JAの活動:JA全農部長インタビュー「全力結集で挑戦 未来を創る-2021年度事業計画」
【JA全農 部長インタビュー 2021年度事業計画】由井琢也 畜産生産部部長 研究開発、海外事業で国内畜産支える2021年6月16日
畜産生産事業は海外産地での飼料穀物原料の集荷から国内生産者への配合飼料の供給、生産者への最新技術の提供と畜産物の販売まで一貫した取り組みで生産基盤を支えている。今年度の重点事業について由井部長に聞いた。
由井琢也 畜産生産部部長
輸出増へ和子牛の増産
--畜産生産の基盤を支える今年度の主要な事業は何でしょうか。
事業計画に掲げられている事業の一つにシンクロET(受精卵移植)の拡大があります。これは中小の畜産農家を中心に生産基盤を支えていく事業の1つで、1週間前に人工授精した繁殖和牛から受精卵を採卵し、その受精卵を採卵日と同日中に他の牛に移植するET技術です。
採卵した受精卵を凍結してから移植すると受胎率が落ちてしまうため、採卵と移植のタイミングを発情同期化によって同じ日に合わせることで受胎率を上げ、生産者の所得向上につなげようという取り組みです。ETは乳牛を借り腹として和子牛の増産も図っていますから、酪農家の所得にもなりますし、将来的には和牛の輸出拡大にもつながっていくでしょう。
この事業は地域の協力がなければできませんから、JAや周囲の獣医との連携によって活動を強化しています。昨年は新型コロナ感染症拡大の影響もあって苦戦した面もありましたが、2年度は2900個の受精卵をシンクロETで移植し、3年度は3000個を目標としています。
一方、養豚では生産性向上のためには母豚1頭あたりから産まれる子豚、そして育成した肉豚の数をいかに増やしていくかが課題です。そのためには育種改良が欠かせませんからハイコープ種豚の改良に力を入れています。
北海道の上士幌町に種豚育種研究室があり、ここで今、豚舎を増築して飼養頭数を増やし改良のスピードを上げていこうとしています。今年11月以降、海外から新たな遺伝子を導入しながら育種に取り組みます。
当然、量だけではなく、肉質も大事になりますから、とくに豚でも筋肉間脂肪を増やすことによって、より柔らかくておいしい豚肉につながるような育種を考えています。
また、豚熱や鳥インフルエンザが猛威をふるいましたから、やはり予防衛生が非常に重要だとの認識のもと、家畜衛生研究所を中心としたクリニック事業を通して予防衛生にも引き続き力を入れて取り組んでいきたいと思っています。
農場経営で地域支える
畜産は非常に初期投資がかかりますから、新規に就農したい人や規模拡大したいという生産者がいてもなかなか取り組めないという問題があります。そこでわれわれは畜舎賃貸事業を行っていますが、これには引き続き県本部と一体となって取り組んでいきたいと考えています。
さらに今年度は地域の生産を補完していくという意味で、子会社も含めて全農自ら農場運営の拡大に取り組もうとしています。とくに今、力を入れているのが乳肉複合の大規模農場です。基本的には搾乳して生乳を出荷しながら、先ほど紹介したET技術を使って和子牛を増産していくという農場です。今年度中には具体化する見込みです。
その農場は搾乳ロボットを活用した超省力化モデルとして運営し、その実証を通じて家族経営の支援もしていこうと考えています。
--配合飼料の原料の調達など海外事業の現状と今後の取り組みは?
われわれは海外の飼料原料の輸入から国内での配合飼料の製造供給、さらに生産者が生産した畜産物の販売まで一貫したバリューチェーンを持っていますから、単なる配合飼料の供給にとどまるのではなく、最終的に生産される畜産物を販売して生産者の所得が確保できるわけですから、そこを理解する必要があると考えています。
そのために全農グループの配合飼料メーカーの役職員が畜産物の販売会社で働くなどの人事交流に積極的に取り組んでいます。やはりこれからは生産と販売が一体となって生産者を支えていく、そういった仕組みを強化しようということです。全体のバリューチェーンを理解したうえで生産者に対応していくという体制が今後必要になってくると考えています。
飼料原料の情勢ですが、直近の穀物価格はほぼ10年ぶりに高騰しています。その背景にあるのは需要の伸びです。とくに中国です。これまで輸入量は少なかったトウモロコシを昨年の夏以降、大量に買い付け始めました。
かつて日本は年間1500~1600万tのトウモロコシを輸入し世界一の輸入国でした。それが北米自由貿易協定(NAFTA)の影響もあってメキシコがかなり米国からの輸入量を増やして、今はメキシコが日本の輸入量をやや上回って、日本は2位になっていますが、そこに中国が昨年の後半から突然、大量の輸入をし始めました。
今年度の中国の輸入見通しは2600万tです。それまではせいぜい500~600万tでしたから、日本とメキシコを一気に抜いて世界一に躍り出てきたということです。
そのために相場が上がっているということがありますが、基本的にわれわれは全農グレインを中心に集荷基盤と輸出能力を増強しましたし、昨年は穀物メジャーの1つ、バンゲ社が持っている内陸の集荷施設の買収に合意しました。この件は、今後数ヶ月以内に当局からの承認も得られる見込みになっており、いよいよわれわれのパイプラインの一部になってくるということです。
こうした取り組みによって海外ではトウモロコシなど飼料原料について買い負けない体制ができており、全農グレインが中国など世界の需要も取り込みながら販売しながら、いざというときには日本向けを必ず優先的に確保できる体制ができています。つまり、海外で売り負けない、買い負けない体制ができていると思っています。今年度の全農グレインの販売数量はおそらく2000万tを超える見通しです。これまでの記録は1600万tほどですから2割強増えることになりますが、それだけ需要が増えてもきっちり売ることができ、それは日本にしっかり安定供給できる体制でもあるということです。
またブラジルの子会社では、昨年8月末に1つのバースから2つのバースで積み込めるように輸出エレベーターを拡大し能力が倍増しています。内陸はもともと6機のカントリーエレベーターで集荷していましたが、7機目の工事がほぼ終わりました。
カナダではカナダ企業との合弁会社FGT社(フレイザー・グレイン・ターミナル)が西海岸のバンクバー近郊で新たに建設していた輸出エレベーターが、昨年12月に船積みを開始しました。小麦、大麦、なたねの集荷と輸出が中心ですが、飼料原料としても供給されています。
初の合弁飼料会社が稼働へ
国内の配合飼料事業では一昨年4月に設立されたホクレンくみあい飼料と雪印種苗の合弁会社、ホクレンくみあい・雪印飼料の工場が11月に完成する見通しになっていますから、いよいよ年末には製造が開始されることになります。
これまでは系統の資本だけで飼料工場を運営してきたわけですが、初めての商系メーカーとの合弁会社です。他の地域でも老朽化した工場が残っており、将来的には更新投資が必要になってくると思いますが、大規模な投資額になります。単独でそうした投資をしていくのが生産者のためになるのかという点で考えると、商系との合弁など今回のような取り組みを通じていかにコストを抑えながら配合飼料を供給し続けるかが大きな課題になってくると考えています。
ある意味では系統の配合飼料事業として大きな一歩を踏み出したということだと認識しています。今後もこういう取り組みを進めていければと考えています。
--畜産生産部として今後めざすものは何でしょうか。
飼料原料は8割以上を輸入に頼っているのが現状ですから、先ほども触れたように買い負けないということが大前提になります。そこは海外の産地をしっかり抑えることによって、国内の生産基盤を支えていかなければならないと考えています。
また、今後の事業展開を考えていくと耕種との連携も大事になってくると思います。畜産はどうしても糞尿問題がありますから、本会グループが技術開発し特許を取得した糞量低減飼料の普及に加えて、たい肥を使った飼料米の生産など、SDGsが重要視されているなかで循環型の耕畜連携に取り組んでいかなければならないと考えています。また、事業部内では生産と販売が一体となった取り組みをますます強化することによって生産者を盛り上げられるようにしていきたいと思っています。
(ゆい・たくや)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。1986年入会、畜産生産部海外事業課長、全農グレイン副社長兼CFO、畜産生産部次長などを経て2019年から現職。
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