り組みをしますか。
これまでブロッコリーやかぼちゃなどで実需者ニーズに基づいたサラダ、惣菜などの原料として周年供給できる体制づくりをしてきましたが、それを継続し契約栽培を拡大して産地振興を支援していきます。
また、とくに今年度の事業として力を入れるのが果樹の省力生産実証事業です。
生産者が高齢化し農業者も減ってきているなかで果実の生産が顕著に落ちてきています。また、果樹は苗木を植えてから果実ができるまで数年かかりますから、改植や新植は先行投資という位置づけになります。
そういうなかで少しでも省力生産できる技術を普及することは果樹生産の維持、あるいは新規の生産者を呼び込むことができるのではないかと考え、本会も実証事業というかたちで産地の育成に取り組んでいきます。
現場に寄り添い事業構築
--園芸事業全体としてどのような方向をめざしていきますか。
われわれはどうしてもプロダクトアウトの発想で、できた青果物をどこに持って行き売るか、ということにいちばん悩んできたわけですが、今後はあらゆる実需者に対して、どういった商品が必要かをつかむことが重要と考えています。それに基づいて商品開発から産地開発というかたちで一貫してつなげていかなければなりません。
今までは生産、販売、物流それぞれで起きている課題をどう解決していこうかと個々に対応してきたというのが実状でしたが、これからは販売から始まる一気通貫のなかで、それらを合わせて一緒に解決していくことが必要だと思います。販売先のニーズに基づいた生産はどうすればいいか、物流面はどうか、などと合わせて考えるということです。
その際、必要があれば、たとえば他企業ともアライアンスをしてお互いに共有関係が築けないかといった取り組みを検討することもあると思います。つまり、全農単独で考えるのではなく、得意としている分野を持つ他の企業と一緒に組んで、現場の課題を解決するような取り組みもできたらいいと思っています。
園芸事業ではこれまで産地が作ったものをいかに高く売るかということが常にクローズアップされ、われわれに求められてきました。しかし、今回の果樹の生産振興策もそうですが、われわれも生産現場に寄り添って事業を構築していくことが必要であると考えています。
その際、園芸事業だけで解決できないことが多々ありますので、本会の耕種資材部や耕種総合対策部、そして営業開発部など、青果物の生産・販売に関わっている部署との連携が必要です。次期中期計画策定ではまさにそのように横串を刺して事業を考えるよう求められています。
(かみばやし・ゆきひろ)1962年7月生まれ。石川県出身。京都大学農学部卒。1985年入会、園芸農産部総合課長、総合企画部次長、食品品質表示管理・コンプライアンス部長、フードマーケット事業部長などを経て2020年4月から現職。
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