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JAの活動:JA全農部長インタビュー「全力結集で挑戦 未来を創る-2021年度事業計画」

【JA全農 部長インタビュー 2021年度事業計画】深松聖也 酪農部長 需給調整機能を強化し生産基盤を確立2021年6月18日

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生乳生産は3年連続で増産となる見込みだが、コロナ禍で業務用需要が低迷しているなど、需要拡大が課題となっている。酪農部の今年度重点事業について深松部長に聞いた。

深松聖也 酪農部長深松聖也 酪農部長

酪農の幅広い機能を重視

--酪農の特性とそれをふまえた酪農部の役割について改めて聞かせてください。

酪農は通常では食用に利用できない資源を食料に変え、家畜からの堆肥を地域に供給したり、逆に地域資源を飼料に活用するなど、循環型サイクルを形成して発展してきました。それは持続的な食料システムの構築の実現に貢献しています。

また、寒冷地や中山間地域でも営むことができる農業であり、景観の維持や、生乳を加工する施設が必要なことから雇用を生み出すなど地域活性化にも貢献しています。さらに家畜を通じて命の尊さを学ぶなど食育にも貢献しており、非常に幅広い機能があります。

酪農部はこうした機能を持つ酪農を永続的に続けられるための役割の1つを担っていると考えており、本会の掲げる5つの最重点事業施策それぞれに直接、間接に関わる事業をおこなっていると考えています。

中でも事業の柱は全国的な需給調整機能を活かした生乳・乳製品の販売です。これをしっかり強化して、ある地域に生産や需要が偏在するという特性や、腐敗しやすいという特性をふまえて、日々しっかりとコントロールしていく。それが生産者の所得向上と酪農経営の安定につながり、乳業の健全な発展にもつながって、ひいては国民の食料の安定供給につながると考えています。

需要拡大で生産基盤維持

--コロナ禍で酪農乳業界にはどんな影響がありましたか。

昨年は3月から学校給食が休止になり1日1,900tもの生乳が行き場を失うことになりました。一方、生乳生産は4月から5月にかけて年間で最も乳量が増えていく時期ですから、生乳廃棄の懸念がありました。

しかし、もともと酪農乳業界は台風や豪雨、地震といった自然災害に対してミルクサプライチェーンがしっかりと機能し、指定団体が中心になって毎日生産される生乳を合理的かつ効率的に供給と調整をし、われわれの広域的な調整と合わせて需給調整をしてきました。

こうした経験をいろいろな環境のなかで積んできましたから、今回、コロナ禍で学校給食が止まるという事態でも、生乳を廃棄することなく処理を仕切ったということです。

欧米では毎日数百トンの廃棄をせざるを得なかったわけですが、国内では国のプラスワンプロジェクトや指定団体などによる消費拡大の支援も含め、ミルクサプライチェーンがしっかり機能しているということであり、これは生産者にとっても、国民にとっても非常に価値があると評価されると思います。

ただ、一方では業務用の牛乳乳製品の需要はいまだに低迷したままです。せっかく国内の生乳生産が増加に向けて動き始めた矢先に、ここでまた生産意欲を減退させるような事態を生じさせるわけにはいきませんから、脱脂粉乳、バターといった保存できるものに処理しなければなりません。そこは北海道だけでなく、私どもが出資している乳業会社も活用してしっかり処理仕切るということをやってきています。

今問題となっているのはコロナ禍により脱脂粉乳、バターがこれまでになく在庫過剰になっていることです。国による国産乳製品の需要拡大に対する支援、具体的には、飼料への転用や輸入品との置換えに掛かるコスト負担等への支援、また、ホクレンも同様の対策を実施しており、本会としてもこれらが奏功するように飼料会社での飼料用原料としての活用、乳製品ユーザーへの国産乳製品との置換えの推進にまずは全力で取り組んでいますが、一方で根本的な需要回復は不透明な状況です。

生乳生産は回復の兆しが見えて、しっかりと基盤を作ろう、量を増やそうということから、令和2年には5年に1度策定される酪肉近(酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針)で生産目標として10年後に全国で780万tを目指そうということに業界でも一致し、国がその方向を示しました。

その矢先のコロナ禍ではありますが、しっかりと国内生産の基盤を維持するという方向は変えてはいけないと思っています。そのために需給を安定させることが重要であり、われわれも事業のなかで需要拡大にも取り組んでいかなければならないと考えています。

--具体的にはどのような事業が重点になりますか。

最重点事業施策の「生産基盤の確立」でいえば、酪農部としては、生産基盤に合った需要基盤をしっかり確保することが必須であると思っています。需要基盤がしっかりあってこそ、そこに向けて生乳を継続的に販売していくことが可能となります。特に、飲用向けの需要基盤をしっかり確保することが、酪農部の事業の使命であると考えています。また、需要基盤を確保することと同時に、厳しい環境下にある物流の整備も含めて、需給調整機能をさらに強化することが重要だと思っています。

その点では業務用牛乳の販売低迷への対応が重要だと考えています。オフィス需要が減少しインバウンド需要が喪失する中、缶コーヒーやペットボトル飲料に使っている業務用牛乳の需要は例年の8割程度まで落ち込んでいます。

今後、新製品等に積極的に業務用牛乳を使用してもらうよう、より安定的な供給に努め使用しやすい原料として需要の拡大に取り組んでいきたいと考えています。そのために、あらためて生産者団体・乳業・輸送業者と一体になって供給体制を整備していきます。それが生産者の所得や、将来の需要につながるものと考えております。

乳業再編で地域貢献も

「元気な地域社会づくり」と「JAへの支援強化」」については、最初に申し上げたように酪農は地域に貢献できる産業であるということです。その点を酪農部の事業としても考えています。

酪農は多くの人が関わって成り立っている産業です。酪農家の周りにはJAのほか、獣医師や飼料、農機会社、集送乳を行う輸送会社、堆肥の販売などで連携する耕種農家、さらに地域の行政など非常に多くの人が酪農経営に関わって経営が成り立っています。そしてその先には指定団体やわれわれの需給調整・販売機能そして乳業があるわけです。

こうしたなかで、地域のJAも集乳や営農指導などで今後もしっかりと対応していかなければなりません。ただ、酪農家戸数の減少もあり組織体制づくりが難しくなっているのが現状だろうと思っています。われわれも酪農に特化した事業を行っているなかで、情報発信や現場での対応にも今後はいろいろな形で関わっていかなければならないと考えています。

とくに地域には農協プラントがありますが、そこが地域の生乳を牛乳や乳製品として処理し販売していくことに難しさが出てきているなか、われわれが販売面や工場の運営面などのサポートをしていきたいと考えています。それは結果的に地域のプラントを業務用牛乳の出荷工場として協力してもらうことで、需要拡大にもつなげていくことになると考えています。

これに関連することとして、子会社の東北協同乳業(株)が震災から10年の節目の今年、福島県内の福島県酪農業協同組合の子会社の酪王乳業(株)と10月に合併することが決まりました。南東北の重要な製造・販売の拠点として、生産者が安心して今後も酪農が継続できるように2社の強みを活かすとともに、統合することによって合理化を図り生産者と地域に貢献する会社として立ち上げます。

JA系統と専門農協系統の乳業が合併するのは全国的に珍しいことですが、地域の酪農を発展させていこうという思いで合致しました。

4月から酪農部には生乳流通対策室を設置しました。このような乳業の再編や販売での本会部門間の連携、農協プラントなど関連組織との窓口となって対応していきます。

それから協同乳業(株)による「農協牛乳」の販売にも力を入れています。生産者の思いを消費者につなげる製品として農協牛乳をもう一回活性化させたいということです。新製法での牛乳づくりや産地の思いをつなげ、酪農の理解醸成の取り組みにもつながります。

このように乳業と連携した事業展開にも力を入れて、飲用向けの需要を確保するため、われわれとして販売を強化していきたいと考えています。

その際、横串を通すという意味で農協シリーズという視点で「農協たまご」や「農協ごはん」なども含めて生産現場の思いを伝えられるようなものとして営業開発部と連携して販売面での協調も図っています。

また、eコマースにも取り組んでおり、昨年10月にJAタウンの中に「酪市酪座」を開設しました。バターなど乳製品の商品を販売するだけでなく酪農の理解醸成につながる情報発信のツールとしても成長させていきたいと思っています。

--「海外戦略」にはどう取り組みますか。

国内生産をしっかり維持するため、酪農部としても価値を高めたブランド力を持ったものをしっかり海外に輸出していくことはこの先重要だと考えています。現在、生クリームで台湾等に輸出のパイプを作っています。また他の品目や地域に対しても商談を進めているところです。将来、日本の人口は減少していきますが、世界的には増加していきますから、しっかり国内で生産を確保していくためにも、国内の需要拡大と需給調整機能の強化はもとより輸出も視野に入れ準備をしておく必要があると思います。

--酪農部がめざすことは何でしょうか。

全国規模でものを見るということだと思います。それぞれの地域でそれぞれが酪農や乳業を守りたいと考えて行動するのは当然のことですが、日本全国で考えて、いちばんの最適化は何かを考える視野に立って、それを守るために行動するのがわれわれの役割であり、「競争」ではなく「協調」であることを事業のなかで発信していくことが大事だと強く思っています。

(ふかまつ・せいや)
1967年3月生まれ、長崎県出身。鹿児島大学大学院農学研究科修了。1992年入会。名古屋支所、大阪支所、本所酪農部次長を経て2020年4月から現職。

JA全農 部長インタビュー2021年度事業計画

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